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楯無明人/最弱の烙印

 目を開くと俺は石造りの神殿に立っていた。



「なんだここ……神殿か?」


「改めてようこそ、異世界グリヴァースへ」


「異世界……また来ちまったのか」



 内心ワクワクが止まらないが、はしゃぐとみっともないから叫びたい気持ちをぐっと堪える。



「さて、早速だけれど一仕事させて貰うわ。コール」



 コールという呪文と同時に、巻物が現れた。



「なんだそれ?」


「これは念写の巻物と呼ばれる物よ。この世界の必需品ね」


「必需品? そんなボロっちい巻物が?」


「見てくれはそうかもね。でもこの子は優秀よ」



 こほん、と咳払いを挟んだ後、俺を見据えるカヤ。



「巻物よ、この者のステータスを曝け出して」



 巻物がふわりと浮いてばらばらと開かれ、カヤはそれを黙読しだした。


 そして、カヤの顔が次第に青ざめていく。



「おい、何が書いてあんだよ? 黙ってちゃ気味悪いだろうが」


「……なんてことなの……信じられない……予測以上よ」



 カヤは膝から崩れ落ちる。



「弱すぎる……あまりにも……弱すぎる……!!」



 大事なことだから2回言ったってか? 傷つくぜまったく。


 俺はカヤから念写の巻物とやらを取り上げ中身を読んでみた。



「と、なになに……」



 そこにはゲームのステータス画面の様に、数値化された俺の情報が並んでいた。

 

 

【名前】タテナシ・アキト


【習得スキル】

 ・忘却無効 

 ・●●●の●●(塗り潰されて解読不可)


【ステータス】

 力:5

 防:3

 知:1

 速:9

 運:3

 

 

 安定のオール一桁。知力1て。



「なぁカヤ、参考程度に聞きたいんだが、俺の強さって他の何かに例えるとどれくらいだ?」


「その辺の雑草と同等よ。生まれたての赤ちゃんよりも低い」


「マジで?」



 俺ってこんなに弱かったのか……さすがにもうちょっと強くても良くねぇか?


 

「こんなステータスじゃ、魔王なんか倒せないわ」



 魔王って、昨日俺を追いかけてきたアイツの事か。



「え、俺たちあの魔王倒さなきゃなんねぇの? やだやだ、あぶねぇじゃん」


「あなたに拒否権はないわ。私があなたを召喚してしまった以上、避けては通れない定め……泣きそうよまったく……ふ、ふふ……ふえぇええん!!」


「大泣き!?」



 高校生が泣くなよみっともない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 泣きべそかいてるイスルギ・カヤの言葉を簡潔にまとめよう。


 この異世界グリヴァースでは約20年前、魔物と人類の戦争が行われた。その戦争は魔王の討伐と共に終結したが、昨今その魔王が復活してしまったらしい。


 なんとまぁテンプレな展開だこと。


 ってのはさておき。


 その魔王復活を看過できなかったイスルギ・カヤは『たった一度しか使えない』召喚魔術を行使し、召喚した勇者と共に魔王討伐をしようとした。

 

 そう、こいつが年甲斐もなく泣いてる理由はここにある。


 

「あなたを助けちゃったことが、ぐすん、召喚だって、みなされて……関係者の記憶を抹消すれば諸々帳消しできると思って忘却魔術をかけて回ったのよ。見事に失敗したけど。これで完全に出世コースから外れてしまった……私の夢がまた一歩遠のいたわ」



 うーわ……なんか知らないけど可哀想だな。



「なぁ、夢がどうとかは知らんが、事情を話せばなんとかなるんじゃないのか? 俺も一緒に家の人に頼んでやるから」


「もう夜通し頼んだわよ。まったく意味を成さなかったけれど」



 ふぅ、とカヤは一息ついて自分を落ち着かせ、ついさっきまで泣いていたとは思えない程落ち着いたトーンで話を続ける。



「気を取り直して、あなたの件はギルドに相談するわ」


「へいへい、分かりましたよー」



 俺の中の異世界ってもっと自由で俺TUEEE的なイメージがあったんだが……。


 てか、最近トレンドのチート能力の1つでもあっても良くね? 俺のスキル【忘却無効】だけだぞ? せめて【透明化】とか【時間停止】とかそんなスキルが欲しかったわ。



「でさ、そのギルドってどこにあるんだよ?」


「最寄だと徒歩で1時間ね」


「もしかして魔物とか出たりする?」


「出るわよ。スライムとかね。あ、もし逃げたら後ろから背中に消滅魔術をぶちかますわ」


「お前絶対友達いないだろ?」



 そんなこんなで俺の魔王討伐の旅は始まった。

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