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リーヤ/エルフの長として、六賢者として①

 レコンに戻ると町の風景が大きく変わっていた。


 あたしの知るレコンは魔導兵器によって甚大なダメージを負っており、更地に近い状態だったはずだった。



「これは……タイムスリップでもしちまったのかあたしは……」



 町は元の活気を取り戻しつつあった。確かに爪痕らしきものも残されているが、真新しい建物が幾つか立ち並び、あたしの知る傷付いたレコンとは大きく異なっていた。



「リーヤ様だ! リーヤ様がお戻りになられた!!」



 町のやつに見つかって瞬く間にあたしは囲まれた。



「ちょ、んだよてめぇら!!」


「有難う御座います! リーヤ様が立ち上がってくれたおかげでこの町、いえ、この大陸に平和が訪れました!!」


「はぁ!?」



 立ち上がった覚えなんてない。あたしがやったのはリヒテルに救援要請を送る所まで。今だってマギステルの奴らが攻めて来ないか見張りに行っていただけだ。それなのになんだこいつらの反応は……まるで戦いが終わったみたいじゃねぇかよ。



「リーヤ様を含めた方々は六賢者と呼ばれておるようで、私たちエルフの誉れです」


「いやちょっと待て。全然話についていけねぇぞ。あたしが一体何したってんだ!?」


「族長がお待ちです、こちらへどうぞ」


「おい、話を聞けよ!! 引っ張るな!!」



 あたしは族長の家へと連行された。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「よく戻ったなリーヤ」



 族長、つまりあたしとシルの祖父があたしにそう言った。


 体調でも崩しているのか、布団に横たわっている。



「戻ったも何も、ちょっと見張りに出かけてただけじゃねぇか」


「ほっほっほ、おぬしもその様な冗談が言えるようになったとはな」


「いや冗談じゃねぇから。……で、どうしたんだよ横になって。えらい元気無さそうじゃねぇか」



 じじいは横になったままあたしに言った。



「おぬしには心配をかけさせたくなくてな。内緒にしておったのじゃが、病じゃよ。儂はもうすぐ死ぬじゃろう」


「なっ!? なんでそんな急に……こないだまで元気だったじゃねぇか!!」



 あたしの言葉にジジイが小刻みに笑う。



「おぬしにそんなユーモアがあったとはの。あれから3年、冒険がおぬしを変えたのかもしれん。送り出して正解だった」


「冒険? 送り出した? 何言ってんだよ!」


「最後に、孫の顔が見れて良かった」



 ジジイはそれっきり動かなくなった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 新しい族長の座におさまったのはあたしだった。


 満場一致だとよ、訳が分かんねぇ。



「お姉ちゃん!」



 エインヘルでギルドの受付嬢をやっている妹がレコンにやってきた。



「シル! 帰って来るのは久々じゃねぇのか!? 休み取れたのか?」


「うん! 無理矢理ねじ込んできた!」


「無理矢理……だ、大丈夫なんだよな? お姉ちゃん心配だわ……」



 シルはソファーに寝転んであたしに言う。



「族長似合わないね?」


「ぶっ叩くぞてめぇ! 好きで族長になった訳じゃねぇよ。周りがあたしを六賢者だなんだと祀り上げるからこんなことになっちまった。ったくなんだよ六賢者って……」



 あたしが何気なくそう言った時、シルの表情が曇った。



「お姉ちゃん、やっぱり忘れちゃったの?」


「あ? 何がだよ?」


「……ううん、なんでもない。それじゃあ私行くね」


「もう行くのか? もうちょっとゆっくりして行けば良いのに」


「お爺ちゃんの墓参りに来ただけだし」



 シルは家を出る直前、ぽつりとこう言った。



「ねぇお姉ちゃん。ローゼリアって名前、知ってる?」


「ローゼリア? ……さぁ、聞いたことない名前だな」


「……そっか」



 シルは家を出て行った。なんだってんだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 シルが出て行って数時間後の事だ。扉がノックされた。


 あたしはてっきりシルが戻って来たもんだと思い、扉を開ける。



「おう、戻って来ると思ってた……って、誰だお前?」



 そこにいたのは赤ん坊を抱いた黒いローブの女だった。



「妹じゃなくてごめんなさい。リーヤ、あなたに話があってね」



 こいつどっかで見たことがある……なぜか思い出せないけど。



「始めましての挨拶が先だろうが」


「……えぇそうね、『今のあなた』と私は始めまして……だものね」



 彼女は愁いが混じった表情を見せ、名を名乗った。



「私はイスルギ・リサ、錬金術師よ。この子は娘のカヤ」


「錬金術師……随分と珍しいな。あたしは」


「リーヤ・ハートネット。言動は粗暴、弓術に長けその腕はエルフの中でも随一。好物はリンゴ。ただし甘過ぎる物は苦手。よく知っているわ」


「……気味が悪ぃな。あたしのファンかよ?」


「いいえ、仲間よ。と言っても、今のあなたには理解できないでしょうけど」



 リサと名乗った女性は赤ん坊を抱いたままソファーに腰掛けた。



「座って良いと言った覚えはないが?」


「忘れて良いと言った覚えもないわよ」


「あ? 意味分かんねぇこと言ってんなよ。あたしが何を忘れてるってんだよ」


「全てよ」


「全て? なんだよそれ」


「自分で考えてみたら?」



 あたしはこいつの言葉が足らない所に腹が立った。



「言いたいことがあるならちゃんと言えよ」


「言ってもどうせ理解できないわ。かつての仲間の名前すら忘れてしまったあなたには、何を言っても無駄」


「んだと!?」



 あたしが大声を出しちまったせいか、カヤって赤ん坊が泣き出してしまった。



「あっ、そのすまん……泣かすつもりじゃなかったんだ。どうすりゃ泣き止む? おもちゃなんかここにねぇし」


「ぷっ」



 リサが突然吹き出し、笑った。



「良いわよ、赤ん坊は泣くのが仕事だもの。私こそ挑発をする様なことを言ってしまってごめんなさい。あなたが私の知るリーヤだってことを確認しておきたくて、からかってみたのよ。変わらないのね、そういう所は」


「お前の知るあたし? リサって言ったか、お前はあたしを知ってんのか?」


「最初に言ったでしょう? 私はあなたをよく知っている。……今日はこの辺で失礼するわ」



 リサは立ち上がって出て行った。


 微かに歩く歩幅が一定ではないのが気になったが、別に口出すほどの事でもねぇか。


 その後、イスルギ・リサってやつは度々あたしの所に現れるようになり、親友と呼べる様な仲へと発展していくことになる。

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