シグルド/聖女イリスと準魔剣①
俺は気絶している2人の野盗を縄で縛り上げローゼリア達と合流する。
すると泣き止んでいた少女が俺たちに名乗った。
「私……イリスと申します。イリス・ノーザンクロイツです」
この世界の修道女の様な格好をしている女の子だった。整った顔立ちに落ち着いた雰囲気、そして長い金の髪の毛が特徴的だ。
「その、先ほどは有難う御座いました。埋葬までして頂いて、司祭様も救われたと思います」
とても10歳に満たない子とは思えない程に丁寧な所作と言葉遣いだと思った。
「私はローゼリア。ローゼリア・C・ステルケンブルク。こいつはシグルド。この大きな鞄の子はロウリィよ」
ローゼリアが順番に紹介するとイリスと名乗った女の子は一人一人に対しお辞儀をした。
頭を上げ終えたイリスにロウリィが問いかける。
「イリスはなんでこんな所に? 冒険者、って見た目でもないよね」
「私たちは宣教者です。神の教えを広め、救いを説いているのです」
なるほど、神の使いというやつか。グリヴァースにもいるのだな。
「王都から南下するように旅を始めていて、タナトスに向かう最中でした」
イリスは共に旅をしていた司祭の墓に目を向ける。
「ですがその道中、野盗に襲われてしまい……」
「イリス、大丈夫。ほら、私の手を握って?」
「あ、はい。有難う御座います」
イリスのことはロウリィに任せよう。
「シグルド」
ローゼリアが俺を呼んだ。
「さっきの話は本当? あの野盗が持っていた剣が、例の準魔剣かもしれないって話」
ローゼリアは地面に転がる直剣を指さす。外見はその辺の武具屋で扱っている片手用の剣と遜色ないその直剣だが、あの剣からは何かを感じる。
「分からない。が、普通の剣ではないのは間違いないだろう。俺が持つ魔剣グラムが放つ気を何百倍にも薄めたような感じといったら分かりやすいか」
「そうなんだ……でもあれが怪しいってよく分かったね?」
ローゼリアがそう言い終えたタイミングで俺は懐から1本の『短刀』を取り出す。先端にはほんのりと血の跡が残っている以外は何の変哲もない短刀だ。
「これを覚えているか?」
俺が手に持つ短刀を見てローゼリアは表情を険しい物に変える。
「シグルドあんたそれ……フェネット家の」
「あぁ、そうだ。ロウリィの祖母の胸に刺さっていた短刀だ」
俺はイリスと語り合っているロウリィに聞こえないように話す。
「なんであんたがそんなもんを持ってるの?」
「これからも伝わってくるからだ、怪しい気配が。あの場に放置しておくのは望ましくないと判断して俺が持っていた」
ローゼリアは指を顎に当てて考える素振りを見せる。
「シグルドがその短剣から感じてる怪しい気配と、あそこで転がっている直剣から感じてるおかしな気って同じもの?」
「あぁ、気の強さの大小はあるが、同一の物と見て良いだろう」
「ってことは……この短剣も、準魔剣?」
「だとしたら、放っていけない代物だということになる。お前が説明してくれた様に、この短剣からは人を取り込もうとする禍々しいエネルギーを感じる。あの直剣も同じだ。そして、他の準魔剣もそうなのだろう」
俺がそう言い終えるとローゼリアが強く頷く。
「私の旅の目的とあんたの目的が合致しそうだね」
「あぁ、こんなものが野に放たれていては優しい世界など実現不可能だからな」
「お2人とも、お話し中に申し訳御座いません」
ロウリィがイリスと手を繋いだ状態でこちらに歩み寄ってきて話しかける。
「イリスも旅に同行することになりました。とは言っても、ミザエルまでですが」
「ミザエル? タナトスを目指してたってことは、ミザエルから来たんじゃないの? 戻ることにならない?」
それにイリスが答える。
「はい、戻ることにはなりますが、司祭様無しでこの旅は継続できません。ミザエルには教会がありましたし、私はそこにお世話になろうと思います」
まだ10もいかない女の子だというのにしっかりとした物言いと判断力を持っている子だ。ふふ、アニエスよりもよっぽど大人だな。
「シグルドさん、良いですか? ミザエルまでイリスを連れて行きたいんです」
「あぁ、もちろんだ。隊列はローゼリアとロウリィの間、しっかりと守ってやれ」
「はいっ! 良かったね、イリス!」
「有難う御座います! 宜しくお願い致します」
俺とローゼリアに一礼するイリスを見て、ローゼリアがぽつりと言う。
「なんかシグルドがリーダーっぽくなってない? 私がリーダーだよね? そうだよね?」
「リーダーは背中で語るものだ」
「よっしっ!! 語ってやろうじゃない!!」
「……ふはは」
鼻息を荒くし両手を天に掲げるローゼリアを見て自然と笑みがこぼれた。
「ん? いま笑った!?」
「いや、笑ってない」
「笑ったよね!? しかも鼻で!!」
「気のせいだ」
――キィン、という耳障りな音が辺りに響いたのはその時だった。




