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ローゼリア/勝利への秘策

 シグルドが戦争の前にこう言っていた。



『戦争の時、常に考えなければいけないことがある。それは相手の考えを読むことだ。次に相手が何をしてくるかを常に考えながら戦いに臨む。心構えが出来ていればイレギュラーにも比較的柔軟に対応できる。戦場ではイレギュラーが多分に起きる。増援、伏兵、誘拐……なんでもありだ』



 シグルドが言う誘拐というのは、妹であるアニエスちゃんのことだろう。アニエスちゃんは戦争の最中に攫われた果てに、自ら命を落としたって言っていたし。



『俺も好きでこんな人生を歩んできたわけじゃないが、俺の周りでは争いが絶えなかった。だからか、感性がよく働く。魔剣の軍勢は必ず、転移門を用いた奇襲を仕掛けてくるだろう。そこで、時空魔導師であるロザリーに頼みたいことがある』


『うん、なんでも言って』



 戦争が始まって1週間。あの時にシグルドから提案された作戦を行使する準備は整った。


 当のシグルドはまだ魔力の枯渇から復帰していない。私がやらないといけない。さっさと平和にして、両親を【空間断絶】から救い出し、私はあいつと一緒に生きるんだ。



「みんなー!!!」



 私は声を拡散する魔術を用いて全大陸に声を飛ばす。



「遅れてごめん! 準備が整ったから!! 最後の力で魔剣の軍勢を押し返して!!」



 それに対し防衛隊長のフリッツが呼応する。



「これで最後だ!! 俺達の手でリヒテルを守るんだ!!」


「「おぉおおお!!」」



 続いてミザエルのロウリィちゃんからの通信。



『こちらロウリィです! ローゼリアさん! こちらはいつでも大丈夫です! シルフィーさんが魔物をほとんどやっつけてしまいましたから!!』


「やっぱやるなぁシルフィー。了解! 最後の最後まで油断しないで」


『はいっ!』



 続いてキリアスのエスト。



『こちらエストじゃ。一時期はどうなるかと思ったが、リサのおかげで持ち直したぞ。いつでもオッケーじゃ』


「分かった。爆発の時の怪我は大丈夫?」


『竜人は怪我の治りが早い。問題なしじゃよ』



 最後にカルナスのリーヤ。



『いつでも良いぜロゼ。というか早くしてくれ、兵糧が尽きる』


「心配するのそこなんだ……」


『ルミナちゃん悪くないんだからな!?』


『あぁん!? てめぇが主犯なんだよ!! てかお前、戦いながらクッキー食ってんじゃねぇよ!!』


「あっはは、元気そうで良かったよ。それじゃあ……やるからね!」



 私は秘策開始の合図を送る。



「ステルケンブルクのみんな! 今だよ!!」



 私のその合図で各大陸に時空魔導師が集結し、一斉に魔力を練り始めた。


 これこそがグリヴァース連合軍の秘策。


 魔剣の軍勢は恐らく転移門から現れる……それがシグルドの読みだった。


 魔剣の王メレフが『軍勢』という言葉を口にした瞬間に相手の戦力が膨大な物であるとあたりを付けたらしい。そして、膨大な戦力を戦場に送り出すために最も効率的かつ効果的なのは時空間魔術を用いた『転移門』だ。


 だから、若干のイレギュラーがあったとはいえ、この状況はこちらの想定通り。言ってしまえば、今までの出来事は戦上手なシグルドの手の上だったということだ。



「さぁ! 閉じちゃって!!」



 次の瞬間、魔剣の軍勢の転移門が一斉に閉じられた。


 ステルケンブルクの時空魔導師が総力を挙げて詠唱した『反転移閉塞』の術式である。準備に時間はかかったけど、これで魔剣の軍勢は増援無き戦を余儀なくされた。残党は最前線のアルトリウスが殲滅してくれているし、勝利への方程式は整ったって感じかな?



「待たせたのぉクロノスよ」



 そう言って姿を現したのはステルケンブルクの大爺様。クロノスの力に目覚めた私に修業を施してくれた人だ。



「大爺様! この度は私の申し出に承諾してくれてありがとうございます」


「うむ。そなたも準魔剣収集、ご苦労であった。その果てにこの様な戦争に発展するのは予想外じゃったがな。ましてや、キグナスが凶刃に倒れるとは……儂らも奴の死に報いなければならぬ。これはそのための術式じゃ」


「ほんと、感謝しかないよ。おかげでこの戦争も」



 刹那、頭上に転移門が現れ、黒い竜が姿を現した。


 邪竜ウロボロス……こいつが最後の敵か。



「この強大な魔力……ただ者ではないぞ!」


「大爺様! 下がっていて下さい!!」



 刹那、邪竜ウロボロスの首が絶ち斬られ、黒い瘴気が溢れ出した。



「もう大丈夫だ、ロザリー」



 私をロザリーと呼ぶのは、両親とあいつしかいない。


 短髪で、筋骨隆々な逞しい背中。右手に初期武器である魔剣グラム、左手にミアちゃんから貰った専用武器、光剣フィクサを携えた男。



「シグルド!!」


「あぁ、待たせたな。俺がお前を……この戦場を守ろう。グラム、フィクサ……お前らの力を俺に貸してくれ!」



 シグルドはすかさず【配置転換】を用いて転移した。3日の休養で魔力が完全に回復したシグルドは魔力を惜しみなく開放し、アルトリウスと共に瞬く間に敵を殲滅した。



「あの者が、そなたのパートナーか?」


「はい! シグルド・フィクサ・オーレリア。私の自慢のパートナーです!」


「強大な力を秘めておる……良きパートナーに恵まれたの」


「はい!」



 それから2時間後、シズクからの通信が入った。



『各位に通達! グリヴァース全土の魔剣の軍勢の制圧を確認! 勝ちました! 私たちはこの戦に勝ったんです!!』



 1週間とちょっと続いた大規模な戦争は、蓋を開けてみればグリヴァース連合軍の圧勝で幕を閉じた。

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