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カストル/稀代の錬金術師の力

 俺たち竜人部隊の前に現れた女性は錬金術師だった。


 ――錬金術師。


 近年はその数を減らしつつあるが『防御に特化』した魔術を扱うクラスである。


 そして彼女『イスルギ・リサ』はこのグリヴァースにおいて最も強大な魔力を秘めた錬金術師だと名高い人物。


 しかしよもや、ここまでとは思わなかった。



「防御に特化……? これのどこが防御なんだ……?」



 目の前ではイスルギ・リサが敵の大群を蹂躙していた。



「逆巻く水流よ、集いてその姿を現せ! 水霊召喚! フェリル・アクエリア!!」



 イスルギ・リサが魔術を詠唱し終えた瞬間、水の霊アクエリアが姿を現した。姿形は羽衣を纏った女性の様な水の塊だ。



「アクエリア……あれが噂に聞く精霊というやつか」


「えぇ、それもただの精霊じゃなく、【特級精霊召喚術】で召喚した『フェリル』の名を関する精霊。その力は通常の数十倍にも及ぶわ。……アクエリア、敵に水を打ちつけて!」



 リサが水の精霊に合図をした瞬間に精霊は膨大な量の水を生み出し、魔剣の軍勢に叩きつけた。


 その直後、この大陸の凍える寒さで魔物達は瞬く間に凍りづけになり、リサはすかさず次の精霊を召喚した。



「大地に宿りし地の聖霊よ、魔力を帯びて顕現せよ! フェリル・タイタン!!」



 氷の大地が割れて巨大な人型の岩石の塊が姿を現わした。



「フェリル・タイタン! その腕で奴らを粉々に砕いて!!」



 地の精霊タイタンはその大きな腕を振り降ろし、凍った魔物達を粉々に粉砕した。


 俺たち竜人部隊が苦戦していた魔剣の軍勢の本隊をものの数秒で半壊させたのだ。


 これが噂にきく稀代の錬金術師の実力なのか。



「雑魚の討伐は完了。問題はあの魔物たちね。一際強大な魔力を纏っている魔物が4体。兎に狼に馬に虎……まるで動物園ね」


「我らはカテゴリーAと称している。いずれも戦況を左右するほどの力を持った魔物達だ」


「カテゴリーA……ということはその側近らしき魔物はカテゴリーBと言ったところかしらね」


「その通りだ。いずれも強力な魔物だ」


「なるほど、じゃあ焼きましょう。……弾ける猛火……燻る黒煙……猛る獣の慟哭……」



 イスルギ・リサは再び魔術の詠唱を開始した。この詠唱は……また別の精霊か?



「地獄の獄炎を帯びて、炎の獣となりてその姿を現わせ!! フェリル・イフリート!!」



 詠唱を終えたその瞬間、爆発にも似た轟音と共に、魔剣の軍勢の本隊から幾つもの火柱が上がった。


 それによってカテゴリーA3体とカテゴリーB全てが塵と化した。



「……」 



 開いた口が塞がらない……俺はもうその光景に言葉も出なかった。


 たった一人で戦況を変えることが出来る人物。


 相手からしたらあの女性こそがカテゴリーA相当の戦力だろう。



「残ったのはあの1体だけね」



 5千程いた敵は既に3桁にまで数を減らしていた。


 4体いたカテゴリーAも残り1体。


 そいつは巨大な狼の様な容姿をしていた。色は漆黒。顎は大きく、毛は逆立っている。


 名称はフェンリル。極めて強力な魔物だ。



「フェンリル……確か異世界の神話の魔物よね。倒すのが気が引けるわ」



 次の瞬間、フェンリルが消える。一瞬の内に天高く跳躍したのである。



「上だ!」


「やってしまって良いわよ。フェリル・イフリート」



 リサを中心に炎の渦が天に伸び、その炎の渦はリサに噛り付こうとしていたフェンリルをそのまま丸呑みにしながら空の雲を突き破った。残されたのは丸焦げになった巨大狼。


 

「こ、これほどの実力とは……これが稀代の錬金術師イスルギ・リサ……!!」



 炎の渦が霧散し、そこには指を頭の上で組んで空に向かって伸びをしているリサ。



「んんーー!! ふぅ、これで防衛完了ってことで良いわよね? ねぇ、エスト・カエストス?」



 リサが視線を向けた先にいたのは、あぐらをかいていたエストだった。


 爆発のダメージであちこちに火傷を負ってはいるが割とぴんぴんしている。



「エスト!? 無事だったのか!?」


「うむ、気を失っておって目覚めたのは少し前じゃがな。助かったぞリサ」


「いえ、あなたから得た情報で夢殺しの討伐も果たせたし、その恩返しだと思ってくれて構わないわ。立てる?」


「なんとかの。よいしょっ」



 エストはリサの腕を掴んで立ち上がる。



「おぬしの戦いは見せて貰ったぞ。錬金術師に相応しくない攻撃能力じゃな。もっと防御に特化しておるイメージじゃったが……さてはユニークスキルじゃな?」


「えぇ、【精霊の加護】というスキルよ。小さい頃は精霊と話せると馬鹿にされていたけれど、ふふっ、そのおかげで錬金術師でありながら防御のみならず、攻撃も行うことが出来るのよ」


「攻防一体とは、頼もしい限りじゃな。それとどうやら、おぬしが先ほど討伐したフェンリルが本隊のボスだったようじゃ。残された雑魚もまごまごしておる」


「あの魔物たち、どうしようか? 私たちを恐れているようだけれど?」


「そんなもの決まっておろう」



 エストは肩をぐるぐると回してからファイティングポーズをとる。



「わしらへの恐怖を骨の髄まで染み込ませてから仕留める。もう二度とわしらに喧嘩を売ろうなどと思わんようにな」


「ふふ、まったく同じことを考えていたわ。さっさと仕留めてこんな戦争、終わらせましょう」



 瞬く間に敵が消えていく。


 エストの奴、先ほどの油断が自分でも許せないのか、力を解放し半竜の姿となっている。本気になったあいつ、久々に見たな。



「例の作戦まで数日、持ちこたえてやる。だから準備は頼んだぞ、ステルケンブルクの者達よ」

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