シグルド/砂漠と新緑の大地・カルナス
ミザエルから転移して訪れた次なる大陸。
――その名は、カルナス。
始まりの大陸ミザエルは緑に富んでいたこともあり、この世界はどこもかしこも自然に溢れているものだという認識があった。
だが、眼前のこれを見せられてはその認識を改めなければならない。
「ここが、砂漠と新緑の大地、カルナス。別名、『死に逝く大陸』だよ」
ローゼリアが虚しそうな声色でそう言った。
俺の眼前には丁度砂漠と森林の境界線が真っ直ぐに伸びており、左側は砂漠、右側は森林と気味が悪いくらいにはっきりと分かれている。
表裏が一体になった様なその光景を見て『生と死』を連想する。
「これは……自然現象か? それとも、人の手によるものか?」
「残念だけど、後者だよ」
「人が自然を壊したというのか? 何の為に?」
ローゼリアは言葉少なげに右へと歩み始め、俺とロウリィはそれについて歩く。
そのまま森林の方へと歩を進めながら、彼女がぽつりと呟く。
「この大陸には『魔導兵器』っていうのがあってね。それが全ての元凶なの」
「その魔導兵器とは?」
それにロウリィが答える。
「魔導兵器というのは自然の源である『マナ』を動力に制圧を行う兵器の総称です。ここ数年で急速に発展し始めて、この大陸はこの有様となりました。元々はミザエルにも負けるとも劣らないほど自然に溢れていたんですけどね」
「たった数年で……この有様だと?」
「驚かれるのも分かります。でも事実なんです。今この時も砂漠化は進行し、あと数年もしないうちにこの大陸のマナは枯渇すると言われています。死に逝く大陸の異名は、ここから取られています」
俺は来た道を振り返る。
数十メートル先のある地点を境にそれ以降が全て砂の大地と化している。
そして、その砂漠化は今現在も徐々にこちらに向かって進行しているらしい。
「解せない。何故それ程の代償を払ってまでその魔導兵器の開発を?」
俺のその疑問に答えたのは悲しげな表情で辺りを見渡していたローゼリアだ。物凄く単純なことだと前置きした上でこう答える。
「準魔剣の件を抜きにしたってこの世界には争いの種はいくらだってある。地位、名誉、お金、軍事力。奪える物はいくらでもある。そして、奪えるということは、同時に奪われるってこと。力無き者は搾取されて当たり前だというのが、魔導兵器を開発している『魔導都市マギステル』の考え」
――魔導都市マギステル、そこが全ての元凶か。
「悲しいな、力は奪うためにある物ではないというのに」
「みんなマギステルの考えが間違っているって思ってます。ですが魔導兵器には超長距離射程を有する物もあります。つまり、マギステルが魔導兵器を所有している以上、誰も逆らうことは出来ないんです。異を唱える為に都市に乗り込んだ者も少数いますが誰1人帰っては来なかったと聞きます」
「力による支配、か。魔導兵器とは、それほどまでに強力な兵器なのか?」
それにローゼリアが答える。
「大陸をこれほどにしちゃうエネルギーを溜めこんでる兵器だからね。最高峰の魔導兵器は魔剣をも凌ぐって噂があるくらいだよ。だからこそ、溺れるのかもね、その力に」
――変わらない、何も。
なぁ、キール……この世界も、優しい世界には程遠いようだ。
「これもまた、看過できない問題だな」
「解決していく?」
「あぁ、と言いたいところだが、準魔剣の一件がある以上、必要以上の寄り道は……!?」
背中に悪寒走った。
この気配は……まさか……。
「ロウリィ!」
俺は地図を出しているロウリィを呼ぶ。
「あ、はい! どうしたんですか急に大声出して?」
「あっちの方角には何がある!?」
「あっちですか? えっと北西、ですね……え、北西?」
ロウリィは地図を見ることなく答えた。
「この転移門から北西には、魔導都市マギステルがあります」
「マギステル……魔導兵器を所有している都市か……」
そのやり取りにローゼリアが加わる。
「ちょ、シグルド? どうしたの?」
「準魔剣の気配がする」
「え、マギステルから?」
「あぁ。それも、1つや2つではない……なるほど、これはやはり看過できない問題のようだな」
第3章……砂漠と新緑の大地・カルナス編、開幕
こんにちは、天月秀です。
今作から第3章の開幕です。
次なる大陸カルナスを舞台にアキト&シグルド両パーティが冒険します。
余談ですがブクマ数が2桁いって嬉しいです。
ご期待に添える様に頑張ります!




