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ローゼリア/放たれた魔導兵器

 ――新緑の町、レコン。


 四方八方が森に囲まれ、町を北から南へ縦断する様に川が流れている自然豊かな町で、自然をこよなく愛す長寿の一族『エルフ』が多く住んでいる。魔導都市マギステルが勢力を拡大するまではここカルナスにおいて最も大きく、最も多くの人口を抱えた町『だった』。



「うそ……なにこれ……」



 目の前の光景は悲惨なものだった。


 何か巨大な飛来物が落下したのか、町の至る所にクレーターが形成されている。その被害に多くの建物が巻き込まれたらしく、町の隅には寄せ集められた木くずなどがうず高く詰まれている。


 そして、町の西側には膨らんだ土に木杭が刺さっている場所があった。

 

 少なく見積もっても100はある。


 

「ねぇリーヤ、一体レコンに何が……」


「……マギステルの仕業さ」



 リーヤは視線を前に向けたまま静かにそう口にした。



「こんなのって……シルフィーはこの惨状を?」


「いや、伝えてない。シルが知ったらショック死するだろうからな」



 確かに、この光景はシルフィーには見せられない。あの子、緑豊かなレコンが大好きだったから。



「ロゼ、あたしは3人がこの町に滞在できるようにじじいに話をつけてくる。すぐに戻って来るからここでちょっと待っててくれ」



 リーヤは私たちにそう言い残して去って行った。


 その後ろ姿を見てロウリィちゃんが言う。



「マギステルの仕業ってことは、これ全部、魔導兵器……ですよね?」


「そうだと思う。でもこんなことって……」



 私は今一度、レコンの町を見渡す。


 小さい頃に3人で遊んでた川は巨大な岩で上流から堰き止められている。かくれんぼをしていた馬小屋は跡形も無く吹き飛んでおり、生々しい血の跡がくっきりと残されていた。


 

「あれ? シグルド?」



 シグルドは例のお墓の前でしゃがんで静かに手を合わせていた。私が横から声をかけると彼はそっと立ち上がってこちらを向いた。



「ローゼリア……何故、争いが無くならない?」



 そのシグルドの表情は一言では言い表すことが出来ないものだった。悲しんでいるのか、怒っているのか、同情しているのか、あるいは全部なのか。



「どの世界でも同じだ。罪のない人間が死ぬ。武器を持っていなくても、死ぬ。平和だった場所は一夜にして火の海に変わり、そこでも大勢の人が……死ぬ。そんな世界は……間違っている」


「あたしもそう思う」


「リーヤ……」



 戻って来たリーヤがシグルドの隣に並んで言葉を続ける。



「何故だ……何故こいつらが死ななきゃならなかったんだ?」



 リーヤが一番左のお墓を指差して言う。



「カミルは人懐っこい奴でな、心の底から平和を愛していた。その隣のミースは先月10歳になったばかりだった。良い顔で笑う奴だった……もう、あいつらを見る事は出来ない」



 シグルドはお墓を順番に眺めてからリーヤに問う。



「……馴染みか?」


「あぁ。みんな、あの白い光にやられた。あたしは魔導兵器が……マギステルが、許せねぇ……!!」


「……リーヤの気持ちは、よく分かる。気休めじゃない。俺も沢山失ってきたからな」


「お前……」



 シグルドはリーヤに対し静かに頷いて再びお墓に体を向ける。



「馴染みの人の墓に相対するといつも、自分の弱さを思い知る。ついさっきまで笑い合っていた人間が死んだという現実から逃げようとする自分が心底……嫌になる」


「……残された奴の気持ちは同じか。やっぱ、つれぇよ」



 ――空が眩く光ったのはその時だった。


 閃光弾が炸裂したかの様に辺りが一瞬白に包まれる。



「なにこの光!?」


「上か……」



 シグルドが空を見上げると同時にレコンの人々が一斉に騒ぎ出した。



「く……くる!? またアレが!!」


「あなた! 早く隠れないと!」


「隠れる所がどこにある!? 終わりだ……俺たちはマギステルになぶり殺されて終わりなんだ……」


「お父さん! お母さん! 怖いよぉ!!」



 ロウリィがこちらに駆けてくる。



「ローゼリアさん! シグルドさん! リーヤさん! 何かが落ちてくる気配がします!」


「くそが……またかよ……マギステル!!」



 リーヤの怒号が空に響き渡るのと同時にシグルドが右手を空に掲げる。



「おい!? 何やって」


「俺が止める」


「止める……だと? 相手は魔導兵器だぞ!? それもこないだの比じゃねぇ! 町を消し飛ばす程の威力はある!!」


「だが、何もしなければ死ぬだけだ」


「シグルド……お前……」


「俺はもう仲間を死なせたくない。これ以上自分を嫌いになりたくないんだよ。リーヤ、見ていろ。これが俺の力だ。奪うための力じゃない、守るための力だ」



 シグルドは右手に込めていた魔力を解き放つ。



「【女神の加護】……出ろ、イージスの盾」



 レコンの町の直上に、町を覆う程の巨大な金色の盾が出現した。



「……3人とも、衝撃に備えろ」


「分かりました! 町の皆さんも伏せて下さい!!」


「早く伏せて! 近くの人と寄せ合って!!」


「てめぇら! 伏せろ!!」



 私たちの合図で周囲の町民全員が伏せた。



 ――そして訪れる着弾の瞬間。



 キィンという耳鳴りの様な音に紛れてシグルドは静かに呟く。



「アニエス、キール。見ていてくれ……そして、俺に力を貸してくれ。皆を守る力を……!」



 次の瞬間、凄まじい爆発音と爆風が辺りを包み込む。


 そして、10秒もしないうちに全てが幻だったかのように辺りは静かになった。



「止んだ、の?」



 私が顔を上げるとシグルドが自分の腕を見つめて立っていた。



「なぁ……今度こそ、お前の夢を叶えよう。この力を使って……今度こそ」



 シグルドは静かに拳をギュッと握った。

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