楯無明人/ミザエル到着
ミザエルの町は海に面しているということもあり、漁業が盛んらしい。一方で宗教的な側面も浸透しているのか、町に入ってすぐ脇に立派な教会が見受けられた。行列が出来ている辺り、さぞかし綺麗なシスターでもいるんだろうなと思いながら素通りする俺。
「この町から転移門を使って次の大陸『カルナス』を目指すわ」
先頭を歩くカヤがそう言った。
「転移門ってあれだろ? 俺がこの世界に来たときに通ったあれとか、エインヘルにあったあれとか」
「えぇ。その昔、大召喚士レミューリア様が構築したと言われている偉大な遺物よ」
大召喚士レミューリア……英雄王シグルド並みに聞く名前である。日本におけるイザナミに匹敵する人だって言ってたし、誰もが知る人物なのだろう。
「んで、その転移門を通れば次の大地に行けるのか?」
「そうよ。ただし1日に一度しか開かず、時間制限があるのよ。自ずと渡航できる人数は限られるわ」
その会話にナルが加わる。
「師匠が言うには、王族と貴族が最優先で、次点で商人、最後に冒険者及び一般市民という順番らしいっす。でも実際は、商人が第1位みたいなもんすね。王族や貴族がここにいるのは珍しいっすから」
そんな話をしていると、背後から聞いたことのある笑い声が聞こえた。
「オーホッホッホ!!」
この笑い声……振り向きたくねぇ……。
「どこの誰かと思えば、イスルギ・リサの娘、カヤとその御一行ではあーりませんか」
案の定そこにいたのはチョココロネみたいな髪型のあの女、イスルギ・マドカだった。
「……マドカ、こんな所でどうしたのかしら?」
カヤが興味なさげに返答する。真面目に相手するだけめんどくさいと思っているのだろう。
「武具の準備で訪れているのですわ。如何に最強のパートナーを連れているといっても油断は大敵ですもの」
マドカは隣に立っている全身鎧の騎士を見て言った。あの男、名前をモルドレッドといったか。奴は今イカツイ雰囲気を放ちながら荷物持ちを担当している。威厳が半減だな。
「そう、それは良い心構えね。それじゃあ、私たちは急いでいるから」
カヤはそう言って俺達を右手でちょいちょいとこっちに行くぞと促した。俺とナルはそれに付き従う様に移動を始めるが……。
「そのままではそっちに行っても無駄ですわよ」
マドカが意味の分からないことを言い出した。
「どういうこと?」
「渡航条件の変更。つい先日から、ミザエルの転移門は4人以上のパーティでしか通れない決まりになりましたの」
その言葉を聞いて改めてマドカの方を見てみると荷物持ちモルドレッドの圧倒的な存在感に紛れていて気付かなかったが、背後に弓持ちと大きな鞄を背負ってる奴がいた。
「だ・か・ら、あなた達は残念ながら、転移門は通れないということですわ」
高らかに笑うマドカを無視してナルがカヤに話しかける。
「カヤっち、それって本当すかね?」
「この場で嘘をつく意味はないわ。恐らく本当でしょうね」
そんな俺たちを見てマドカは勝利宣言さながら、自慢げに俺たちに言う。
「大人しく漁師に転職したらどうかしら? では私達はこれで。オーホッホッホ!!」
相変わらずムカつくことを言い残して去って行く女である。
「……さてと、やかましい台風が去ったところで作戦会議をしましょうか」
もはや天災扱いですか。腑に落ちるわ。
「もはや確認するまでも無いけれど、私たちは3人パーティ。渡航条件の4名以上を満たしていない。渡航条件が変更になった経緯は分からないけれど、このままでは渡航不可よ」
「ということは、仲間をもう1人増やす必要があるってことっすか?」
「そうなるわね。定石通りなら、ギルドで募集をかけるべきだけれど……」
カヤが言葉を詰まらせる。何か言いたげである。
「なんだ? お前らしくないな。何が言いたいんだ?」
「別に大したことではないわ。あ、いや……訂正するわ。由々しき問題ね」
歯に衣着せないどころか猛毒の牙で噛みついてくるような女が言い淀むなんてよっぽどな理由なのだと思ったが……。
「私、こう見えて人見知りなのよ。どこの馬の骨とも知らない人とは組めないわ。特に男は最悪ね」
「お前、いままで俺の事をどう思ってたよ」
「……馬の骨、以下?」
あの、引っ叩いても良いでしょうか?
「と、とにかく、私はすぐに人のお尻を触ろうとする輩とは組めないわ」
あーまだ根に持ってんのかエインヘルでの一件。
「じゃあさ、女性なら良いってことか?」
「百歩譲って、ね。でもマドカの様な女性なら、却下よ」
安心しろ、多分それは満場一致で却下だから。
「じゃあローラー作戦で探してみるか。転移門が開くまであとどれくらいだ?」
「あと2時間あるわ。決して十分とは言えないわね」
「でも探すしかないっす!」
「だな、1時間半後にここで落ち合おう」
俺たちは三方に散った。




