楯無明人/割れている山
ナルを仲間に加えた俺たちはミーザスを北上しカナル山を目指していた。
で、眼前にそびえるまぁまぁ大きな山がそのカナル山である。あれを今から登るのか……登山あんま得意じゃねぇんだが。
「さてと、行くわよ」
カヤとナルは『登山口はこちら』と書かれた古ぶるしい看板を無視して真っ直ぐ突き進む。
「なぁお前ら、登山口はこっちって書いてあるんだが?」
「登りたいのならどうぞ。私たちはこっちから行くわ」
カヤはそのまますたすたと登山口とは違う方向へと歩いて行った。ナルは俺を見て飛び跳ねながらこっちこっち、と手招きしている。
俺は仕方なく登山口を引き返して2人に合流する。その先にあったのは……。
「なんじゃあこりゃあ……!!」
これをどう形容しようか。ここは単刀直入に言おう。
山が『割れて』道になっているのだ。
「原因は地殻変動だと噂されているわ」
カヤの言葉にナルが返す。
「でも自然の力でここがこうなったとは到底思えないっす」
「私もそう思うわ。微かに魔力の痕跡があるもの」
「魔力の痕跡ってことは、これが人為的なものだって言いたいのか? こんなことできる人間なんかいるか?」
「いない……とも言い切れないわ。少なくとも私は2人知っている」
「2人?」
「えぇ。『英雄王シグルド』と『大召喚士レミューリア様』の2人よ」
シグルド……またこの名前か。
この世界に来てから何回か耳にするこの名前。
「スキルには色々あるのはもう知っているわよね? その中でも伝説級とされているのが【大地掌握】というスキルよ」
「大地掌握?」
ナルがその会話に加わる。
「そのスキルなら師匠から聞いたことがあるっす。なんでも、でこぼこの場所を一瞬で平らにしたり、海を裂いて道を作ったとか、そりゃあもう滅茶苦茶っす」
「海を裂いて道を作った!? んな馬鹿な話が……あ、でもこの短剣は確か……」
俺は始まりの町エインヘルにあった『英雄の道』という場所でこの短剣を引き抜いた。英雄王シグルドが作ったとされる道だ。
その【大地掌握】というスキルならそれが可能だというのだろうか。地形を滅茶苦茶にするスキルってヤバすぎだろ。もはや神様級じゃんか。
「で、もう1人のレミューリアって人は誰なんだ?」
「大召喚士レミューリア様。召喚士の始祖にして私たち錬金術師の始祖。大昔この世界の理を構築した人物とされていて、あなたに理解しやすいように表現するならば、イザナミノミコトにあたるわ」
こっちは神様そのものだった。
「さて、余計な話はこれくらいにして行きましょうか」
カヤの掛け声で俺たちはその洞窟とも渓谷とも言えない場所を進む。
すると、カヤが何故か杖を取り出して言う。
「あぁそうだ。あなたには言い忘れていたのだけれど、ここは魔物の住処になっていてね」
すぐ後、キィキィという鳴き声が聞こえ始めた。
「な、なぁ……この声何? てか声じゃないよな? 風か何かの音ですよね?」
「あなたの予想は悉く外れるわね。これは『キルバット』というコウモリの魔物の鳴き声よ」
「やっぱ魔物かよ……」
俺は腰に装着しているホルスターから英雄王の剣を抜いて構える。見上げると確かに黒い影がいくつか視認できる。
「相手はコウモリよ。短剣が役に立つとは思えないけど」
「俺にはこれ一択しかねぇの! 残念極まるがな」
「そんなに気張らずとも大丈夫よ。私たちはパーティ。適材適所という言葉があるように、ケースバイケースで対応しましょう。ね、ナルちゃん?」
ナルは既に魔法石の力を解放していた。
「はいっす! 中距離以降は私にお任せあれ!」
ナルが手に持っているのは緑色の魔法石である。ナルが魔力を込めたと同時にこの裂け目にビュウと風が流れ込んできた所を見ると、あれは『風』の魔法石か?
「キルバット程度ならこんなもんで十分! さぁ、拡散するっす! 風の刃!!」
ナルが魔法石を天に掲げると同時に風の勢いが増した。
目にゴミが入りそうになり、目を手で軽く覆っているとボトボトと空から鷲ほどの大きさのコウモリが落ちてきた。
「うわキモッ!? なんだなんだ!? コウモリの雨!?」
よく見るとこのコウモリたちは体に『切り傷』を負っている。
「これが風の魔法石、風を集約して放つことが出来るっす。ちなみにこの魔法石はDレートっすけど、風の刃はBレート相当の技っす」
ナルはスキル【魔法石活用術】の特級を持っている。
簡単に言えば、魔法石の力を限界以上に引き出せる能力だ。今のはそれを使ってDレートの魔法石からBレート相当の力を引き出したということ。
例えるなら、原石を即座にダイヤに変える力……控え目に言ってもチートである。
「この通り、遠距離はナルちゃんに任せておけば大丈夫よ。さぁ、増援が来る前に進みましょう」
俺たち3人は出口を目指して早歩きで進み始める。
周囲の景色が暗くなったのはその時だった。
「なんだ? 急に暗く……」
俺たちが一斉に上を見上げると、そこには馬鹿みたいに大きなトカゲがいた。




