楯無明人/『聖女』:イリス・ノーザンクロイツ①
「で、どこ行きゃ良いんだよ……」
意気揚々と踏み出したは良いものの、早速行き詰った俺。
勘違いしないで欲しいのだが、俺なりに頑張ったのだ。まず町中を駆け回って人材紹介所みたいなところを探しだし、女性の冒険者がいないかを聞いてみた。
『ハァ……ハァ……女性の冒険者を……ハァ、ハァ……探してます……いませんか!?』
店主にくそ変態扱いされたが募集要件に引っかかる人材はいないということでNGを食らった。
次に酒場に行き情報を集めた。
こういう情報というのは往々にして酒場に集まるものだ。少なくともゲームではそうだ。
で、期待を込めて酒場に行くと丁度出てきたカヤと出くわした。
「あなたのことだからゲームと同じ様にここで情報が得られると思ったのだろうけど、浅はかな考えね。無駄足よ」
一言それだけ言い残してカヤは去って行った。いや、お前もその手の希望を抱いて酒場に来たんじゃね? ブーメランじゃね? とは言うまい。
「くそ……メンバー探しがこんなに苦労するとは思ってなかったぜ……」
ナルの時はほんとスムーズに仲間になったもんだ。その前例があったからか、探せば難無く見つかるだろうと思っていた。まぁ、それが間違いだったと早速思い知っている最中なのだが。
このままじゃ今日中の大陸渡航は諦めるしかない、のか?
「はぁ、前途多難……まるで人生の迷子になった気分だ……ん?」
あくまで俺のイメージだが、こういった時に話を聞いてくれそうな場所があったのを思い出した。にっちもさっちも行かなくなった時に行きそうなあの場所。
答えを貰えるかどうかは不明だが、何もしないよりかはマシだろう。
「……行ってみるか」
俺は踵を返して町の入口へと向かう。目的地はあそこだ。
「お、あったあった」
俺の目の前にあるのは大きな教会だ。石造りにステンドグラスのこれぞ教会だと言わんばかりのオーソドックスなデザイン。先ほどまで並んでいた列は解消されており、今なら待ち時間ゼロで入る事が出来る。
「失礼します」
現世でも教会なんて場所に行ったことが無い俺は一礼しておずおずとそこに入る。
目的は懺悔室にいる人に話を聞くこと。色々な話が耳に入っているであろうその人なら耳寄りな良い情報が聞けるかもしれないと思った訳だ。罰当たりなことかも知れないが、背に腹は代えられん。
「あのー懺悔室はどちらでしょうか?」
中には誰もおらず、俺の虚しい独り言が反響するのみ。
「もしかして、どなたもいらっしゃらないんですかねー?」
返事なし。
もしかして、俺が知らないだけで休憩時間の真っ最中だったりするのだろうか? それか、人が入ってはいけない時間だったり? だとしたらそれは流石にマズイと思い引き返そうとしたその時。
「お待ちしておりました」
女性の声が聞こえた。
耳触りの良い、澄んだ綺麗な声だ。俺は振り返るもそこには誰もいない。
あるのは、杖を持った女性の石造だけ。
この世界の神様だろうか?
「え、空耳か?」
「空耳ではありませんよ」
また聞こえた。しかし依然として声の主の居場所は分からない。
「え……もしかして……神様ですか?」
相当間抜けなことを言っていたのか、声の主はぷっ、と吹き出した。
「過分なお言葉ですね。わたくしは神ではありません。この教会の司祭を務めております」
「司祭? ってことは、懺悔室の中にいるんですか?」
「はい。今そちらに向かいますので今しばらくお待ちください」
そして数分後、その声の主の女性は俺の前に姿を現した。
「お待たせ致しました」
ギギギ、と扉を開き現れたのは金の長髪と修道服が印象的な、美人女性。
「わたくしの名はイリス。イリス・ノーザンクロイツと申します」
その女性は丁寧な所作で一礼し、聖母の様な温かい表情で俺に優しく微笑んだ。




