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イスルギ・リサ/体を蝕む呪い

 私は久しぶりに我が家へと戻って来た。


 出発した時は1人だったけれど、今は我が子と一緒だ。まさか子供を授かるなんて、当時の私は思いもしなかったことだ。



「ここに帰って来るのは久しぶりね。カヤ、ここが私たちの家よ」



 私がそう言うとカヤは手をゆっくりと開いた。理解できているのかどうかは不明だけど、愛くるしくて仕方がない。



「出来れば、アルトと一緒に戻って来たかった所だけどね……いえ、感傷的になっている暇はないわ」



 私は屋敷にいる使用人を全員集めた。



「お呼びでしょうか、リサ様」


「えぇ、聞いて欲しい事があるの」



 私は使用人に自らが呪われていることを打ち明けた。



「リサ様、それは真実なのですね?」


「えぇ本当よ。そう遠くない未来、私は生きた人形と化すわ。その時が来たらこの子を、カヤをお願い出来るかしら?」


「……畏まりました。我らが命にかけてもカヤ様はお守り致します」


「ありがとう」



 これで私が動けなくなっても、カヤは生きていられる。


 でも、それまでの間にやらなければならないことが沢山ある。指も、箸が使えない程に固着し始めている。この調子だとあと5年持つか持たないかといったところね。


 それまでに、未来に託すべき行動をしなければ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私はルミナが残してくれたアイテム、オメガコネクター乙式を耳に装着し通信を始める。



「こちらリサ、2人とも聞こえるかしら」



 始めに答えたのはシグルドに扮したシズク。



『こちらシズクです。聞こえますよリサ殿』


「そう、良かったわ。ちなみにあなた今何をしている最中なの?」


『これから貴族のお偉い様方と食事会をするところです』


「そんな重要な場面で通信に出るんじゃないわよ! 通信を切るわね」


『あ、ちょっ、寂しんですぅ』



 シズクの訴えを棄却し通信を切った。


 続いてシルフィーからの通信が入る。



『はいはい、こちらエインヘルのシルフィーだよ』


「あぁ、シルフィー。忘却者達に関する情報共有をしましょうか」


『うん分かった。まずロウリィちゃんなんだけど……』



 私は一通りの情報共有を終えた。


 気になることが1つ。



「彼女達に魔剣戦役のことは話さない方が無難よね」


『うん、私もそう思う。あの頃の話をすると激しい頭痛に見舞われるみたいだし。メモリブレイクで壊された記憶を無理矢理修復しようとするのは逆効果かも』


「となると、世界中の人々にこのルールを共有して貰う必要があるわね……」


『噂を流せば良いんじゃないかな? 暗黙の了解というか、六賢者には魔剣戦役のことを語ってはならない、みたいな。そうすればお姉ちゃん達も余計に苦しまなくて済むし』


「その方が無難ね。噂というのは後ろめたいものほど早く伝わる。シズクの力を借りてリヒテルから広めて貰いましょう」


『了解! 私もギルドでそれっぽく言ってみるね』



 そこで私たちは通信を切った。



「ふぅ……ロウリィちゃんは弟子を取り始め、リーヤは族長の座におさまったと。エストに関してはよもや赤ん坊を引き取って育てることになるとはね……これが平和な世の中であればみんなをからかいに行くところなんだけど……」



 懸念が1つだけあった。魔剣の軍勢に残党がいるという話だ。


 私たちはサイナスを封じるだけに留まり、その配下にいた魔物達は倒していない。


 今現在は時空魔導師らが施した『反転移閉塞』の術式でアポクリファ側からこちらには来れない様にしているけれど、あれにも刻限はあると言っていた。



「となると、いずれまた魔剣の軍勢が侵略してくるってことよね……アキトくんは異世界、ローゼリアの居場所は探知されない様にしたから大丈夫だとして、今のグリヴァースで狙われちゃまずいのは……キリアスの龍脈の核……かな」



 先の大戦でも魔剣の軍勢はキリアスに本隊を配置していた。それはつまりあの者たちにとってあそこが最重要で落とすべき場所だったってことだ。カストルの話ではあそこが落とされるとグリヴァースのマナが乱れ、世界は崩壊するらしい。



「そもそも龍脈って何なのかしら……これは詳しく調べてみる必要があるわね。エリカお姉さまの論文で」



 私は論文を取りに行くために椅子を立ち上がる。



「きゃっ!?」



 バランスを崩して床に転倒してしまう。


 足元を確認すると、足の指も人形化が進んでいた。



「私にも時間が無い……」



 私はベッドですやすやと眠るカヤを見る。



「カヤ、あなたが平和に暮らせる世界の為に、お母さん頑張るからね」



 私は立ち上がって書庫へと向かった。

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