楯無明人/大規模討伐クエスト
アキト編最終章です。この章も極力1日2話更新に致しますm(_ _)m
シグルド王から俺たちに『大規模討伐』の討伐隊参加命令が正式に下りて来た。俺たちは宿を出て集合場所であるリヒテル城前の広場へと移動していた。
「大規模討伐……その先に俺たちの求める真実があるんだよな。やっと、って感じだな」
「えぇ。ここで死んでしまっては元も子もないわ。ただでさえ回復役のイリスさんが離脱している今、いつも以上に用心しなければならないでしょうね」
イリスさんはあの日以降、部屋に閉じこもったままである。ずっと再会を待ち望んでいたロウリィさんに他人のような扱いをされ、完全に心を閉ざしてしまったのだ。
「イリりん……大丈夫っすかね?」
ナルのその言葉にウィルが答える。
「アテナが一緒だから大丈夫だよ。きっとあの子がイリスさんの心を開いてくれるはずさ」
「それは、お前お得意の勘か?」
「うん、僕お得意の勘さ」
ウィルの勘は意外と当たる。今のイリスさんを1人にしておくのは心配だが、こいつが言う通りアテナが一緒なら大丈夫か。
「あそこに集まっているのが討伐隊みたいね」
カヤが指さした先には30名以上の冒険者がいた。クラスは様々で、前衛から後衛が万遍なく揃っている。
そして、その中には俺たちの見知っている顔もあった。
宝石があしらわれた煌びやかなローブにチョココロネを両脇からぶら下げたみてぇな髪型にお嬢さま口調の錬金術師。彼女は俺たちに体を向ける。
「あら? あなた達もこの大規模討伐に参加しましたのね?」
「マドカ……イスルギ領以来ね」
――イスルギ・マドカ
血縁ではカヤの従姉にあたる錬金術師だ。亡き母親の名誉を回復させるために魔王メレフの討伐を目指している。こうして会うのは何回目なのか忘れちまったが、マギステル決闘大会以降なんとなくライバル意識が芽生えつつある。
そんなマドカは4人パーティ。その隣には運搬者と弓持ちがいて、当然、一際強烈な存在感を放つあいつもそこにいた。
「また会ったな、アキト」
鎧の男モルドレッドだ。
「あぁ、出来れば会いたくなかったけどな。つーかお前、喋るの上手くなってね?」
「いや、まだ完全、ではない。それでも、マドカの擬似声帯、にはいつも助けられて、いる」
原因は知らないが、モルドレッドの喉には深く抉れたような傷があった。それによって声帯は破壊され、本来であれば喋れない状態らしい。パートナーであるマドカが高度な治癒魔術で擬似的な声帯をこいつに付与してやることで発声を可能としている様だ。
「また治癒魔術の腕をあげたのね、マドカ」
「あなたに褒められても嬉しくないですわ。それよりも……」
マドカは初対面であるウィルの顔をちらりと見る。
「こ、こちらの殿方は?」
あ、やっぱ殿方扱いなんだ。
「僕はウィルベルさ。よろしくね、もう1人の錬金術師さん」
ウィルはナチュラルにマドカと握手をした。ウィルのやつ、相変わらずのパーソナルスペースの狭さを発揮してやがる。
ちなみにそれに対しマドカはというと……。
「なっ!? え、えぇ……よよ、よろしく、ね……」
おいおい、なんだあの真っ赤なマドカは。一目惚れの瞬間ってのを始めて見ちまった。
ウィルの笑顔、性別不明だと破壊力やべぇもんな……てかこいつが女だって早々にカミングアウトした方が良くね? 勘違いが進行すんぞ。
で、引導を渡したのは従妹の錬金術師。
「マドカ、ウィルベルは女の子よ」
「んなっ!!??」
マドカ、雷が落ちたかのような衝撃。カヤのやつ、容赦ねぇな。マドカは半分涙目で肩を震わせながら言う。
「し、しし、知っていましたわよ!? そ、そんなのは初見で分かりますわ!」
「あらそう。それは余計な御世話だったわね」
「マドカは、こう見えて、ドジだ」
「モルドレッド!? 擬似声帯を解除しますわよ!?」
「えぇ、鎧の騎士モルドレッド。私も存じているわ」
「あなたはお黙りになって!」
あのマドカが翻弄されているとは……。というか、カヤのやつも以前ほどマドカを毛嫌いしていない様な気がする。イスルギ領での一件が、あいつを変えたのかもな。いや、変わったのはマドカもか。
その時、ナルが声をあげる。
「アキトさん、あそこ! シグルド王っす」
ナルが指を指しているのは城の中腹にある演説台だ。よく王族が大衆から拍手喝采を浴びてるイメージのあるベランダみてぇなあそこである。
「お集まりの諸君! まずは貴君らの勇気に最大限の敬意を表しよう」
その演説台でそう言ったのはシグルド・オーレリア、この世界の王だ。腕を後ろに回し、さながら応援団長の様な構えのまま声を上げている。
「昨今、魔王メレフが復活したとの噂が蔓延っているのは聞き及んでいるであろう。この俺が今一度言おう。それは紛れもない事実だ」
討伐隊が微かにざわついた。見た所討伐隊の平均年齢は30そこらだ。つまり、18年前の魔剣戦役当時10歳前後。記憶にあるのだろう、あの戦いが。
「俺はあの時、魔王メレフの封印に成功した。しかし、何者かによってその封印は解かれ、メレフは自由の身だ。なぜ今ここでこの話をしているのか不思議に思うだろう。単刀直入に言う。貴君らに討伐して貰いたいのは魔剣の軍勢の残党だ」
「魔剣の軍勢……」
確かラボラティアでもそれと同じ言葉をアイズが言っていた。アイズは自分の事を『ラボラティアを魔剣の軍勢の残党から守護するための存在』だと称していたのだ。
「魔剣の軍勢は魔剣戦役の元凶。準魔剣を用いて殺戮の限りを尽くした魔物たちだ。貴君らの中にも記憶に刻まれている者もいるだろう。大切なものを奪われた者をいるだろう。無理は言わない。彼らと対峙したくなければ今ここで抜けて貰っても構わない」
シグルド王の言葉を聞いて肩を震わせるものが数名。いずれも年長者だ。
「さぁどうする? 己が憎しみと戦うか、己が宿敵と戦うか。逃げても誰も責めない。決めるのは自分自身だ」
数秒の沈黙の後、討伐隊の者たちは誰も抜けることなく敬礼をした。俺たちもそれに習う。
「良い表情だ。ではクエストの説明を行う。ギルドで配布された地図を見てくれ」
地図には赤いマークが記されていた。場所はリヒテルの最東端。結構遠いな。
「場所はリヒテル最東端の洞窟、通称『黒の洞窟』だ。かつては魔法石の採掘場として存在していたが今では廃鉱となっている。俺の調べでは、奴らは間違いなくここにいる」
さすが、情報網が広いと自負しているだけあんなシグルド王。
「内部は入り組んでいるが最奥までのルートは地図に表示されるようになっている。貴君らには最奥に潜む魔剣軍の残党を討伐して貰いたい。俺からは以上だ。健闘を祈る」
シグルド王は喋るだけ喋って奥へと消えて行ってしまった。忙しいって言ってたけどちょい淡白である。
「さぁ、行きましょうか。道のりは長いわ」
「どれくらいかかるかな?」
「少なく見積もって3日といったところね」
「こんな大所帯初めてっすね」
「願わくば、この中に着替えを覗いたりする不埒者がいない事を祈るばかりね」
「おい、なぜそこで俺を見る」
俺たちは黒の洞窟へと出発した。




