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シグルド/vsアルトリウス①

 リサにキールの事を話したからか、久々にあいつの夢を見た。


 あれはまだ俺が王となって間もない事の話だ。



『シグ、手合せしようぜ』


『またか。何度やっても結果は同じだろ』


『何度やったって結果が同じでもやるんだよ。お前は俺の目標で、護るべき男なんだ。そいつより弱くちゃ戦士長になった意味がねぇ。戦士長最高位のAの称号が泣いちまうぜ』


『はぁ……負けず嫌いなだけだろ……分かった。剣を抜け』


『そうこなくっちゃな!』



 キールは強かった。


 戦士長最高位『A』は伊達ではなく、オーレリアで剣聖とまで言われた俺と拮抗し、一瞬でも気を抜けば負けそうになる時もあった。



『どうしたシグ。まだまだ俺はペースをアゲられるぜ!!』


『ではアゲてみると良い。悉く防いでやろう』


『言ったな? そーらっ!』



 キールの剣筋は今でもよく覚えている。頭と体にこびりついているのだ。


 キールは一本の剣を器用に左右持ち替えて戦う独特のファイトスタイルであった。


 それも、誰それに教わったものでは無く、我流なのだという。故にとても不規則で剣筋が読めない。思いもしないタイミングで、思いもしない角度から剣が襲いかかってくる。キールとの手合せは俺にとっても良い刺激となっていた。


 だが、そんなキールには決定的な弱点があった。


 手合せの最中、町の女性が傍を通りかかった。



『お、宿屋のプリムちゃん発見』


『隙あり』


『あっ……!』



 弾き飛ばされたキールの剣が宙を舞い、地面に突き刺さった。



『んだぁああー! やられちまった』


『まったく、女性の尻を追いかけてないと気が済まないのかお前は。またアニエスに怒られるぞ。キールさんは最低ですってな』


『うお、アニエスちゃんのあの冷たい目は戦の最中のお前そっくりでなかなか堪えんだよな……。親友の妹に嫌われたくないからな、自重するよ。そんじゃ俺はここで。プリムちゃーん!!』


『行ってしまったか……あいつを見てると自重とは、どういう意味の言葉だったかを忘れてしまいそうになるな……』



 底が知れず、面白い奴だった。俺はキールと十数年共にいたが、あいつの本気というのを見たことが無かった。


 剣聖である俺と拮抗する程の腕を持ち、『あの戦い』では数千人規模の部隊と交戦しその全てを屠った男、キール・アキトゥリス・テムジン……胸を張って言える。


 あいつは俺の大切な友だった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 それはリサが迷子になっていた翌日の朝の事。


 皆と食事を摂っていると真向かいに座っていたアルトが俺にこう言った。



「シグ、いっちょ俺と手合せしねぇか?」


「手合せ?」


「そう、手合せ。体、鈍っちまってるんだろ? 感覚や魔力を取り戻せても結局資本は丈夫な体だ。俺の訓練にもなるしお前のリハビリにもなる。悪い話じゃないと思うけどな」



 と、言うアルトリウスの頭には大きなたんこぶが出来ていた。理由はお察しだ。



「ちょっとアルト、いきなりなに? シグルドが困ってるでしょう?」



 リサのその言葉にロウリィが同調する。



「そうですよアルトリウスさん。シグルドさんは病み上がりなんですよ? 悪化したらどうするんです?」


「お、その『アルトリウスさん』ってのもう一回頂戴。なんか……すげぇ良い」


「うわぁー……もう絶対に言いません。なんですか名前呼ばれるだけで喜んで。分かってましたけど変な人ですね」



 ロウリィの言葉にリサが分かりやすく落ち込む。



「ごめん……ホントごめんロウリィ……私がこんなやつを召喚したばっかりにご迷惑を……」


「あぁっ!? なんでリサさんが泣くんですか!? リサさんは悪くありませんよ」



 そんなやり取りの最中、ローゼリアが口を開く。



「いんじゃない? シグルドも血が騒いでるって感じするし」


「あぁ。アルト、その申し出受けよう。俺もお前と手合せしたいと思っていた所だ」



 俺がそう言うとアルトは人懐っこい表情を浮かべて言う。



「そうこなくっちゃな!」


「ご飯を飛ばすな」



 ちょっとした既視感が俺を襲った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 食後、俺とアルトはそれぞれの武器を携えてリヒテルの闘技場に移動した。


 ちなみに興味津々なのか、残務処理で里へと戻ったカストルを除き、パーティメンバー全員とシルフィーが帯同している。



「あい、天才のルミナちゃんに良いアイデアがあるのだ!」


「いや、いい」


「むぅーっ!!」



 頬を膨らませて「喋らせてっ!」と訴えてくるルミナ。いつもからかい甲斐があるやつだ。



「冗談だ。その良いアイデアというのは?」


「この手合せをより面白くエキサイティングにするためのアイデアなのだ! アイズー、アレの転送をお願い」


「承知致しましたルミナ様。お送り致します」



 転送されて来たのはオメガコネクター甲式の様に手首に巻くタイプの機械だった。アルトと俺の分が1つずつある。



「これは?」


「【脅威判定】ってスキルがあるっしょ? それを参考に作ってみたのだ! えっと、これをこうして……よしっ!」



 ルミナが自ら腕にその機械を取り付けた。



「じゃあシグルド、私に剣を振り下ろして。あ、間違っても斬らないでね!? 寸止めで頼むのだ」


「寸止め? 分かった、絶対に動くなよ」



 俺はグラムを鞘から抜き、ルミナに振り下ろす。


 剣がルミナまであと数センチといったところだろうか、急にその機械からブザーが鳴り出した。


 俺は剣を止めて鞘に納める。



「ブザーが鳴ったが?」


「あい、結論から言うと、この機械は持ち主の『死に瀕する危機』に反応する機械なのだ! ブザーが鳴ったら、持ち主になにかしら死に瀕した危険が迫っている証拠。つまり、鳴ったら死んだのと同義。単純っしょ? 詳しい原理聞いてみる? しょうがないなぁ、特別に」


「いや、いい」


「むぅーっ!! いじわるいじわる! 今度料理に内緒でトマト入れてやるからな!!」


「勘弁してくれこの通りだ」



 俺が頭を下げたのと同時にアルトがルミナの手から機械を取り上げ、興味津々な様子で見始めた。



「へぇーなるほど面白い機械だな。勝負の判定にも使えそうだ。こんな凝ったもん作れるなんて、幼い見た目に似合わずやるなぁルミナちゃんは」


「天才だって褒めてくれる!?」


「天才も天才、超天才だぜ」


「超天才! わっはっは!! ねぇリーヤ! ルミナ褒められたよ!?」


「黙って座っとけボケ」



 半ば強引に、リーヤに取り押さえられる様に座らされたルミナは置いといて。


 俺とアルトはその機械を手首に巻いた。そのごつい見た目に反して付けてないと錯覚する程軽いことに驚いた。



「ふむふむ、この軽さなら勝負に支障はなさそうだな。さぁシグ、剣を抜けよ」



 アルトは聖剣エクスカリバーを抜いて構えた。



「っ!? その……構えは……」



 右手に持った剣を俺に向け、左手は曲げた状態で体の前で緩く構えるその姿勢。


 相対して気が付いた。その構えがキールのものと、ぴたりと重なることに。



「ん? どうしたシグ?」


「……いや、何でもない」



 我流剣術のキールと同じ構え……偶然以外にあり得ないのに……なんだこの胸騒ぎは。



「そんじゃ、やりますか! 加減はしねぇぞシグ!」


「……来い!」



 懐かしい気持ちを抱きながら俺は剣を抜き放った。

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