ロウリィ/【特級魔法石使い】
「んー?」
宿屋に私宛ての封筒が入っていた。
「これってもしかして……やっぱりギルドからだ!」
差出人はリヒテルのギルドだった。この中には私の夢への切符が入っている……かもしれない。
「お願いお願いお願いお願い! 神様!」
私は中の紙を取り出した。そこにはこう書かれていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロウリィ・フェネット殿
あなたの『技能継承』に関する申請を正式に受諾致します。
書類の記載が御座いますのでギルドへお越しください。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……お? おぉおおおおお!! やったやりましたよ! って誰もいないし!!」
みんな買い出しやら修行やらに出掛けていて宿には誰もいなかった。喜びを分かち合いたいのに相手がいないのは結構寂しい。
「えぇー折角のビッグニュースなのにぃ!」
「たっだいまー!」
玄関が開かれ、ジャンクパーツを手に持ったルミナさんが姿を現した。
「おろろ? ロウリィどうしたのだ? 嬉しそうな表情をしているけど?」
「嬉しい事があったんですよ! ギルドから承認が下りて、正式に弟子を取れる立場になったんです! これでフェネット家の力を……道具管理者の力を継承できるんですよ!」
興奮気味の私に対し、ルミナさんはきょとんと首を傾げている。
「あ、ごめんなさい! 興奮して色々説明をすっ飛ばしてしまいました」
私はルミナさんに概要を説明した。
アイテムマスターという稀有な能力者を擁していたフェネット家は今や私しか残されておらず、この技術を後進に残していきたいという夢を持っているということを。
私が話し終えるとルミナさんは深く感心した様に口を開く。
「おぉ……立派……凄い立派だよ!!」
ルミナさんは私の手を握ってブンブンと縦に振った。
「わっ、わっ」
「ルミナより年下なのにすごいよ! 尊敬するのだ!」
「尊敬だなんて。私にはエーテル兵器verスカイエッジみたいな立派な機械は造れません。雲の上の人みたいなルミナさんに言われるとくすぐったいです」
「ふへへ、ルミナちゃん天才だからね♪ でもそれを差し引いてもロウリィはやっぱり立派だよ。若干18にしてギルドから承認が下りたのも頷ける! なにかお祝いをしないとね」
「お祝いだなんて! 良いですよ!」
「遠慮しない遠慮しない。そうだなぁ……じゃああれをあげる!」
ルミナさんは2階の自室に駆け上がり、すぐに下りて来た。
その手には分厚い一冊の本が握られている。
「はいこれ! ルミナの研究成果だよ!」
「研究成果……? え、これってスキルの書じゃないですか?」
――スキルの書。
読破すればそのスキルを取得できるレアアイテムである。読破さえできれば誰でもそのスキルを習得できるということもあってこの世界では極めて有用なアイテムだ。
ちなみに【心得】などの下級クラスのスキルの書でも10万ガルドは下らない値段で取引されており、中級、上級と上がるごとに桁が『2つずつ』上がっていく。つまり上級クラスのスキルの書は億を超える値段だということだ。
「なんでルミナさんがこれを?」
「ほら、ラボラティアにいる時にこの世界のエネルギーに関する研究をしてたって言ったっしょ?」
「はい、それがマナであったりエーテルであったりするわけですよね?」
「あい! ちなみに『エーテル』っていうのは『エーテ・ルミナ』から取って命名してるんだけどそれは置いておいて。このスキルの書はルミナがエーテル研究を進める中で完成した副産物。結論から言うとそれを読めば、エネルギー結晶である『魔法石』を上手に扱えるようになるのだ!」
「魔法石……ということは【魔法石使い】のスキルが納められているということですね。中を見ても良いですか?」
「もちろん!」
私はその辞典のように分厚い本を開く。そこには難解な文字の羅列が記されていた。
「うっわ、私でも読破まで十年くらいかかりますよこれ。ちなみにこれって表紙に何も書いていないですけど、等級はいくつなんですか? 見た所『下級』ではなさそうですが」
「ふひひ、それが聞いて驚くなぁー? ずばり!『特級』なのだぜ!!」
「えっ」
ルミナさんの言葉を聞いて息が詰まった。
『上級』のスキルの書ですら億越え。『特級』となるともはや値段を付けることすら出来ない伝説級のアイテムである。
「……と……特級? 冗談ですよね……?」
「ふふん、それが冗談じゃないのだ! その書物にはグリヴァースの魔法石に関する情報が全て網羅されていて、読破さえ出来れば【特級魔法石使い】のスキルを行使出来る様になって、低レートの魔法石から高レートの力を引き出すことも可能なのだ!」
「え、そんな能力者、人間国宝レベルですよ!?」
「ということは筆者のルミナも国宝級の天才ってことっしょ? やったやった!! ふふっ、いつの日か、ロウリィが弟子を取った時にその本を見せてあげてよ。内容が難解だから全員が全員読めなかったりするかもだけど、きっとこの本はこの世界の役に立つはずだからさ!」
ルミナさんは満面の笑みを浮かべて私にスキルの書を差し出した。
「……こんな貴重な物を頂くのは気が引けますが、ルミナさんがグリヴァースを思う気持ちは絶対に無駄にはさせません」
「あいっ! 約束なのだぜ?」
「はいっ!」
こうして私はルミナさんから【特級魔法石使い】のスキルの書を譲り受けた。
少し未来の話をすると、この本は思っていた何倍も難解で、弟子の中で読破出来た子は『たったの1人』だけだった。
――彼女の名は、ナルエル・ビートバッシュ。
彼女と私が出会うのはまだまだ先の話である。




