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楯無明人/『運搬者』:ナルエル・ビートバッシュ④

 鞄の口から眩い紫の光が漏れ出している。



『逃げるな』



 英雄王の剣から、またしてもあの声が聞こえた。


 剣を引き抜いた時にも聞こえていたあの男の声だ。



『状況を見極めろ。最適解を導き出せ。お前ならそれが出来る』



 カヤとナルには何の反応も無い。


 どうやらこの男の声は俺の脳内に直接語りかけて来ているようだ。



(いやいや、出来る訳ねぇだろ)


『なぜ?』


(相手の方がレベル高いしステータスも上なんだぞ? 第一戦闘経験が俺には無い)


『始めはみんなそうだ』


(だとしても最初はもっと弱い奴から慣らすだろ? なんで最初からボス戦なんだよ)


『ふっ、どうやらお前もその様な運命にあるようだな、アキト』



 その声に名前を呼ばれると不思議と勇気が湧いてくる気がした。



『お前は強い。その剣を抜いたその時から、お前は絶対の力を手にしている。自分を信じろ。その剣を信じろ』


(本当にやれるのか? 俺に)


『やらなければ死ぬだけだ。おのずと選択肢は絞られるだろう』


(言ってくれんじゃねぇか……分かった、やるよ。あの猪を倒してやる)


『あぁ、やってみせろ。お前には俺がついている』



 フッと意識が戻ってきた。



「もう一度聞くわ? どうする?」



 カヤが俺にそう問うている。


 目の前には今まさに突進を繰り出そうとしているバトルボア。ナルはポーチを漁って先ほどカヤに買って貰ったCランクの火の魔法石を取り出し、俺に目配せして準備OKという合図を送った。



「……よし、やってやるさ! 構えろお前ら!!」



 俺はぎゅっと英雄王の短剣を握り直す。



「その言葉を待っていたわ。指示を頂戴」


「カヤはあいつの突進に合わせてさっきと同じ壁を作ってくれ」


「了解」


「ナル! 質問がある!」


「はいっす!」



 ナルが右手を上げて元気よく返事をする。



「お前、その魔法石を攻撃に使えるのか!?」


「もちろん! どデカい一撃をお見舞い出来るっすよ!」



 ナルがそう言い終えた瞬間カヤが「やはり逸材ね」と言った。



「じゃあカヤが足止めした瞬間にそれで攻撃してくれ! ひるんだ所を俺が殺る!」


「出来るの?」


「出来るかじゃない、やるんだよ! 今の俺なら出来る!」



 ダッと駆け出したバトルボアは一直線に俺に向かってくる。


 

「来たわね……『アトモスフィア』」



 がん、と俺の目の前で見えない壁にぶつかるバトルボア。


 前のめりになって体勢を崩し、大きな隙が出来た。



(思い出せ、巻物の情報を……!)



・【防刃】……幾重にも重なった体毛により斬撃に対して耐性を持つ。



 あいつのスキル【防刃】は体毛が刃を通さないって巻物には書いてあった。


 つまり、それが無ければ俺でも斬れるってことだ。ナルの炎で致命傷に至らなくても防刃の体毛は燃え散るはず。俺は、そこを狙う!!



「ナル!!」


「はいはい!!」



 準備を整えていたナルの両手には真っ赤な炎が宿っていた。その炎は更に燃え上がりながら形を変え、次第にそれは、『龍』を形作った。


 ナルはビームを打つかの様に手を前に構える。



「撃つっす! 吹っ飛べぇえええ!!」



 チュンッっとナルの両手から放たれた火球はバトルボアに着弾すると同時に強烈な爆発を引き起こした。



「なっ……!? すっげぇ……」



 球形の炎の塊が一瞬収束した後、物凄い爆風が巻き起こる。俺は爆発が止むのを待ちつつ、剣を強く握る。



「さぁトドメだぜ、バトルボ……ア?」



 バトルボア消失。



「……あれ? なにがあった?」


 

 さっきまでいきり立っていた猪がいない。


 状況が理解できず虚しく短剣を構え続ける俺。



「あなたの出番はいらなかったみたいね」



 カヤが憐れんだ目でポンと俺の肩を叩く。



「は? ちょ、状況が理解出来ないんだが?」


「ナルちゃんの一撃で戦闘終了よ。猪は跡形も無く燃え散ったわ」


「はぁああ!?」



 ナルを見ると、彼女は一仕事したぁという表情で汗を拭う。



「お疲れさま、ナルちゃん」


「はいっす! お役に立てましたか?」


「これ以上ないほどにね」



 カヤはナルに向かって右手を差し出す。



「合格よ。私たちのパーティに入ってくれるかしら?」


「はい! 宜しくお願いします!!」



 2人が熱い握手を交わした後、俺達は魔法石をたんまり採掘してその場を後にした。


 この日、俺達のパーティーに3人目の仲間が加わった。

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