リーヤ/カルナス防衛線④
真ダモクレスは空の彼方でエネルギーチャージを行っている。
ルミナが弾き出した結果によるとチャージ率は20%程度。臨界までは10分らしい。
「さぁ来るが良い、エニシの者たちよ」
メレフは鎌を構えてあたしたちを待ち構えている。
挨拶代わりに矢を放ったところ、メレフのマントに吸収された。あたしの矢は効かねぇってことか。
「ルミナ、援護頼めるか?」
「あい、任せて。真ダモクレスの解析も並行して進めとくのだ」
「頼んだぜ。さぁダーインスレイヴ、起きろよ。久々の仕事だぜ」
あたしは魔弓を半分に割り、双剣に『可変』させた。
「我相手に接近戦を挑むカ」
「しゃあねぇだろ。お前、あたしの矢を吸収しちまうんだから……さっ!」
あたしは地面を蹴り、瞬時にメレフの懐に飛び込んで右手の剣を振り上げた。メレフはそれを鎌の持ち手で防ぐ。
「もう一丁食らえ!」
左手の剣を横に振り抜くも、メレフは後退してそれを躱した。
「ナルホド……速いな」
「言っとくが、素早さでいったらシルはこんなもんじゃねぇぜ。あたしも大概だけどな!」
あたしは双剣を携えてメレフに攻撃をし続ける。両手に武器を持っている分、手数に勝る。
仮に反撃を許したとしても……。
「モラッタ!」
「わりぃな、あたしは1人じゃねぇんだ」
あたしに鎌が振り下ろされた瞬間、クライム&パニッシュメントから放たれた弾丸がメレフの腕に着弾し、その腕が吹き飛んだ。
「なんだト!?」
「リーヤ! いまっ!」
「分かってる! せぇいやっ!」
「グオォ!?」
双剣で十字に斬り付け、メレフがうめき声を上げてよろめきながら後退した。
「ナイス援護だぜ、ルミナ。だが、ちっと爆発が強過ぎじゃなかったか?」
「火薬の量、間違えちった。あんなに爆発するとは思わなかったのだ。てへ♪」
「あっぶねぇな! 可愛い子ぶったってお仕置き確定だからな」
「げんこつ及びチョップ反対! 天才って褒めることだけ受け付けるのだ」
「それのどこがお仕置きだっての」
その間にメレフは早くも腕の再生を遂げていた。
「ヤル様になったな、ルミナ。我は嬉しいぞ」
「今更兄弟子面しないでよ。ルミナは同門であるあんたが犯した罪を背負った。クライム&パニッシュメント、罪と処罰を関するこの武器であんたを撃ち抜くのだ!」
「つーわけで、大人しく死んどけよメレフ」
ルミナに続いてあたしも武器を構えると、メレフはケラケラと笑いながら再び巨大な鎌を取り出した。
「オモシロイ……ツギはこちらからユクゾ」
メレフは瞬時にその場から姿を消した。
闇に紛れて気配も完全に消している。闇討ちをするつもりか。
「気配がねぇ……はぁ……やるしかねぇか。魔眼……解放!!」
あたしは右目に魔力を宿し、魔眼を開眼した。視界が明るくなり、鎌を振り上げるメレフの姿がくっきりと見えた。
あたしは魔力を纏った剣を薙ぎ、メレフ目掛けて斬撃を飛ばした。
「そこだっ!」
「クッ……!?」
メレフはそれを間一髪で躱し、姿を現した。
「……躱しやがったか」
「マガン……やはり厄介な相手だ。小細工はムヨウか……正面カラいかせてモラウゾ」
「っ!?」
今度はメレフが真正面から突っ込んで来た。
あたしの双剣の間合いの外から巨大な鎌を絶え間なく振り回し続けるメレフ。
その勢いは途切れることは無い。防戦一方だ。
「ちっ……思ったより接近戦も出来んじゃねぇか。時間がねぇのに……!!」
防戦の最中、モニターを見るとダモクレスのチャージ率が90%に到達しようとしていた。
あたしとルミナはオープンチャンネルで仲間に通信を送り、戦闘に集中した。
振り回される鎌をあたしが双剣で受け続けている間、ルミナが隙を見て銃での援護射撃を行う。
「撃つべし! 撃つべし!!」
しかし、その弾丸はメレフに着弾する直前でピタリと制止する。
「オカエシしよう」
弾丸が方向を変えてそっくりそのままルミナに向かった。
「やばっ!? アイズ!」
「承知致しました」
ルミナの前に盾が転送され、全てを受け切った。
「テンソウ装置!? 完成させていたノカ」
「まぁルミナちゃん天才だしねー。というかやったなー? 撃つべし!」
ルミナが放った反撃の弾丸はメレフの直前で止まることなく、着弾し爆ぜた。
「ガハッ!? なぜ弾丸が止まらない!? 対象を停止させる高度な時空間魔法を身に纏っているのダゾ!?」
「時空間魔法の使い手ならとびきりなのがルミナのパーティにもいるし。ノウハウさえ知ってれば無効化可能。プランを考える時はまず破綻した時の対処法から考えろって博士に教わったっしょ」
「なにかと思えば、あの老いぼれの言葉カ……虫唾がハシル。奴は……僕ちんを認めようとシナカッタ……能力は僕ちんの方がアッタノニ!」
メレフ本人の人格が表に出て来ている。
「能力ってなに? 頭脳の優秀さのこと? それともIQ? 確かにそれで言えばあんたは優秀だったかもしんない。でも科学者としては失格だったっしょ」
「失格……ダト? シッカク……ダトォォオオ!?」
メレフは憤慨して姿を異形へと変態させた。
手に持っていた鎌は体に埋め込まれ、背中、腕、脚をはじめ、全身から無数の鎌の刃が飛び出ている。
「ナニガ失格だ! 僕ちんの発明はイダイだった! 今までに無いモノを作り続けた! 科学者とは発明セシ者!! 我は天才的なカガクシャだ!!」
「どれもこれも自己満足とお金の為っしょ? それが間違ってるのだ。科学者とは支えし者。発明は力無き者の為でなければならない。常識なのだぜ」
メレフがぴたりと固まり、頭を抱える。
「チガウ……チガウチガウチガウ!! 僕ちんは天才科学者だ! 金も名誉も全部ゼンブ我の物だ! 我の! 我の物なのダァアァアア!!」
メレフは体から生えている鎌の刃を一斉に射出した。回転しながら弧を描く様にあたしとルミナに向かって飛んでくる。
「おいおいルミナ、あいつを怒らせてどうするよ」
「ごめーん! でもずっと言ってやりたくて。あいつは間違ってるって」
「ったく、気持ちは分からんでもないが、この割りとピンチな状況をどうするよ? 天才科学者のルミナちゃん?」
ルミナはすかさず銃を構えた。
「答えは単純明瞭!! 鎌を漏れなく撃ち落とすっしょ! 撃つべし! 撃つべし!!」
回転しながら向かってくる鎌がルミナの弾丸により全て撃ち落とされた。
「撃ちオトシタだと!?」
「もいっちょこいこい」
「オオォオオ!!」
メレフは雄たけびを上げながら鎌を撃ち出し続けるも、ルミナはその一切を容赦なく撃ち落とし続けた。
「ナゼダ! 何故我の力を認めない! 僕ちんは偉大な科学者だ! ダモクレスを魔導兵器へと改造し絶対の力を手に入れた! 頂点の力を手にした我がナゼこうも圧倒される!?」
「圧倒されてんのはてめぇが弱いからだ。心も体もな」
「っ!? イツの間に後ろに!?」
「今度こそ失せろ」
あたしはメレフの背後から渾身の力でダーインスレイヴを振り下ろす。
血の代わりに黒い瘴気が溢れ出し、メレフは膝から崩れ落ちた。
「ガハッ!? ナ、何故だ……究極の力を手にした我が……負けるとは……しかし……力尽きるその時まで我は……サイナス様に……」
「とどめ!」
双剣をメレフの首目掛けて振るった瞬間、メレフは転移門を構築し姿を消した。
「なっ、逃げやがった!? ルミナ! メレフの野郎はどこに消えた!?」
「リヒテルの方! でもそれよりもこっち!!」
ルミナは見知らぬ機械をカタカタといじっていた。
「真ダモクレスが発射されるまでもう時間が無い。発射は止められない。でも!」
ルミナは必死な形相で機械と向き合っている。
「ルミナが絶対に止める! 無理でも止める! シグルドと約束したんだもん!! 科学は人の為にある! ルミナの発明は世界を救う! 真に平和な世界をルミナ達は作る!!」
「ルミナ……」
科学者なんて人種に会ったのはこいつが最初だった。
言動はおバカだし、アホみてぇに飯は食うし、空気は読めねぇし、なにより騒がしい。
……だけど、こういう奴が世に溢れりゃ、さぞかし平和な世の中になるんだろうよ。
あたしはルミナの肩を叩く。
「頑張れルミナ! てめぇのこの肩に全人類の命がかかってんぞ! 天才なんだろ!? やっちまえよ!!」
「分かってる!! ルミナちゃんいっくよぉおおお!!」
猛烈な勢いで機械をカタカタと指ではじき続け、最後の1回を押す直前、ダモクレスの魔導弾が発射された。
「間に合えぇえええええっ!!」
ルミナは振り上げた右手の人差し指で、力強くボタンを押した。




