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ロウリィ/愛の伝道師②

 話は本題へと戻り、カトレアちゃんの恋の相談へ。


 まぁ私はいつもここにいるからおおよそ把握できてるんだけどね。


 カトレアちゃんはアルトさんに端的にこう告げた。



「あの私、好きな人がいるんです」



 お酒に酔ったアルトさんとて、娘の恋愛相談は真剣に聞くらしく、興味津々といった様子で頷く。



「分かる、分かるぜカトレアちゃん。君からは恋する乙女の気配がしてたからな。誰かのために綺麗であろうという気概が溢れていた。娘じゃなきゃ惚れてるぜ」


「アルトさん、話が進まないので」


「おっと、すまねぇ。話に戻ろうか」



 うん、この人はほんとぶれない人だ。


 カトレアちゃんはこの恋愛相談の主題を端的に述べた。



「好きな人がいるんですけど、少々困っておりまして」


「ほう?」


「私以外にもその殿方の事が好きな人がいたりして」


「恋のライバルってところかい?」


「はい。二人とも魅力的な子たちなので、どうすればその子たちに勝てるのか分からないんです」



 そのライバルの中にはもう一人の娘が含まれている事を知らないアルトさんは、のんきに肩をすくめて嘆いているポーズをとった。



「やれやれだな。超絶美人のカトレアちゃんに真っ向から勝負を挑もうたぁ、なかなか度胸のある女の子じゃねぇの」


「それが……その一人は、カヤさんなんです」


「…………お?」



 アルトさんは唐突にピタリと固まった。


 固まったアルトさんは目をごしごしやったり髪をがしがし掻いたりした後、冷や汗をかきながら口を開く。



「おいちょっと待て……ここまでを一旦整理するぜ? カトレアちゃんには好きな人がいて、更にその男のことを、カヤちゃんも好きだってことなのか?」


「そういうことです。更にはウィルベルさんもそのライバルの一人です」


「あの聖槍使いの猫耳天使殿もか!?」



 猫耳天使殿……確かに本気のウィルベルは天使に他ならないけども。


 アルトさんは動揺を隠せない様子でカトレアちゃんに問い返す。



「だ、誰だ……その俺様の娘二人と猫耳天使殿に好かれるなんて偉業を成し遂げた最高に幸運な男は!?」


「アールートーさん、また話が逸れちゃってますから。お相手の事は気にせず、今は彼女の悩みを聞いてあげて下さいよ」


「ん、お、おう。そ、そうだったな」



 明らかに動揺している。娘に好きな人がいるって聞かされた父親ってこんな感じなんだ。


 アルトさんは数度深呼吸をしてからカトレアちゃんに向き直った。



「どうすりゃそのライバル達に勝てるのかって話だったな。答えは単純さ。押して押して押しまくれ、それに限る。きっとカトレアちゃんの大きな愛がまだ届いてねぇのさ」



 カトレアさんはきょとんとした表情で首を傾げる。



「えっと、それがですね、アタックと呼べるようなことは一通りやってきたのです。密着したり、デートに誘ったり、告白もしました。私が思いつく限りの愛情表現は一通りやって来たのですがなかなか振り向いて貰えず……」


「よしそいつを連れて来い。説教してやる」



 立ち上がった過保護なアルトさんをモルドレッドさんが取り押さえた。



「落ち着け、聖剣使い」


「放せよ魔槍使いのダンナ。こんな美女にそこまでして貰って気持ちが揺れ動かねぇなんてあり得ねぇだろ。俺ならとっくの昔にグラグラだぜ!?」



 リーヤさんが返す。



「いや胸張って言うんじゃねぇよ。その男はなんつーか、真面目なんだろ? おまけにいままでの人生で色んな女から言い寄られるなんて事がなかったんだろうよ。だからどう答えを出したら良いのか悩んでるに違いねぇ」


「かぁー、贅沢な悩みだぜ。カトレアちゃんとカヤちゃん、おまけに猫耳天使殿の心まで奪うたぁ、俺様並みに美男子なんだろうさ。美しさは罪だぜ」



 と、言いながらアルトさんは父親の様な優しい面持ちで、カトレアちゃんの頭を撫でた。



「どうすりゃ勝てるのかって話だが、君はそのままでいい」


「そのまま?」


「あぁ。カトレアちゃんは自然体でも十二分に魅力的さ。変に何かを変える必要なんかねぇ。今まで通りその幸運男殿と接すりゃいい」



 カトレアちゃんはぱちぱちとその大きな目で瞬きをした後、嬉しそうに微笑んだ。



「ありがとうございます、アルトさん。自分に自信が持てました」


「おう、それでいい。恋に必勝法はねぇ。勝つ時もあれば負ける時もあるのが当たり前。ライバルがカヤちゃんと猫耳天使殿って時点で苦戦必至。だったら精一杯燃えてみせな。不完全燃焼で終わることが一番辛いんだからな」


「はいっ! 私、頑張ります!!」



 カトレアさんは大きく頷いて、笑顔で酒場の仕事に戻って行った。


 アルトさんは満足げにグラスを傾けてから言う。



「ふぅーやれやれ、恋する乙女は道に迷うのが専売特許みたいなもんだが、その迷ってる様もまた美しいもんだぜ。いやしかし、俺様の娘たちの心を奪っちまうやつがいるとはね。よほど器がでけぇ男と見た」



(その相手ってアキトくんなんだよなぁ。それを知ったらアルトさんどうするんだろ……? イメージとしては『娘はやらん』ってなりそうなんだけど……)



 なんてことを考えていると、ミアちゃんも同じ結論に至ったらしく、本人に問うた。



「相手が誰であれ、うちの見立てじゃアルトさんは『俺の娘は絶対にやらねぇ』とか言いそうっすけど?」


「それはないぜ、赤髪鍛冶師殿。俺は仮にも愛の伝道師を名乗ってる男だぜ? 他人の恋路を邪魔する趣味はねぇよ。それが自分の愛娘たちでもな。父親として素直に応援するさ」



 それにモルドレッドさんが続く。



「それは意外だ。今までの言動を見ている限り、娘に好きな人でも出来ようものなら不安で卒倒しそうなものだが」


「不安で卒倒? するわけがねぇ。あの子たちが選んだ男なんだ。まず間違いなく良い奴なんだろうさ。だがな、ただの良い奴ってだけじゃ結婚まではさせられねぇ。俺なりの条件がある」


「結婚か、随分と話が飛躍したな。その条件とは?」


「なに、簡単な話だぜ」



 アルトさんは残りのお酒を一気に飲み干して、ばんとカウンターにグラスを置いた。



「この俺様より弱い男に娘は渡せねぇ。それと、俺の娘の心を奪っておきながら、他の女性に思わせぶりな態度を取る様な奴ならそれだけで処刑もんだぜ」


「あの、あのあの、後半全部、自分にふかぁーく突き刺さってますから。ブーメランだって自覚してます?」



 まぁひとつ言えることがあるなら……アキトくん、三分の二で茨の道っぽいから頑張ってね。

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