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ローゼリア/聖女との邂逅

 ミザエルを目指す私たちの視線の先では略奪が行われていた。


 襲われている男はその服装を見るに、司祭だろう。そして今まさに、野盗の刃がその司祭を貫いたところだった。1つの命が目の前で奪われた。



「っ!? 許せない……!!」



 しかも、そこにはまだ、小さな女の子が残されている。あの子は絶対に助けないと!


 私が時空間魔術で杖を出し終えるのと同時にシグルドは右手を振り上げた。



「ロウリィ! 短剣だ!!」


「分かりました!【時空間魔術】レベル1、『物質転移』! 短剣を、シグルドさんの右手へ!」



 ロウリィちゃんの鞄の中の『短剣』がシグルドの右手におさまる。あれは『物質転移』。物体を別の場所に転移させる魔術だ。


 そして、それを受け取る少し前からシグルドは次の行動の準備を始めていた。



「【技能創造】……【配置転換】……ふっ!!」



 短剣を受け取った瞬間、シグルドは全力で前方に放る。


 それは真っ直ぐに飛んでき、100メートル先の剣を振り上げていた野盗の腕に突き刺さる。男はその衝撃で手に持っていた剣を落とした。


 しかし、野盗はもう1人いる。あの女の子の危機が去った訳ではない。私は追撃の魔術を行使するために魔力を練る。詠唱無しはちょっとリスクがあるけど『時空転移』を使えば間に合うはず!



「待て、ローゼリアはロウリィの援護を頼む」


「え?」



 私がシグルドに視線を向けた瞬間、シグルドが消えた。


 代わりに現れたのは、先ほど投げたロウリィちゃんの短剣だ。先端に血が付いている所を見ると、まさに先ほど投擲した短剣なのだろう。


 私が視線を前に向けるとそこではシグルドが野盗と交戦していた。

 

 つまり、短剣とシグルドが入れ替わった。



「さっきシグルドさんは【配置転換】と呟いていました。それって、魔力を込めた物と入れ代わりでテレポート出来るあれですよね?」


「【配置変換】!? そんなの、中位以上の時空魔導師しか使えないやつだよ!?」


「それもきっと、【技能創造】の能力ですよ。さっきの転移門の話を聞いてヒントを得たんじゃないでしょうか?」


「まじでかぁ……」



 もはや、頭が回るとかそういう次元ではない。こと戦闘においては的確な正解を瞬時に導き出すことができる卓越したバトルセンスをシグルドは持っているようだ。


 そしてそのシグルドはというと、その短い間で野盗2人を素手で気絶させてその場に立ち尽くしていた。



「シグルド!!」



 私は立ち尽くしているシグルドに駆け寄る。彼の傍らには血を流して倒れている司祭に寄り添い涙している金髪の少女。歳はおそらく10もいっていないだろう。



「うっ……司祭様どうして……なんでわたくしを庇ったのですか……うわぁああ!!」



 その男性に覆いかぶさる少女にいち早く駆け寄ったのはロウリィちゃんだった。



「悪い人はいなくなりました。だから安心して。今は、ちゃんと寄り添ってあげて下さい」


「ひっく……ううぅ……」



 拳をギュッと握って泣き続ける少女の背中をロウリィちゃんはさすり続けた。そしてその2人の姿をシグルドは何かを想起するような、虚ろな表情で見ていた。



「シグルド?」


「【技能創造】……この者を生き返らせるスキルを……」



 シグルドの右手に強烈な魔力が宿り……それが空しくも霧散する。



「……シグルド、人を生き返らせるスキルなんて存在しない。それはいくらあなたでも、創造出来ないよ」


「……分かっていた……フェネット家の人々に対してもこうだったからな……人は死んだら戻らない……分かっている……あぁ、分かっているさ……」



 自分にそう言い聞かせるようにして数度の深呼吸を挟み、シグルドは顔を上げた。



「ローゼリア、そこに落ちている剣だが……おかしな気を感じる」



 シグルドが指さしたのは野盗が持っていた剣だった。


 それが『準魔剣』であることをこの時の私はまだ知らない。 

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