表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

196/516

楯無明人/黒の洞窟

 ――黒の洞窟。


 リヒテルから丸三日かけて辿り着いたその場所。切り立った崖に不気味な程大きな穴が開いている。ここはかつて魔法石の採掘場だったらしい。悪寒みたいなものも感じるし、クエストじゃなきゃ絶対に入らない様な場所だ。


 俺たちは総勢30名の討伐隊と共にその洞窟に足を踏み入れた。踏み入ったその瞬間から肌をチクチクと刺すような気配を感じた。これはこの洞窟の魔物の気配だろう。



「僕たちに気付いてはいても、襲っては来ない様だね」



 ウィルが俺の隣でそう言った。



「俺達の数にビビってんじゃね?」


「実際そうかもしれないね。この討伐隊はリヒテルの冒険者でも腕利きの猛者たちが集まったパーティだから。魔物からしたらある種の天敵みたいなものだよ。でも、相手は狡猾な魔物。隙を突いて襲って来たりして」


「嫌なフラグ立てないでくんね? お前のその手の勘は当たるんだからさ」



 という話をしている最中、討伐隊の最後方から声が上がる。



「魔物の襲撃だ! 手伝えるやつは手伝ってくれ!」


「アキト!」


「ほら言ったじゃんか」



 俺とウィルは引き返して最後衛の援護に加わった。



「援護に来たよ! 相手は!?」



 武器を構えたウィルの問いかけに最後衛のプリーストの女性が答える。



「ゴブリンです! リーダーもいます!」


「リーダーか、これは厄介だね」



 ゴブリンは俺の知るゲームやアニメだと雑魚敵である。そしてその例に漏れずグリヴァースのゴブリンもさほど強くは無い。タイマンなら光剣を使わなくても俺でも倒せるほどだが、そいつらの真の恐ろしさは『数と統率力』にある。



「アキト、囲まれてるね。ざっと20体はいるかな」


「プリーストは俺達の後ろに下がっててくれ。状況を見てヒールしてくれると助かる」


「す、すみません。回復は任せて下さい」



 それにしてもこのゴブリンどもは賢い。俺たち討伐隊の隊列の最後衛には戦闘能力に乏しいプリーストが配置されていた。つまり、反撃されるリスクが最も低い箇所を的確に襲撃してきたってことだ。


 そして、それを命令しているのがあそこにいるゴブリンリーダーと呼ばれる存在。名前の通り、群れのリーダーだ。



「イリスさんがいればもう戦闘は終わってたかもね」


「あの人、プリースト系統なのに滅茶苦茶攻撃能力高いもんな……って、ないものねだりしててもしょうがねぇ」



 俺は英雄王の剣改め、光剣フィクサを抜き放つ。


 これまでは意のままに光剣化出来なかったのに今では抜刀と同時に片手剣相応の光の刃が出るようになっている。ミアさんとシグルド王から扱い方とカラクリを教えて貰ったからか、以前よりもこいつと深く繋がっている感覚がある。



「よし! いっちょウォーミングアップ始めるか!」


「そうだね。いくよ、スクラフィーガ!!」



 俺とウィルが数体のゴブリンを斬り伏せた頃に中衛から増援がやって来た。



「お待たせっす!」



 ナルだ。近距離専門の俺たちとは違い、中距離から遠距離まで担えるこいつなら初っ端大将首を獲れるかもしれねぇ。



「ナル! あそこの群れの奥にリーダーがいる」


「了解っす! 風の魔法石Sレート!」



 ナルの周りに無数の風の刃が現れ、その刃が高速で回転しながらゴブリンの群れを切り刻んでいく。うわ、おっかねぇ。


 その風の刃はゴブリンの群れを蹴散らしながら進み、最後にゴブリンリーダーの胸元に突き刺さり消滅した。俺たちがチマチマ倒していた雑魚とゴブリンリーダーをナルはまとめて一瞬で討伐したのだ。魔法石恐るべし。



「よっし、リーダー討伐完了っす!」


「ナルの戦闘力やばくね?」


「今頃気付いたの? 僕はマギステルで一目見たときからナルはとんでもない子だと思ってたよ。さぁ先を急ごう」



 俺達が駆け足で本体と合流すると、先頭を行く隊長が足を止めた。



「この先に開けた空間があるようだ。特に用心しろ。魔剣の軍勢は音も無く現れるからな」



 隊長は魔剣戦役の経験者らしくその辺りはこの場にいる誰よりも知識もあり、鼻が利くようだ。



「少しずつ前進するぞ。隊列は崩すなよ」



 それから10分程前進するとその開けた空間とやらに出た。高い天井に広い空間、ぱっとイメージしたのはゲームのボス部屋だ。一歩入った瞬間に「あ、これ出るな」という勘が働いた。


 隊長が指示を出す。



「円形陣だ。背後を取られるな! いつ現われてもおかしくない」



 と、言っていた次の瞬間だった。



「来た、な」



 いち早く武器を構えたのはモルドレッド。その視線の先には黒い渦が現れている。



「なんだ……あの渦……」



 俺から少し離れた場所にいるカヤが叫ぶ。



「あれは転移門よ! 大勢来るわ! 構えて!」



 俺たち討伐隊を取り囲む様に黒い渦が次々と現れ、中から様々な種類の魔物が出現した。


 ゴブリン、ゴーレム、スライム、リザードマン、そしてレッドドラゴン。驚くべきはその数ではなく、いずれの魔物も『黒い瘴気』を纏っているということ。



「黒い瘴気!? こいつらが魔剣の軍勢なのかよ!?」



 準魔剣の力を帯びた魔物は黒い瘴気を纏っており、ステータスも通常種よりも遙かに高く、魔法石による攻撃を吸収する能力を持つ。


 攻撃に長けたナルもお手上げだし、本来であればまともに相手するのは得策ではない。イリスさんの【討魔術式】で瘴気を祓わなければ相当に厳しい戦いを強いられるだろう。



「イリスさ……って、いなかったよな……隊長! 指示を!」


「数は我々の方が多い! 各個撃破だ! ただし、レッドドラゴンとゴーレムは範囲攻撃を持っている! 注意しろ!」



 討伐隊の全員が武器を構え、隊長が雄叫びをあげる。



「誰も死ぬなよ。よし、俺に続けぇええ!」



 俺たちは魔剣の軍勢に挑む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ