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ローゼリア/お助け人シグルド

 第3の町『タナトス』に到着した私たち。


 

「ここがタナトスか。悪くない」


「あんたどこ行ってもそんな感じよね」



 シグルドを一言で言い表すと『個性的』である。


 無骨で無愛想でとんちんかんなことをしでかすことも多々ある。目新しいものには飛びつき、気になることがあると質問攻めをしだす辺り、まるで子供のようだ。



「ん?」



 そのシグルドが何かに気付いてすたすたと酒場の前に歩いて行った。


 私とロウリィちゃんがその後を追うとそこにいたのは馬車の前で困り果てた姿の車夫だった。



「あぁ、もうおしまいだぁ」


「何があった?」



 シグルドがその車夫に声をかける。



「見ての通りだよ。車輪が折れてしまったんだ。ミザエルに納品があるのにこれじゃ間に合わない」



『ミザエル』というのはこの大陸最北端の町の名前だ。各大陸に1つだけある、『大陸の名と同じ名』を冠している町である。



「納品ってことは商人さんなんですか?」



 大きい鞄を背負ったロウリィちゃんが車夫に問う。



「あぁ、そうだよ。久々に入った大口の注文だったんだ。納期遅れは信用を欠いてしまう。もう終わりかもしれない」



 だらん、と両手を垂らしてうなだれる車夫。



「商人にとっては信用が第一ですからね、一大事ですよこれは」



 流石豪商の娘、意識が高い。



「この町にその車輪を直せる場所は無いの?」


「残念だが無いみたいでね。自分じゃどうすることも出来ずにこの有様だ」



 私と車夫がその様なやりとりをしているとシグルドが馬車に歩み寄って車輪をじっと見ていた。



「車夫よ、この車輪は木材だな? 材質はあの森林にあった木と同じと見るが」


「え、あぁ、あんたの言う通り、バルクという木材さ。素材はそこら中で売ってるが私には直す技術が無くてね」


「素材さえ分かれば十分だ。そのバルクが売っている店はどこだ?」


「はい? あんたもしかして直せるのか?」


「分からない。が、やってみよう」



 結果、難なく補修完了。もちろん【技能創造】の力を使ってである。



「直っている!? あんたどうやって!?」


「説明すると長くなる。先を急いでいるのだろう?」


「あぁ! 本当にありがとう! これはほんの気持ちだ」



 車夫は5万ガルド金貨をシグルドに手渡して去って行った。さらっと受け取ったけど、そこそこのお金である。



「5万ガルド……これは大金だな。何を食べようか?」


「あんたはすぐに食べ物に走るんだから! 貯金に決まってるでしょ!?」



 すかさずシグルドが反論する。



「お前はすぐに貯金に走るな。生きるために使うことを覚えたらどうだ?」


「まぁまぁお2人とも落ち着いて下さい。ここは先物取引の為の資金にしましょうよ。良いアテがあります」



 なにこの子、抜け目ないんですけど。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ローゼリアさん、シグルドさんがまたあそこで何かやっていますよ?」



 ロウリィちゃんが指さす先では子供に囲まれているシグルド。



「あいつ何やって……」


「おじちゃん! このぬいぐるみも直せる!?」


「あぁ、もちろんだ。貸してみろ」



 シグルドは女の子から受け取った腕の取れてしまったぬいぐるみに手をかざす。



「……よし、これで良いか?」



 腕のくっついたぬいぐるみを女の子に返す。



「わぁ! ありがとう!!」


「あぁ。今度は大切にするんだぞ?」


「うんっ!!」



 ぺこりとお辞儀をする女の子に無愛想ながらも手を振るシグルド。



「ねぇシグルド、何してんの?」


「俺に出来ることをやっている」


「いやそうじゃなくてね?」



 そうこうしているうちにもあっちこっちから子供が押し寄せている。自分の家から持ち出して来た壊れたおもちゃを大事そうに抱えておじちゃんおじちゃん、とせがまれている。



「お前ら、一列に並べ。順番だ」


「「「はーい!!」」」



 新装開店『おもちゃ修理屋』状態である。



「あぁー始めちゃったよ……」


「でもシグルドさん、とても楽しそうですよ」



 ロウリィちゃんに促されてあいつの顔を見ると確かに微かに口角が上がっている気がする。普段から無愛想で笑顔の少ない奴だからあれだけでも結構珍しい。



「きっと、人の役に立てるのが嬉しいんですよ」


「気持ちは分からなくないけどさ、折角だったらお金取ればいいのに」


「ローゼリアさん……」


「じょ、冗談よ冗談! 子供からお金取るわけないって!! でもその親からなら……」


「ローゼリアさん……」



 う、ロウリィちゃんのじとーっとした眼差しが痛い。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「よし、これで美味い飯が食える」



 シグルドが満足そうな表情でそう言った。



「なに1人で満足してんのよあんた! 最終的に私たちまで手伝わされる羽目になったじゃない! 冒険者パーティが列整理ってなに!?」



 はいはいこちらですよーみたいなことを小一時間やっていた私たち。もうくたくたである。



「私、シグルドさんを見て学びました」



 唐突にロウリィちゃんが言う。



「力は自分の為にあるんじゃないんだって。人の為にあるものなんですね」



 シグルドはそれを聞いて何も答えずにただ、彼女の頭を優しく撫でた。



「さぁ、今日は何を食べようか? ローゼリア、この町の美味しいものを紹介してくれ。美味い酒もあると尚良い」


「はぁ……あんたって人は……」



 先が思いやられるけど、楽しければ良いか。

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