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楯無明人/【デウス・エクス・マキナ】④

「運命を変える!!」



 親父のその言葉が開戦の合図となった。



「雑魚はあたしらに任せろ!」


「こやつらを倒したらわしらもすぐに合流する!」



 魔物たちの相手は仲間たちに任せ、親父と母さん、俺とカヤの四人でサイナスと相対する事になった。



「アキト、俺が攻めている間【慧眼】であの背後の機械の能力を看破してくれ」


「出来るかどうかはわからねぇが、やるだけやるさ。親父も気を付けろよ」


「お互いにな」



 俺たちが作戦会議を終えた後、得体の知れないユニークスキル【デウス・エクス・マキナ】を背後に発現しているサイナスが言う。



「出来過ぎだな」



 それにグラムを抜刀している親父が返す。



「……何がだ?」


「始まりの二人であるシグルド・オーレリアとローゼリア・ステルケンブルクが敗れ、その子である少年が私の前に立ちはだかった。更になんの因果か、その少年は私の祖国が存在する世界の出身だという……まるで御伽噺だ」



 俺は気を緩めずにそれに答える。



「あぁほんと、出来過ぎだよな色々と。でも良いのか? 勇者とラスボス、王道的には勝つのは俺たちだぜ?」


「運命は既に決定されている。神である私が敗北するなど有り得ない」



 次の瞬間、親父が一瞬で間合いを詰めて魔剣グラムで斬りかかった。サイナスはその一撃を背面の巨大な機械【デウス・エクス・マキナ】の右腕で防いだ。



「ほぅ、定められた運命に抗うか」


「変えられない運命など、有りはしない!」


「では貴様達の全てを賭して変えてみせると良い。すぐにそれが無意味なものであった事を悟るだろう……やれ、マキナ」


「っ!?」



 親父が不可視の衝撃波に吹き飛ばされ柱に叩きつけられた。



「ぐっ!?」


「親父!!」


「っ……問題ない。敵の観察を怠るな。アキトは前だけを見ていろ。……配置転換!!」



 配置転換は自らの魔力を宿したアイテムと自身の位置を入れ替える術式。親父はそれを用いて再びサイナスの前に転移してに斬りかかったが、再び機械の腕に阻まれてしまう。



「滑稽だなシグルド・オーレリア。今の貴様と私では圧倒的な力の隔たりがある。それが理解出来ない男でもあるまい?」


「理解しているつもりだ。二十年前ですらあの様だった。真の力とやらを解放した今のお前に勝つ事は簡単なことではないだろう」


「それを理解していながら、なおも抗うとは……理解に苦しむな」



 サイナスの言葉に対し親父はグラムに魔力を込めながら答えた。



「俺はこれからも抗い続けるさ。それが茨の道だとしても、血反吐を吐く程の困難が待っていたとしても、諦めてしまったら運命は決して変えられないからな! ゆくぞグラム!!」



 親父がグラムに同調させたのは【絶対零度】という氷属性で最強のスキル。その氷刀の斬撃により【デウス・エクス・マキナ】が瞬く間に凍結した。



「っ……小癪な真似を!」


「ロザリー!」


「そう来ると思ってたよ!! 砕け散れ!!【上級地属性魔法】……ストンスタンプ!!」



 母さんが出現させたのは巨大な石像。その足で凍結状態の【デウス・エクス・マキナ】を砕く算段だったのだが、紙一重の所で分厚い氷を割りながら出て来た右腕に防がれてしまう。



「無駄だと言ったはずだ」


「足元がお留守だぜ! 神様!!」



 俺は一瞬の隙をついてフィクサで攻撃するも【デウス・エクス・マキナ】の左腕に阻まれた。フィクサに宿る『沈静化』や『脆弱化』を上乗せしても傷一つ付かないなんて……心折れそうなんだが。



「ちっ、硬いなそれ!!」


「ヤーパンの少年。次は貴様の番か?」


「あぁ、俺たちの番だ。出ろ、幻影剣! 三光!!」



 俺は自律行動する光の剣を三本出現させる。


 俺の背後に浮かぶ三本の剣は機械の左腕目掛けて同時に攻撃を開始。サイナスの【デウス・エクス・マキナ】の左腕と衝突した。



「何をするかと思えば、魔力の剣か。その様な子供遊びの武器で……っ!?」



 ピシッと機械の左腕にヒビが入った。この『三光』はそれぞれフィクサと同等の能力が宿っている。一本でダメなら四本で攻めるだけだ!!



「貴様……! その光の剣にも私の武具の力を込めているのか!?」


「神様なら見抜けると思ったが、力の差があるとつい油断しちまうのは神様も一緒らしいな! 集え三光!!」



 俺は三本の光の剣を一本に束ね、宙に浮く大剣に可変させた。



「百花一閃・菊一文字!」



 俺の背後で実体化した大剣の一振りが【デウス・エクス・マキナ】の左腕を斬り落とした。



「くっ……よもやマキナの左腕を斬り落とすとは……。だがその技、刹那の反動があるらしいな」


「あっはは……やっぱり見逃してくれねぇよな」


「まずはお前からだ、ヤーパンの少年」



【デウス・エクス・マキナ】の右腕が俺を串刺しにしようとしたその瞬間、俺の目の前に魔術壁が出現した。


 その魔術壁を出したのはカヤだ。


 サイナスは気付いていない。


 カヤが出現させたのが『消滅の楯』だということに。あれに触れたものはどんな物質でも消滅させることが可能。カヤが編み出した最強の魔術壁だ。



「幼き錬金術師よ、その程度の魔術壁でマキナの攻撃が防げると思っているのか?」



 サイナスの【デウス・エクス・マキナ】がカヤの消滅の楯に攻撃を加えようとしたその瞬間……サイナスが攻撃を中断させた。



「……消滅の楯か。面白い発想をする」


「なっ……!?」



 バレた!? 俺の【慧眼】でも注意深く観察しないと普通の魔術壁と区別がつかないのに!? それを初見で看破したってのか!?


 サイナスは小さくため息を吐いて呟く。



「小賢しいことをする。今一度言おう。貴様らがどの様な小細工を弄しようが、神であるこの私の前では無駄な事だ」



 その次の瞬間、カヤの『消滅の楯』がフッと消えてしまった。


 それに一番驚いているのはカヤだった。



「消された!? 一体何が……?」


「幼き錬金術師よ。貴様の力では、この私を止めることなど」



 その時、俺のすぐ脇を『感知出来ない透明な矢』が通り過ぎた。



(あれはリーヤさんの! よし、あの様子じゃサイナスは気付いてねぇ!!)



 その透明な矢はサイナスの腹部を正確に捉え……着弾の直前に消滅した。


 リーヤさんが驚きの声を上げる。



「なっ……!? あたしの矢が消えた!?」


「視認出来ないだけではなく、宿した魔力も感知出来ないとは。面白いことを考える。この私を持ってしても反応することすら出来ないとはな」



(反応出来ないものを無力化だって? どういう仕組みだ……? いや、考えてたって答えは出ない。なら、俺は俺に出来る事をやるだけだ)



 俺がモルドルさんにサインを送ると、モルドルさんがサイナスの頭上に転移し魔槍を振り下ろした。俺がリンクさせていた『配置転換』を用いたタイムラグ無しの転移はサイナスの虚を突くことに成功した。



「貴様も転移が……!? ヤーパンの少年の仕業か!?」



【デウス・エクス・マキナ】と黒色の巨大槍が衝突。バッファーの俺の力を譲渡し、バルムンクの威力は数倍に跳ね上がっている。



「無駄口が過ぎたな。叩き潰す!!」


「ぐっ!? これほどの力がバルムンクのどこにあるというのだ!?」


「バルムンクは爆ぜたりしない。凍結させたりもしない。ただ力で圧倒するのみだ。おぉおおおおおっ!!」



 バルムンクが【デウス・エクス・マキナ】を粉砕し、俺たちの勝利は確定的となった。


 が、なんだ……?


 勝ったっていうのにこの胸騒ぎは……?

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