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ロウリィ/次の大陸カルナスへ

 悪魔との戦闘を終えた私たちは、道中で出会った女の子イリスを連れて大陸最後の町『ミザエル』に到着した。



「私はここでお別れになります」



 大きな教会を指さしてイリスがそう言った。


 

「折角仲良くなれたのにもうお別れって寂しいね」



 するとイリスはてくてくと私の前まで歩み寄り、私の手を優しく握る。



「ロウリィさん、また会えますよきっと。私は当面の間ここミザエルにいるつもりですし、戻ってくることがあればいつでも立ち寄って下さい」



 イリスは聖女の様ににこっと微笑む。


 出会ってからミザエルまでの道中の数日間一緒だっただけで『可愛い妹ができた』と思ってしまうほどには、この子の笑顔には浸透力がある。


 人の心にするりと入り込む様な不思議な女の子だ。



「ロウリィ、時間だ。そろそろ転移門が開くらしい」


「あ、はい、分かりました。じゃあね、イリス」


「はい、また会いましょう。シグルドさんとローゼリアさんもまた必ず」


「あぁ、元気でな」


「イリスちゃんも大変だろうけど頑張ってね」


「はい、それではまた」



 ぺこっとお辞儀をしてイリスは教会に入って行ってしまった。ばたんと閉じられる扉を見てふと寂しい気持ちになる。



「寂しい?」


「はい、正直。ですが永久の別れではないですし、また来れば良いだけですよ」



 そう、またいつかきっと会える。


 その時はお互い、どんなふうになっているのだろう。次に会うのが楽しみだな。


 と、感傷に浸っているとシグルドさんが北の方を指さして言った。



「2人とも、あの天に伸びる光はなんだ?」



 え、それって……。



「わぁあぁ!! 転移が始まる合図です! 急がないと!!」


「まだこの町をぐるりと1周していないのだが」


「あんたがそれやると修理屋とか始めちゃうからだめ! 急ぐよ!」



 私たち3人は転移門へと向かう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 転移門の見た目は、家の玄関の外枠だけを外して地面に据え付けたような感じだ。


 その枠の内側に転移の術式が構築されており、向こう側の景色がゆらゆらと映し出されている。



「これが転移門? これを通ると別の大陸に移動できるのか?」



 シグルドさんがいつものように興味津々といった様子で門に触れようとするのをローゼリアさんが制止する。



「ストーップ! 迂闊に触ったらだめでしょ!? 転移の回数が減っちゃうでしょ!?」


「あぁすまない。……転移の回数?」



 気になることを見つけたという嬉々とした表情を浮かべてシグルドさんが右手を上げる。



「質問だ。転移門には使用制限があるのか?」



 勘の良さも相まって質問が的確である。その質問には私が答えることにした。



「はい、1日1回と決められています。乱用して時空を歪めてしまわないための処置ですね」


「なるほどな。一度の開門でどの程度の人数が渡れる?」



 その質問に答えたのはローゼリアさん。



「開門してられるのはせいぜい30秒。毎秒1人としても、30人といったところかな。だから渡る順番には優先順位があるの。王族や貴族が最優先で、その次が商人。その後に冒険者が来て、最後に一般市民って感じ」



 ローゼリアさんの視線の先には50人ほどの人がいた。



「そうなると、俺たちは渡航できる瀬戸際なのでは? 見たところ商人が大多数を占めている。優先順位で言えば冒険者の俺たちが今日に渡航できる可能性は低いと見るが」


「それが違うんだなー」



 ローゼリアさんがものすごく得意げな顔で語り始める。



「私は、この世界の二大貴族『ステルケンブルク』家の人間なの。だから優先順位は第1位。渡れないってことは無いよ」


「そうか、なら安心だな」



 自慢、痛恨の空振りである。



「満を持して言ったのにリアクション薄すぎ! 凄いよね!? 私凄いよね!? ロウリィちゃん!」



 私の肩を掴んでぐらぐらと揺らすローゼリアさん。



「あわわ、揺れてます! 脳が揺れてますぅー!!」


「2人とも、そんなことをしている時間があるのか? 男が呼びかけをしているが」



 転移門の前では係の男性が私たちを呼んでいた。早く名乗り出ないと順番を後回しにされてしまうらしい。



「あぁ! はいはい! ここにいますよ! ローゼリアさん離してぇ!! カルナスに行けなくなりますぅ」


「くぅ……もっとリアクションしてくれても良いじゃんねぇ」



 うなだれるローゼリアさんを連れて転移門の目の前に移動すると、男性が私たちに言った。



「転移門を通るのは初めてですか?」


「いえ、何回も通っています。こちらの男性は初めてですが」



 私はシグルドさんを指して言う。



「そうですか。では簡単に注意事項を。転移には多少の衝撃を伴いますので口を閉じていて下さい。舌を噛む恐れがあります」


「あぁ分かった、気を付けよう」



 注意事項を言い終えた男性が転移門脇のレバーを下ろし、転移門が起動した。



「さぁ行きましょう」



 私がそう言って転移門に足を踏み入れようとした瞬間、後ろから声が聞こえた。



「またいつか会いましょうねー!!」



 後ろにいたのは私たちを追いかけてきたイリスだった。


 私たちは振り向いて彼女に手を振る。



「うん! また会おうね!」



 そして私たちは転移門に足を踏み入れ、一斉に転移した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 足を踏み入れた瞬間に景色が一変した。


 先ほどまでの街並みとは大きく異なる。


 ここは、砂漠と新緑の大地、カルナス。



「これが転移門か。一瞬で大陸を移動できるとはな……しかしこの大地はなんだ? 砂漠と森林が綺麗に分かれている。気味の悪さすら感じるな」



 私たちから見て正面左は砂漠の大地。対して、右は森林が広がっている。


 私たちは丁度その茶色と緑の境界線に立っている。



「一体何が起こっている?」



 シグルドさんの疑問にローゼリアさんが寂しそうな声で答える。



「ここが、砂漠と新緑の大地、カルナス。別名、『死に逝く大陸』だよ」



 シグルド編第2章……終幕

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