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楯無明人/vs魔剣の軍勢

 魔剣の軍勢の残党との戦いは熾烈を極めた。


 前衛である俺はリザードマンと対峙していた。二足歩行で、片手に金属の盾を持ち、もう一方の手には幅広の剣を持っているテンプレートの様なリザードマンだ。ちなみに他の前衛の方々はレッドドラゴンとゴーレムに夢中である。俺に死ねというのか。


 刹那、漆黒のリザードマンが剣を真上から振り下ろしてきた。俺はそれを光剣で受け止める。



「ぐっ……!? なんだこの馬鹿力はっ……!?」



 通常種のリザードマンならここに来るまでの間に数体狩ってきた。こいつらの剣筋は不規則で厄介だが、ゴーレムなんかに比べたら力はないはずだった。ただ、目の前のこいつは黒の瘴気持ち。準魔剣の力をその身に宿しており、通常種とは比べ物にならない程の攻撃力を有していた。


 俺は反射的に光剣を斜めにし、攻撃をいなした。真正面から受け続けたら多分骨折れるぞこれ



「ここだっ!」



 斜めにした光剣を上段に構えてリザードマンに振り下ろす。これも、通常種であれば反応出来ない一撃だったが、超反応を見せたそいつの盾に阻まれてその攻撃は届かなかった。



「ちっ、俊敏性も上がってやがるよなそりゃあ」


「アキト! ここにいたのね」



 カヤが合流した。



「他のみんなは?」


「ウィルベルはレッドドラゴンの討伐に加わっているわ。ナルちゃんは攻撃に参加できない代わりに薬草での回復役に徹しているところよ」


「よし、無事なんだな」


「えぇ、あなたが一番無事じゃなさそうね」


「うっせ、1人で虚しく頑張ってたっての。ボッチは慣れっこだけどな」


「防御は任せて。攻撃はお願い」


「あぁ!」



 俺たちはそれぞれ光剣と魔杖を構える。俺たちが構えた瞬間リザードマンは低く跳躍する様に猛スピードで接近してきた。



「カヤ!」


「見えてるわ。顕現せよ対物理障壁……アトモスフィア」



 不可視の壁がリザードマンの剣を止めた。俺はその隙を突いて首元を狙うが、リザードマンもそれに対し盾を構えて攻撃を止める。


 盾と光剣が真正面からぶつかり合う。



「かってぇなその盾!? カヤ!」


「分かってる。【重力制御】……その盾を持っていられなくしてあげるわ」



 カヤの魔術でリザードマンが盾を持つ左手近辺だけ、局所的に重力負荷が増した。盾を持つ腕が物凄い勢いで地面に吸い寄せられリザードマンは体勢を崩し、その首ががら空きになる。



「貰った!」



 俺はその隙に光剣を横に薙ぎ、リザードマンの首を刎ねた。



「討伐完了! 他の奴らの援護に向かおうぜ」


「いいえ、その必要は無いみたいよ」



 カヤが視線を向けた先には壁にめり込んだレッドドラゴンがいた。当然、絶命している。



「なっ!? 誰がやったんだ?」


「あの2人よ」



 カヤが指さした先にはゴーレムと交戦している討伐隊。その中で一際異彩を放っているのは2人の人物。


 ウィルベルとモルドレッドだ。



「スクラフィーガ、打ち砕け!」



 ウィルベルの聖槍がゴーレムの体に触れた瞬間、その部位がクッキーみたいに粉々に砕け散った。通常種ですら普通の剣を弾く強度のゴーレム、ましてや相手は黒の瘴気でパワーアップしてるっつーのに……あれが聖槍スクラフィーガの『脆弱化』の能力。やっぱチートくせぇな。



「バルムンク……吹き飛ばせ」



 ウィルベルに続いてモルドレッドが黒い突撃槍を振るう。ゴーレムはその直撃を受けてピンポン玉のスマッシュみてぇな勢いで壁に叩きつけられた。魔槍バルムンクの能力は『重撃』。接触した対象を問答無用で吹き飛ばす能力だ。俺も決闘大会では痛い目を見た。



「モルドレッドさんだったよね? やっぱ強いね」


「お前も、やるな。さすがは聖槍の、所持者だけある」



 あいつらは勝ったつもりでいるかもしれないが、コアはまだ残ってる。俺は【慧眼】を発動させてその部位を伝えた。



「おい! コアは右胸だ! そこを狙え!」


「右胸だね、了解! せぇいやっ!」



 ウィルが壁にもたれるゴーレムにとどめを刺して戦闘は終了した。あれだけいた魔剣の軍勢もマドカを始めとした他のやつらの活躍で全て討伐されていた。


 俺は光剣を解除してホルスターに納める。



「はぁ……結構疲れたな。これで大規模討伐クエストも終わりか」


「えぇ、リヒテルに戻ってシグルド王に会いに行きましょう。今度こそは隠し事なんかさせないわよ」


「おっかねぇなお前」


「私の人生がかかっているもの。私も必死なのよ」


「失礼なことして投獄されても知らんぞ」


「その時はアキトの命令だと伝えて罪を逃れるわ」


「え、ひどくね?」


「ふふっ、冗談よ」



 リヒテルに戻ってもう一度シグルド王に謁見すれば、カヤの父親の事やサイナスのことを聞き出すことが出来る。俺たちの物語も一気に終わりへと近づくだろう。



「さぁ、そうと決まればこんな場所からおさらば」


「ぐぁああああああああ!!!」



 叫び声が聞こえた。隊長の声だ。



「なんだ!?」



 俺は反射的に剣を抜き構える。隊長がいた班の人間は突然の出来事に狼狽えている。



「隊長がやられた! 息をしてない!!」


「なんだと!? 何があった!?」


「分からない! 突然穴から手がぐぁあああ」



 また叫び声。一体この空間で何が起きてんだ!?



「カヤ、俺から離れんじゃねぇぞ」


「その台詞、そのまま返すわ。ナルちゃんとウィルベルもあそこで固まっている。大丈夫みたいね」


「だけど一体何が……」


「ぐわぁあああ!!」



 三度目の叫び声が聞こえたその場所は俺達からそう遠くない場所。俺の【慧眼】がその瞬間を見逃さなかった。


 小さな穴からナイフを持った手が現れ、人を刺したのだ。



「あの手か!」


「高度な時空間魔術の使い手よ。一体何者……?」



 その手が次に狙ったのはマドカ。マドカの背後に小さな穴が現れる。



「マドカ! 後ろだ!!」


「見えていましてよ? 私に触れようなんて1万年早いですわ」



 マドカが遅延の魔術を詠唱すると同時に穴から出た手の動きが緩慢になる。それは人のものとは思えない赤黒い手だった。



「モルドレッド」


「分かっている! ふんっ!!」



 モルドレッドの一撃でその手はぐちゃりと潰れ、穴に引っ込んだ。



「無事か、マドカ!?」


「えぇ、傷一つありませんわ。それにしても先ほどの手は一体……いえ、それよりも隊長達の治療を」



 次の瞬間、今度は人ひとりが出入り出来るほどのサイズの黒い渦が出現した。



「なっ!? 魔剣の軍勢の増援か!?」



 俺のその言葉に答えたのは渦から徐々に姿を現しつつある異形だった。渦から右手を出し、這い出る様に出て来たそいつ。




「くっくく、大正解だぜ。先兵がやられちまったって聞いてよぉ。ふ、ふふふ、久々にいぃー匂いが立ち込めてんじゃねぇか。この死の匂い、俺の好みだぜ」



 それは男だった。背中には折りたたまれた翼を有し、細く鋭い尾が生えている。人間と悪魔の中間、そんな容姿をしている。そいつの左手はモルドレッドの一撃でぐちゃぐちゃに潰れていたが、徐々に再生を始めている。



「お前は……誰だ?」



 その男は俺に向かってぐりんと首を曲げて、歪な笑顔を浮かべて名を名乗った。



「あ? 俺は『夢殺し』ってんだ。よろしくな、クソガキ」

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