楯無明人/タナトス到着
野営を終えてタナトスに到着した俺達3人。
「うお、これまた両極端な場所だなおい……」
俺の目の前にあるのは錆びれた感じのウェスタンチックな町である。
荒野でこそないが、大きな通りに軒を連ねる様に店やら家やらが建っているのはまさに西部劇そのものである。
ってか、なんだあれ?
「さぁさぁ! 壊れた道具を何でも直すよ!」
「おもちゃ、食器、家具、何でもござれ!」
広場でそんな声を出している男たちが数人。
「なぁカヤ、何やってんだあの人達?」
「あれは『修復者』と呼ばれるクラスの人達よ。ここタナトスは『討伐』クエストをメインで扱っている性質上、武具の販売が町の収益の9割を占めていたのだけれど、魔剣戦役以降こういうことも始めたようなの」
ナルがカヤのその言葉を補足する。
「魔剣戦役の時にここで『修復者』まがいのことを善意でやった人物がいるらしいんす。片っ端から子供のおもちゃを直したり」
「へぇ、じゃあそのどっかの誰かさんが需要を開拓したってわけか。で、あの『修復者』ってクラスは何ができるんだ?」
それにはカヤが答えた。
「彼らが言っている通りよ。『物質の修復』が出来るわ」
「え、それってすごくね? 」
「まぁね。でも対象は極めて限定的よ。まず魔術の知識が無い彼らには魔力が宿っている物は直せない。砕けた魔法石とか魔導師の杖は修復不可よ」
「彼らが出来るのはほんと、日用品の修理だけっす。それでも十分需要があるから商売になってるんすね」
「なるほどな」
そんな会話をしながら俺たちはギルドへと入る。
これまた西部劇みたいな木製の両扉をギィと開け中に入ると、まずお酒の匂いが鼻についた。しかもエインヘルの時よりも数倍キツイ。
「ぐおっ……酒くせえなここ」
改めて辺りを見渡すと朝っぱらだというのに飲んだくれている冒険者が多くいた。
「手頃な討伐クエストが無いとこうなるのよ。自分たちの手に負えない魔物の討伐クエストしかない時はこうして日頃貯めたお金で1日中お酒を飲む。それがここの冒険者のスタイルね」
なんじゃそりゃ、良いのか悪いのかは別にして、なんかダラけてんな。
「ってことは、今は強い魔物の討伐クエストしかないってことか?」
それに対してお尻を両手で押さえながら歩いているカヤが答える。エインヘルで酔っ払いにお尻触られそうになったのを根に持ってんのか。
「そうとも限らないけれど、割に合わないクエストが多いのは事実ね。スライム10匹につき100ガルドとか」
「ぶっちゃけ、お小遣いにもならないっす」
「まじか」
ギルドカウンターの受注が可能なクエスト一覧を見ると、そこには3枚の紙切れしか貼られていなかった。
【バトルボアの討伐】推奨レベル10
報酬:300ガルド(大きさに応じてボーナス有)
【洞窟に巣くうレッドドラゴンの討伐】推奨レベル40
報酬:300,000ガルド
【レッドドラゴンの鱗の納品】推奨レベル35
報酬︰1枚につき5,000ガルド
「クエスト少なっ!? しかも難易度たかっ!?」
俺のレベルはこないだのトカゲ討伐でやっとこさ13となったばかり。ドラゴンの討伐なんていう死にに行くようなクエストはスルー安定だとして、バトルボアの討伐を受注しようにも「全然、割に合ってないわね。相場の半分以下よ」とのことだ。
「でも旅の資金を集めないといけないんだろ? 何かしら受注しないとだめだよな?」
「となると、必然『ドラゴンの討伐』か『鱗の納品』になるっすね」
「私はそれで一向に構わないのだけれど、あなたは多分ドラゴンに尻尾でペシンされて終わりよ」
カヤが俺をチラ見して言う。いや、普通に笑えねぇよ。
「でも」
そう言いながら、カヤがクエストボードから『鱗の納品』の紙をちぎる。
「討伐は無理だとしても、鱗の納品ならチャンスはあるわ。私の魔術の盾ならドラゴンの攻撃は優に防げるし、ナルちゃんの魔法石で致命傷に至らずとも手傷ぐらいは負わせられるでしょう」
「で、俺は?」
「ドラゴンの周りをちょろちょろと動き回って相手の攪乱よ。そして隙を見て鱗を拾う」
「なんかそれめっちゃ弱そうだからやだ。あとコソ泥かよ」
ちょろちょろて。
実際パーティで一番弱いんだけど、なんか情けなくて泣きそうになるわ。
「大事な役よ? 私が援護するし、死ぬことはないわ。多分ね」
「最後の言葉が無かったらやってたかもな」
俺のそんな言葉を聞いちゃいないといった様子のカヤがクエストボードの紙をカウンターに持って行こうとしたその時、ドォンとギルドの外で大きな音が聞こえた。




