ロウリィ/ミザエル防衛戦①
開戦の時を迎えたその時、私はシルフィーさんと共にフェネット邸に来ていた。そう、私の実家である。
目的は言うまでも無く家族のお墓参りだ。目の前のお墓には本当に沢山の花が添えられていた。
「これを見ると、フェネット家の皆さんが如何に慕われていたのかが分かるよね」
シルフィーさんがお墓に手を合わせながらそう言ってくれた。
「はい。冒険をしてみて改めてその偉大さが分かりました。『道具管理者』の力はやはりこの世界に必要ですし、受け継いでいかなきゃダメだと思ってます」
「弟子でもとるのかな?」
「はい、そのつもりです。もっとも、この戦いが終わってからの話になりますけどね。果たさなきゃいけない大事な約束もありますし」
「大事な約束?」
「はい、迎えに行くんです。1人の女の子を。この戦争を終わらせて」
「……絶対に生き残ろうね、ロウリィちゃん」
「はいっ!」
ミザエルに魔物の軍勢が現れたのはその時だった。
ゴブリンを筆頭に小型の魔物が沢山いる。しかもいずれも黒い靄の様な物を纏っており、不気味だ。
「シルフィーさん!」
「分かってるよロウリィちゃん! 至急本部に伝達を!」
「はい!」
私はルミナから貰ったオメガコネクター乙式を起動させる。
「こちらミザエルのロウリィです。来ました!」
私のその言葉をきっかけにリーヤさんとエストさんが続き、最後にシグルドさん。
『こちらリヒテルのシグルドだ。戦では数の力はそれだけで脅威だ。消耗戦になる可能性がある。念頭に入れておいてくれ。健闘を祈る』
そこで通信は切れた。
やっぱりシグルドさんの声を聞くと心が落ち着く。これが好きって気持ちなの……? って、こんな時に何を考えてるの私!?
今は目の前のことに集中しないと。
「部隊に合流しましょう!」
「そうだね!」
私とシルフィーさんはミザエルの部隊に合流した。
ミザエルは始まりの大陸故にレベル1の冒険者が多数いる、いわば最弱の大陸。ギルドからの増援は期待できない。
故に、場数を踏んでる私と、大陸の代表を担っているシルフィーさんには多大な期待がかかっている。
「んー、すっごいプレッシャーだね」
「それでもやるしかありません。やらなければ死ぬだけです」
「うわなにその言葉かっこいい! 誰かの受け売り?」
「はい、私の大切な人の受け売りです。やりましょう!!」
既に戦闘は始まっており、私とシルフィーさんはその大部隊の中衛に加わった。部隊の最後方からは魔術が降り注ぎ、魔剣の軍勢を攻撃している。
しかし、相手の魔防が高いのか思った様なダメージは与えられていない。
「あの敵……普通の魔物より強くないですか?」
「そうみたいだね。あの黒い瘴気に何か特殊な効果でもあるのかな?」
「かもしれませんね。もっと強力な攻撃でないと決定打にならないとなると……そういえば魔法石隊が配備されてましたよね?」
「あ、うん。【上級魔法石使い】が多数配置されてる部隊ならほら、そこに」
そこでは魔法石で負傷した兵を治療する人達がいた。私はその部隊に駆け寄る。
「あの! 魔法石を攻撃に転用できる方はいらっしゃいませんか? もしいたらあそこの魔物にぶちかましちゃって下さい!」
私がそう言うと1人の女性が立ち上がった。
「Aレート程度の攻撃ならばいけます」
「Aレート、十分です。中級魔法よりも攻撃力は高いですし」
「では、いきます!」
その女性が手に持っているのは火の魔法石。
その石から炎が上がり火の玉を形作った。
「射線を開けて下さい! 撃ちますっ!」
ひゅん、という空気を切る音と共に放たれた炎は相手のゴブリン部隊を包み込み、焼き払った……かに思えた。
「やった! ……えぇっ!?」
巻き上がる炎が一気にゴブリンの纏う瘴気に吸収され、敵がより活発化した。明らかに逆効果だった。
「ロ、ロウリィちゃん……あのゴブちゃん達、強くなってるよね?」
「認めたくはないですが……強くなってますね……って、そんなこと言ってる場合じゃなくて!!」
私は大至急通信を飛ばした。
「各位に通達です! 黒い魔物は魔法石の攻撃が効きません!! 魔法石隊の方々ひゃっ!?」
押されて後退する部隊に突き飛ばされ、耳に付けていたオメガコネクターを落としてしまった。
私は急いで拾い上げて通信を続ける。
「だ、大丈夫です! 混戦で落としただけですから! それよりも魔法石の攻撃は控えて下さい! 吸収されます!!」
用件はこれで十分。現場の対応が先だ。
「シルフィーさん。こんなときにあれですけど、シルフィーさんが得意なのは魔術で良いですか?」
「うん、基本はね。でも一番得意なのは弓術だよ」
「弓? リーヤさんと同じ?」
「そそ。でもお姉ちゃん程上手くないし、魔弓は持ってない。だから基本は魔術での戦闘になると思う」
「そうですか。ではガンガンぶちかまして下さい。私は皆さんの魔力を回復させるお香を調合して焚きます。おまけに魔力が数段パワーアップする私の秘策ですよ!」
「お香? なんかすごいね。お願い出来る?」
「はい!」
その会話の間にもこちらの部隊はわずかではあるけれど魔剣の軍勢を押されていた。負傷者の報告は上がって来ていないけど、時間の問題だ。調合を急がねば。
「えっとえっと材料は……あった!」
鞄から必要な薬草を取り出した瞬間、またしても後退してきた部隊とぶつかり、薬草を落としてしまった。
更に地面に落ちた薬草がぐしゃぐしゃに踏まれてしまい、その効力を失った。
「なぁっ!? シ、シルフィーさん大問題です!! 薬草が細切れになってしまいました!!」
「えぇえぇ!? 予備は!?」
「あ、ありません……とてもレアな物なので……」
「ありゃりゃ……じゃあ自力で戦うしかないってことだね。頑張ろっか!!」
シルフィーさんが杖を掲げて魔術の詠唱を始めた瞬間、空気が震えた。
この魔力……尋常ではない。
「【炎魔術】奥義……『ブレイズカタストロフ』!!」
シルフィーさんの杖から漆黒の炎龍が立ち上り、魔剣の軍勢のど真ん中に落ちた。
轟音と共に火柱が立ちあがり、熱風がこちらにまで飛んでくる。
「あつっ!? こ、これほどの魔力を隠し持ってたなんて!?」
「私って、お姉ちゃんの陰に埋もれちゃってるけど、本気になればこれくらいはね?」
シルフィーさんは杖から出している炎の龍を鞭のように扱い、次々と敵を蹴散らしていく。
「さぁさぁ! 私の手で踊りなさい! ていやっ!」
杖のひと振りで100を越すゴブリンが墨になっている。
「いやー普段ギルドでこき使われてる憂さ晴らしに最適だよ。うん、うん。あんのギルドマスター、私をこき使い過ぎなんじゃー!! 燃え散らしてやるからなっ! うぉりゃぁああ!!」
ひょいひょいと鞭を振り回すたびに魔物がさらさらと燃え散っていく。しかもシルフィーさんめっちゃ嬉しそうだし。
あぁ、今後この人を怒らせるのはやめよう。静かにそう誓った私であった。
※本日は17時にもう1話更新致します




