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ローゼリア/救世主

 シグルドの窮地を救ってくれたのは、リサのパートナーにして聖剣に選ばれし色男、アルトリウスだった。


 アルトリウスはメレフを仕留めた聖剣を鞘に納め、口を開いた。



「さてと、時空魔導師殿」


「え、あ、うん」


「俺のあまりのかっこよさに見惚れちまったかい?」


「それは絶対に無いけど、なんでここに?」



 アルトリウスはお茶らけた表情のまま答える。



「この戦争を終わらせに来たのさ。さっきのメレフってやつが敵の親玉なんだろ? 戦の勝ち負けは大将首を獲っちまうのが一番分かりやすい。あの感じだと相手も同じことを考えてたみたいだが、俺の方が二枚ほど上手だったらしい。二枚目だけにな」



 うわさぶ。



「手を貸してくれるの?」



 私の問いにアルトリウスは親指を立てて答える。



「あぁ、その為に俺はここにいる。サボったら術師殿に怒られちまう。案内してくれ、最前線に」


「ありがとう……あとでリサにもお礼言わないとね」



 シグルドが体を起こしてベッドの淵に座り、口を開く。



「アルト、感謝する。お前がいなければ俺は死んでいた」



 アルトリウスは「はぁ」とため息をついてから答えた。



「水臭ぇこと言ってんなよシグ。同じ転移者同士、助け合わねぇとな」


「シグと呼ばせることに同意したつもりは無いが?」


「細かい事も言いっこないだぜ、シグ」


「……ふっ……ふはは、そうだな。好きに呼べ。お前らが戦線に戻るなら俺も……」



 シグルドは立ち上がろうとするも膝に力が入らなかったらしく、そのまま前のめりに倒れた。


 それを私とアルトリウスが支える。



「ちょっと! 動いちゃダメだって!」


「おいおい、弱っちすぎんだろ。誰にやられた?」



 それに答えたのは麻痺が解けて自由の身となったシズちゃん。



「魔力の枯渇です」


「魔力の枯渇だぁ!? 無茶し過ぎだって。……お?」



 と、言いながらはアルトリウスはシズちゃんに駆け寄る。


 出た出た、絶対いつものあれだ。



「お初にお目にかかる。俺の名はアル」


「ベルフェゴールと同じ、変態の匂いがします。近寄らないで下さい」



 自己紹介を聞くまでも無く、ノー宣言。鉄壁のシズちゃんだ。



「おっと、ここまで邪険にされたのは初めてだぜ。良いね、邪険にされるのも燃えるぜ」


「そういう所が変態だって言われるんじゃないの?」


「男は漏れなく変態さ。なぁシグ?」


「俺に振るな。そして俺は変態ではない」


「嘘ですね。変態騎士は変態です」


「げ、お前この可愛い子ちゃんに『変態騎士』って呼ばせてんの? 流石にその趣向は俺には無いな」


「誰か会話の手助けをしてくれ」


「ごめんシグルド、この流れは私でも止められないわ」



 閑話休題。


 アルトリウスと私が戦線に戻ることにした。



「シズちゃん、シグルドをお願いね。少しでも目を離すとすぐ戦おうとするからそいつ」


「承知致しました。変態の戦闘狂は私が見張っておきます」



 と言いながら妖刀ベニツバキを抜き放つシズちゃん。さすがのシグルドもごくりと喉を鳴らした。



「ひゅーおっかねぇ女の子だねぇ。シグ、お前のパーティの子たちはどうしてこう魅力溢れる女性ばっかなんだ? うらやましいぜ」


「俺に聞くな。仲間を頼んだぞ、アルト」


「あぁ、任せておけ。そのために来たんだからな。シグも休んどけよ?」


「ふっ、言葉に甘えよう」



 アルトリウスに『シグ』と呼ばれる度にシグルドは少し嬉しそうな顔をする。



「さってと行きますか、時空魔導師殿」


「遅れないでね、飛ばすから」


「承知だぜ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 リヒテルから北に3キロ程行った平原が激戦区だった。


 転移門が4つ存在し、そのいずれからもカテゴリーB相当の強力な魔物が出現し続けている。


 さらに、その転移門4つそれぞれの中からカテゴリーAの気配を感じる。



「よっと、人類の希望参上っと」



 突然現れた得体の知れない男に隊がざわめきたつ。



「民間人は下がっていて下さい!!」


「民間人? いやいや、戦士だぜ、俺は。この完璧な肉体美を見て、よくそんなこと言えんなぁ。節穴かよ」



 次の瞬間だった。


 こちらに向かって来ていたゴブリン、トロール、ドラゴン等の魔物が一斉に倒れ、絶命したのだ。



「え……え!?」


「見えなかったかい? そんじゃもう一丁」



 アルトリウスがまるで池に石を投げ入れるかの様なゆったりとした動作を見せた瞬間、またしても大量の魔物が息絶えた。この数秒間で数百の魔物が葬られた。


 リヒテル軍の人たちは何が起きているのか理解できていないだろう。私ですら2回見てようやく理解出来たのだ。



(これは……スキル?)



 アルトリウスは魔術で作った『小さな光の弾』を投げていた。大きさはビー玉ほどで、超初級スキル【光の心得】で作ったと思われる玉だ。


 でもおかしい。それがあれほどの殺傷能力を持つわけがない。



「これを見せたやつは大体おんなじ表情すんのな。お、大物が出てきやがった。カテゴリーA……だっけ? 腕試しと行こうか。【光の心得】……『ディライト』」



 アルトリウスは魔術を詠唱し、光の弾を無数に生み出した。



「ほらよ」



 ふわふわと浮いているうちの1つを指でほんの少しだけコツンと弾いたその瞬間、目にも止まらぬ速さで光の弾が飛んでいき、転移門から姿を現したカテゴリーAの眉間を撃ち抜き、討伐した。



「い、一体何が……」


「これが俺のユニークスキル【最大出力】の力さ」


「最大出力……察するに、自分の力……例えば、微弱な膂力や微弱な魔力を瞬時に最大にまで増幅、最大の威力に変換するスキルってところかな?」


「お、大正解。つまり俺はシグみてぇに魔力の枯渇なんかとは無縁の存在なのさ。しっかしこんだけで見抜くってのは、やっぱ良い勘してるぜ。シグが惚れるのも分かる」


「ほ、惚れっ!?」



 アルトリウスは人差し指を立てて口元に当てる。



「内緒にしとくさ。俺は愛の匂いに敏感でね。愛の伝道師の俺が見ても、お似合いだぜあんたらは。……『ディライト・スペリオール』」



 アルトリウスはおびただしい量の『光の玉』を量産して自らに親指を立てる。



「さぁ、てめぇらの大将の仇がここにいるぜ? 殺してみろよ。やれるもんならな」



 私たちからしたらアルトリウスはまさに救世主だった。


 対して、相手からしたら死神だ。たった1人に壊滅させられるこの光景も、相手から見たら惨劇以外の何物でもないだろう。


 そんなアルトリウスの能力は『多対一』の戦闘に極めて向いていた。


 ――【最大出力】。


 彼も言っていたけど『1の力を100に変換する』能力は言ってしまえば、燃費が物凄く良いということだ。


 ちょんと指を弾くだけで相手は倒れ、地面をとんと蹴るだけで凄まじい速度で移動できる。


 圧倒的な殲滅力を持ちながら、息切れとは無縁の存在である。



「戦闘終了! んだよ、大物倒しても大したユニークスキルも習得できなかったぜ。ま、最強の俺には必要ねぇがな」



 リヒテル全土の敵はアルトリウスにより数日のうちに殲滅された。

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