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楯無明人/『運搬者』:ナルエル・ビートバッシュ②

 道中で保護した少女、ナルを連れて第二の町ミーザスに到着した。



「師匠ならこの町にいないっすよ?」


「なんですって!?」



 カヤは驚いた様子でナルに詰め寄る。



「はいっす。先月から商売か何かで王都の方へ行ってるっす」


「これは予想外よ」



 膝を付いてうなだれるカヤ。この光景を見るのも2度目だ。



「なぁ、ロウリィさんじゃなきゃダメなのか?」


「他に誰がいると言うの?」



 俺は隣にいたナルの肩を叩く。



「こいつを仲間にするってのは、どうだ?」


「ナルエルを? そうね……キャリアーでもあるし……でも本人の意思も」


「私の力を求めてくれるのならば、私は喜んで引き受けるっすよ」



 思いつきだったが、なんとナルは二つ返事で承諾した。



「困ってる人は助けろって師匠は常々言ってるっすから」


「まじか! なぁ、これ以上ない申し出じゃないか!?」


「……そうね……」



 カヤは手を顎に当てて真剣に悩んだ様子でこう続ける。



「……1つだけ、確認させて。ナルエルの持つ魔法石活用術のレベルを知りたいの。上級でも上の方なのか、下の方なのか、それを見極めたいわ」


「その見極め次第では?」


「パーティに加わることを許可するわ」



 という訳でナルの入団試験を行うこととなった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 入団試験の前に武器を持っていないナルの為に魔法石を買うことになった。


 このグリヴァースに置いて魔法石は武具に準ずるニーズがあるということもあり、専門のお店が存在する。言わば『魔法石屋』だ。



「カヤっち、ほんとにどれでも良いんです!?」



 あだ名呼びに切り替えたナルがカヤに問う。



「えぇ、構わないわ」


「わははぁーい!!」



 嬉々とした表情でケースに駆けて行くナルと、えらく羽振りの良い様子のカヤ。ナルが魔法石売り場をあっちへちょろちょろ、こっちへちょろちょろしている様子を後ろからじっと眺めている。



「お前、優しい所もあるんだな。装備だけじゃなくて魔法石も買ってやるなんて」


「か、勘違いしないで。怪我でもされたら困るし……それに、これも入団テストの一環よ」



 ふいっと視線を逸らすカヤ。



「はい? 買い物がテストだと?」


「えぇそうよ。ナルちゃんにどの程度『物を見る目』があるかを確かめるのよ」



 おい、ちゃん付けしたぞこいつ。


 

「審美眼ってやつか?」


「えぇ。魔法石には純度に応じてランク付けがされていてね。『レート』と呼称するのだけれど、当然、上に行くほど値段も高価になるわ」



 俺はカヤのその言葉を聞いてケースの中を見てみる。そこには魔法石が色ごとに並べられており、赤い魔法石のケースではレート毎にこのような値段設定となっていた。



【火の魔法石】

 S……300万ガルド

 A……100万ガルド

 B……30万ガルド

 C……4000ガルド

 D……300ガルド



「さ、さんびゃくまんっ!?」



 思わず飛び跳ねてしまう。



「大きな声を出さないで貰えるかしら。びっくりするじゃない」


「あ、いや、すまん。でもいくらなんでも石一個に300万は高過ぎねぇか!?」


「それほどに貴重ということよ。それにSランクが最高ではないわ。世界中の魔法石が集まる王都なら最高ランクSSS、すなわち『トリプルSレート』の魔法石も手に入るわ」


「ち、ちなみにお値段は?」


「億は下らないでしょうね」


「まじかよ!?」



 魔法石やべぇな!



「お待たせっすー!!」



 魔法石を吟味していたナルがとことこと戻ってきた。その手に持つカゴにはピンポン玉程の魔法石が幾つか入っている。ナルの見た目が幼い分、「お母さん! 綺麗な石拾ってきた!!」にしか見えない……。



「全部Dレート? 本当にそれで良いの?」



 カヤが心底不思議そうな表情で問う。



「はい! これで十分っす! と言いたいところなんすけど、あと1つだけ……」



 ナルはショーケースの中の魔法石を指さす。さては何でも良いとか言われたから欲張ってSレートを……と思っていたがそうではないらしい。


 指さしているのは火の魔法石の『C』レートの物だ。



「Cレート? てっきりもっと上の物に手を出すと思っていたのだけれど」


「もっと上? いらないいらない」



 手をぶんぶん振ってアピールするナル。



「私はあれで十分っす」


「……そう」



 カヤはナルが指さした魔法石に顔を近づける。そして本当に小さな声で、「【鑑定】スキル、発動」と言ってまじまじとその石を見つめ続ける。

 

 再びカヤが顔を上げたのは10秒程経ってからだった。



「……なるほどね。良いわ、それも含めて買いなさい。お金は私が払うわ」


「ありがとうございます!!」



 合計金額6000ガルドちょい。たぶん安上がりだ。


 

「ふっふふんふーん♪」



 カヤに装備と魔法石を買って貰えて上機嫌なナル。おもちゃ買って貰った子供かよ。



「なぁ、あの買い物も入団試験だって言ってたよな? 合否はどうだったんだ?」



 カヤは一もニもなく答える。



「……文句無しの合格よ」



 よくよく見てみると、カヤのナルを見る目が変わっており、心なしか尊敬の念の様なものが垣間見える。



「私の見立てが間違っていなければ、あの子……只者じゃないわ」



 カヤがそう言って褒めた直後。



「ふぎゅっ!?」



 上機嫌だったナルが躓いてこけた。


 ばらばらと転がった魔法石をあわあわと集めている。



「……前言撤回しても良いかしら?」


「お好きにどうぞ」



 この時の俺たちはまだ知らない。


 ナルこと、ナルエル・ビートバッシュの凄さを。

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