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楯無明人/アホそうな錬金術師

 異世界転移を果たした翌日の放課後。



(ん? あいつは……)



 人込みの中に例の女を姿を捉えた。


 擬態でもしているのか、俺の学校の制服着ている。



(よし、つけてみっか)



 俺は単純な好奇心で尾行し、ビルの合間に辿り着く。



(あれ? あいつどこいった?)



 ふと目を離した瞬間に女を見失った。



「私に何か用かしら?」



 不意に背後から声をかけられ、慌てて振り返る。


 そこにいたのはあの女だった。


 

「お前確か……イスルギカヤ……だよな? 何してんだここで?」



 俺が名前を呼んだ瞬間、そいつは目を丸くして驚き、俺の胸倉を掴んできた。



「おいおい、急になんだってんだ!? 暴力反対!」


「あなた、なんで私の名前を覚えているの?」


「はぁ!?」


「質問に答えて」



 ぐぐい、と俺に詰め寄る女。



「近い近い! 知ってるも何も、お前が昨日自分で名乗ったんじゃねぇか!」


「えぇ名乗ったわ。問題はその後。私はあなたの忘却の魔術を施した。つまり、綺麗さっぱり忘れているはずよ」


「知らねぇし! いいから離せ!」



 俺はカヤの腕を払う。



「忘却の魔術だか何だか知らねぇが、俺はこうして覚えてる。お前の魔術が失敗したんじゃねぇの?」


「そんなはず……こうなったら私も覚悟を決めるしか……とにかく、私と一緒に来て」



 カヤは踵を返して足早に歩を進める。

 


「あ、おい! どこに行くんだよ!?」


「黙ってついて来なさい。じきに分かるわ」



 足早なカヤの背中に俺は投げかける。



「なぁ、お前は一体何者なんだ?」



 俺の問いに彼女は自慢げに答える。



「私は錬金術師よ」


「錬金術師?」


「そう。もしかして興味があるの?」


「そりゃあないと言えば嘘になるが」


「語って差し上げましょう!」



 カヤの目が輝きだした。踏んじゃいけないものを踏んだ気がする。



「近代において錬金術は科学に近いとされているけれど、これはれっきとした魔術よ。なになに? もっと詳しく聞きたいという顔をしているわね。いいわ、一から全部話してあげる」



 うわめんどくさ。


 錬金術について語り始めたかと思いきや、感涙どころか涎が出ているではないか。


 なにこいつ、普通にキモいぞ。



「はいはいはーい、手短に頼む」


「無理よ」



 引き続き錬金術最強説を延々と語り始めるこの女。話に夢中で俺がもう半分聞き流しているのを知らないんだろうなぁ。


 カヤは数分間ノンストップで語った後、ふぅと一息ついた。



「終わったか?」


「いいえ、まだ序論よ」


「序論!?」


「えぇ、錬金術の本質はそんな上っ面にはない。錬金術はもっとすごい。とてもすごい。最強よ」



 結論、錬金術は最強。これにて証明終了。


 色々語った挙句、最後は小学生低学年みたいな感想を述べた。こいつ、頭良さそうな見た目してるけど馬鹿だな。よく分かったわ。


 カヤは涎を垂らしながら話を続ける。



「で、ここから先がこっちの世界の人間が誰も知らない真実よ」



 カヤは袋小路に向かって手をかざす。



「何してんだ? 壁に手を向けたりして」


「見ていなさい」



 カヤは目を瞑って意識を集中すると周囲の風がぴたりと止み、壁に陽炎のような靄が現れている。見てろって言ってたが、一体何が……。


 

「さぁ開きなさい! グリヴァースへの扉よ!」



 ガチャンという鍵がハマったような音と共に、壁に『渦』が出現した。


 大きさは人が通るには十分。まるでゲームや漫画で見るワープホールみたいだ。



「ご覧の通り、錬金術師は異世界との扉が開けるの。知らなかったでしょ。さぁ、入りなさい」


「おわっ!?」



 どん、と後ろから蹴飛ばされ俺は再び異世界転移を果たしたのだった。

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