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ロウリィ/孤独な道具管理者①

 悪い夢だと思った。


 家に帰ると屋敷には誰もいなくて、代わりに墓地が出来ていた。墓標には家族の名前が書かれていて、趣味の悪い冗談だと思った。



「お父さん? お母さん?」



 屋敷を駆け回っても家族も使用人も誰1人いない。一体何が起きているのだ。


 私は自分に起きたことを整理する。



「確か私は……アイテムマスターの継承の儀を終えて……家族で朝食を……」



 そこで記憶が途切れている。目を覚ましたら王都リヒテルにいたし、訳が分からない。


 どんどん、と屋敷の扉が叩かれる。お父さんが商談から戻って来たのかと思って扉を開けてみると、綺麗なエルフの女性が立っていた。



「こんにちは、ロウリィちゃん」


「? こんにちは。えっと、どなたですか?」



 エルフの女性が答える。



「私はシルフィー・ハートネット。エインヘルのギルドから来たんだ」


「あ、ギルドの方でしたか。お越し頂いて申し訳無いのですが父は不在でして。もう少ししたら帰って来ると思いますので中でお待ちください」


「帰って来ないんだよ」


「……え?」



 この人は今なんて?



「ロウリィちゃん、辛い現実だってことは分かってる。でも目を背けちゃいけないの。受け入れなくちゃいけないの」


「ちょ、ちょっと待ってください! 何を仰っているのか意味が分かりません!」


「じゃあ教えてあげる」



 シルフィーさんは私の腕を掴んで、ある所へと連れて行った。


 それは先ほども見た墓地。家族の名前が刻まれており、多数の花が添えられている。



「これを見て何も思わない? 何も思い出せない? ここであなたは私に誓ったんだよ。道具管理者の力を継承するって。1人の女の子を迎えに行くんだって」


「……何かの悪い冗談ですか? なぜお父さんたちのお墓があるんですか? あ、分かりました! 私の17歳の誕生日のサプライズですね?」


「……これでもダメなんだ……」



 シルフィーさんは落ち込んだ様子で私にこう続ける。



「ロウリィちゃん、あなたはもう17歳じゃないんだよ。あの惨劇からもう3年が経ってる。だから今のあなたは20歳」


「え、そんなはず……」



 私は念写の巻物で自分のステータスを確認した。


 そして私は驚愕した。年齢が20歳であることは些細なことだった。



「なんですかこのステータス……!!」



 レベルが70を超えており、諸々のステータスが大幅に上昇している。ついこないだまでほぼ全てが一桁だったのに。



「な、なにか細工をしたのですか!?」


「してないよ。それはあなたが努力した証。念写の巻物は嘘を付かない」


「仰っている意味がよく分かりません! それにお父さんたちをどこに隠したんですか!?」


「隠してないよ。ロウリィちゃんのご家族はもうこの世にいないの」



 目の前の現実と告げられた現実が符合してしまう。



「……嘘だ……何かの悪い夢だ……」


「悪い夢か……私もそう思いたいよ。でもね、これが現実なの」



 シルフィーさんは私に一通の手紙を手渡した。



「ギルド協会の者として、これをあなたに渡すね」



 そこには技能継承に関する書類が一式入っていた。



「ロウリィちゃん、あなたはもう何も覚えていないけど、あなたの夢は叶ったの。ミーザスの北部にあなたの塾が用意してある。そこで道具管理者の技能を継承してあげて。それが、あなたの願いだったから」


「ま、待ってください! 私の願いってなんですか!?」



 シルフィーさんは去り際に私にこう言い残した。



「その場所に行って、荷物を検めて見て。何か記憶を取り戻す為に役立つ物が入っているかも」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私はシルフィーさんに言われるがまま、地図の場所に向かった。そこには真新しい建物が建っており、私の名前の表札があった。



「ここが……私の……塾?」



 恐る恐る入ってみる。綺麗な内装の部屋の中央にぽつんとリュックが置かれている。



「あれ? あれって私のお気に入りのリュックだ……なんでこんなにボロボロなの?」



 16歳の誕生日にお母さんに貰ったリュック。至る所が破れており、修繕の跡が見られる。明らかに使い古した状態だ。



「中は……うわっ、いっぱい入ってる!?」



 中には見た事の無いアイテムがたくさん入っていた。


 短剣、杖、薬草、回復薬、香水などなどだ。綺麗に整理整頓されており、その並べ方の癖からやはりこの鞄が私自身の物であると理解出来た。でも、私はこんな物は知らない。



「? これは……」



 その鞄の中には『大切なもの用スペース』が作られており、そこには3つの物が入っていた。


 日記と写真と分厚い本だ。


 私は最初に分厚い本を手に取る。



「これって……スキルの書? なんでこんな高価な物を私が……」



 表紙には【特級魔法石使い】、筆者の欄にはアリエル・エーテ・ルミナと書かれていた。


 筆者は知らない人だったけど、私はそのタイトルに目を疑った。



「と、ととと、特級!?」



 値段がつけられない程の代物だ。偽物だと思い捲ってみると難解な文字列に遭遇する。



「うわ本物だ……所有者も私になってるし……この写真はなんだろう?」



 私はそのスキルの書を置いて写真に手を伸ばした。


 それは集合写真だった。和気藹々とした雰囲気が伝わってくる1枚だ。



「この写真に写っている人……どこかで見覚えが……うっ!?」



 頭の中が掻き混ぜられている様な痛みが私を襲った。



「あっ……あぁ!! うあぁあああ!!?」



 何かの光景がフラッシュバックする。



『……ドさん、またデートしてくれますか?』


『……たし、約……してるんです。全てが終わっ……リスを迎えに……くって』


『私、夢が出来ました』



「はぁ……はっ……今のは……一体……」



 あれは私の声だった。でもいずれも知らない場所で、知らない人たちが相手だった。



「知らない人……?」



 私はもう一度その集合写真を見る。


 私もその写真に映っており、先ほどの光景に出て来た人物も映っている。



「……夢……私の……夢ってなに? この人たちは……誰?」



 どんどん、と塾の扉が叩かれたのはその時だった。



「あ、はい。今行きます!」



 扉を開けると多くの人々がそこに立っていた。年齢層は比較的若く、性別はバラバラだ。



「うわびっくりした!? なんですか一体!?」


「あ、あの! 六賢者のロウリィ・フェネット様でお間違いないでしょうか!?」


「え、六賢者? えっと、ロウリィは私ですけど……」



 すると彼ら彼女らは私を見て声を揃えて言った。



「「あの、弟子にして下さい!!」」


「えぇええ!?」



 訳の分からないことが多すぎて混乱しそうだよ。

※本日は17時にもう1話更新致します。

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