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ローゼリア/決意と選択

 私は決めなければならない。


 私のこれからと、アキトのこれからを。



「そんなの、簡単に決められないよ……」



 私は自室でアキトを抱いて必死に頭を回転させていた。


 クロノスの力が衰退を始めている私がサイナスを閉じ込めておける時間は短い。リーヤ達だって目覚めてないしもう一度サイナスが覚醒してしまったら今度こそ、この世界は終わり。


 一方でアキト。


 アキトはシグルドの血筋でもあり、私のクロノスの力を宿している。サイナスを封印から解放しようという者たちが現れた時、この子にも危険が及ぶ可能性がある。



「どうすれば良いの……ねぇ、シグルド……」



 その時、私の部屋に光が溢れた。その強烈な光を放っているのはあの光剣フィクサだ。



『……ザリー』


「え……」



 私は耳を疑った。フィクサからあいつの声が聞こえる。



「シグルド……? そこにいるの?」


『あぁ、このような形になってしまってすまない』


「あ……あぁ……シグルド!!」



 私の問いかけにその声は確かに答えた。


 私はぼろぼろと零れる涙を拭いながら短剣に駆け寄る。



「馬鹿! 大馬鹿! 今までなんで黙ってたの!? 色々大変だったんだよ!?」


『それも申し訳ないと思っている。俺は閉じ込められたあの時、フィクサに自分の思念を閉じ込めた。隔絶された次元間の会話……着想自体はルミナのオメガコネクター乙式から得た物だったが、急を要したことと、初めての試みだったことから、確かな定着までには至らなかった。この通信もすぐに途切れるだろう』


「そんな……じゃあこの会話も!!」


『あぁ、あと5分もすれば途切れる。次にやり取りできるのはいつになるか分からない。だからロザリー、聞いて欲しい事がある』



 シグルドの思念は私に話した。



『アキトを異世界に送って欲しい。シズクの先祖が生まれ育った場所、そこが望ましい』


「その異世界なら安全、ってこと?」


『文献を読む限りその異世界には魔物はいない。少なくとも今のグリヴァースよりかは安全だろう。魔剣の軍勢には多数の残党がいる。今は力を蓄えているが、そう遠くない未来再び活動を始めるだろう。主を幽閉したロザリーと、俺の血筋であるアキトを狙って』



 それは予測していた最悪のシナリオ。



「でもシグルド……それは、アキトを手放すってことになるんだよ?」


『分かっている。辛い決断だということも。だが幸い、俺たちには仲間がいる。リサは単独で時空間を移動でき、シルフィーもそれに準ずるアイテムを持っている。アキトの未来は彼女たちに託そう。そしてローゼリア、お前は』


「分かってるよシグルド。それはもう決めてる」


『……俺の仮説が正しければ、それを行うとお前は』


「それも、分かってる。全部承知のうえで決めたの。私の中で引っ掛かってたのは、私がいなくなった後のアキトが心配だったってこと。でも、それもあんたの案を採用すればクリアになる。だから決めた」


『……そうか。俺とお前は似たような運命にあるようだな』


「運命共同体ってやつでしょ? 良いじゃん」


『ふっ、そうだな』



 シグルドの気配が遠ざかっていくのを感じる。



「シグルド!」


『ロザリー、またしばしのお別れだ。俺はお前とアキトを愛している。それだけは忘れないでくれ』


「うん! 私も同じ気持ちだよ!」



 シグルドの思念が笑ってくれた気がした。



『それとロザリー』


「なに?」


『アキト……すごく良い名前だと思う。願わくばその名前の通り絆に恵まれた……』



 シグルドの思念が完全に途切れた。



「……うん、そうだね。願わくば、アキトの人生にたくさんの絆が生まれます様に……よし!!」



 私は決意し部屋を出る。


 勢い良く開かれた扉に驚いたのか、3人が目を見開いて驚いた。



「ローゼリア? もう大丈夫なの?」


「うん! 私決めた! みんなとさよならする!!」



 やらなければならない。


 私はこの世界の為に、次世代の子供たちの為に、やらなければならない。



「そうと決まれば準備だよ!」



 さよならなんて、言いたくはないけれど、やらなきゃいけないんだ。

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