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ローゼリア/偽りの英雄王①

 ルミナちゃんがコールドスリープ状態に入ったのを見届けてリヒテルに戻ると、町はお祭り騒ぎになっていた。どうやら私たちが無事帰還したことで戦いが終わったと喜んでいる様だった。



「クロノス様! 有難う御座います! おかげさまでこの世界に平和が訪れました!」



 リヒテル城の衛兵が私にそう言った。


 正直、どう返せば良いのか分からない。


 今のこの平和は仮初めの平和に過ぎない。全ての元凶サイナスを倒した訳じゃないからだ。


 私の【空間断絶】が有効な間は平和かもしれないけど、もし術者の私が死んだらサイナスの封印は解けてしまう。だから、この平和は長くても数十年程度しか続かない。


 目の前で喜んでいる男性が私に言う。



「あの、シグルド様はいらっしゃらないのですか?」


「っ!? そ……れは……」



 リサが間に割って入る。



「ごめんなさい、私たちまだ帰ってきたばかりなの。明日また報告の場を設けるわ。それで良いかしら?」


「これは! 申し訳御座いませんでした。舞い上がってしまって。どうぞお戻り下さい」


「ありがとう」



 私とリサは宿に戻った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「リサ、さっきはありがとね」


「気にしないで。それよりもこの状況をどうにかしないと……由々しきことよ」



 宿のリビングで私とリサが頭を抱えているとリーヤ達の様子を見てくれていたシズちゃんとシルフィーが2階から下りて来た。


 シルフィーが私たちに気付いて口を開く。



「あ、おかえりなさい。……あれ? ルミナちゃんは?」


「それが……」



 私は事の経緯を2人に話した。


 聞き終えたシズちゃんが言う。



「そうですか……ルミナ殿は解毒の為に長い眠りにつかれたのですね。彼女がそう決断されたのであれば尊重するのが仲間である我々の務め。とはいえ……お二人に辛い任を背負わせてしまい申し訳御座いませんでした。それを見届けた時の心境は察して余りあります」


「ううん、シズちゃんこそリーヤ達の面倒見てくれてありがとね。3人の様子はその後どう?」



 シズちゃんとシルフィーは目を合わせて俯く。



「ダメです。目を覚ます気配すらありません。外傷は無く、体は健康体そのものなのですが……」



 シルフィーがそれに続く。



「それにね、たまにうなされてるの。言葉にならない声で。正直、見てられなくて……それに、目を覚ましたとしてもお姉ちゃん達はこの旅の事を忘れてしまっている。シズクは勿論、リサとだって初対面。ロゼちゃんは数年間会ってない親友に逆戻り……色々と問題は山積みだよね」



 その話をリサは複雑な表情で聞いていた。


 リサが言う。



「正直、記憶を奪うという戦術がここまで有効だとは思わなかったわ。【忘却無効】のスキルがあれば未然に防げたかもしれないのに……」


「ううん、それだけじゃダメだよ。サイナスの聖鎚スパルタスは対象のスキルも無効化してしまうから。【忘却無効】を覚えていても、結末は変わらなかったと思う」


「「……」」



 宿がしんと沈黙に包まれる中、外からはこんな賑やかな声が聞こえ始めた。



「シグルド様御一行がお戻りになられたぞ! 明日正式にご報告があるそうだ!!」


「なんだって!? ではもう俺たちは戦わなくて良いのか!?」


「そうだよ! 平和な世が訪れたんだ!!」



 外のそんなやり取りを聞いて申し訳ない気持ちになると共に、先程リサと私が悩んでいた問題にぶち当たり、焦燥感に駆られる。



「……この世界には王が必要よ」



 リサがそう言った。


 彼女はこう続ける。



「そして、リヒテルの人々は先の戦の先導者であるシグルドにその王の姿を見出している。皆が一様に、彼こそが王に相応しい者だと思っている。勿論、私もだけれど」


「でも、シグルドは今いない……どうしよう、このままじゃ世界が混乱に飲まれちゃう」


「そんな問題は、些細なことですよ」



 と言ったのはシズちゃんだ。



「え? それってどういう……」


「私に秘策があります。聞いて下さい」



 シズちゃんの秘策とは……。

本日は17時にもう1話更新致します。

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