楯無明人/【外伝】空っぽの人生①
自分が生まれた意味を真剣に考えたことがあるだろうか? 大体の人は考えたことが無いと返すだろう。
誰が言ったか、人は誰かに必要とされて初めて自分に存在理由を見出すらしい。分かり易いのは恋愛だ。
彼女が出来た、結婚した、子供が出来た。
彼氏になり、夫になり、父となる。
と、存在意義が形を変えてついて来る。あとは会社に入るとかもそうか。自分がいなきゃ駄目だって状況にいれば自ずと自己存在意義は芽生えてくるわけだ。
もっと言うと何らかのコミュニティに所属すれば良い。委員会でも部活でも良い。自分が必要とされうる場所に身を置けば大なり小なり自分の生きる意味を見い出せるだろう。
そして、俺はそれをしなかった。1人になるのは当然の結果だな。
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もうこの際だから言っちまうが、俺はいつの時代もボッチだった。小中高、ものの見事に三連覇中だ。友達もほぼいない。親友なんている訳ない。彼女なんて空想上の存在だ。
クラスにいても誰も話しかけて来ないし、気の迷いで俺に話しかけてくる奴がいても、必要最小限の会話しかしない。なんだったら1日中ただの一言も発さない日だってあった。あぁ、そうだとも。俺は典型的なボッチなのである。
何でそんなことになっているのか、理由は明白だ。
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俺には両親がいない。
生後間もない俺は孤児院の前に捨てられていたらしい。その孤児院で中学まで育って今は高校生にして1人暮らしの真っ最中。バイトで学費を稼ぎながら通学している。成績はまぁ上の下くらい。数学と英語が足を引っ張ってはいるが、それなりの位置にいる。友達いねぇと時間が余んだよ。勉強か読書くらいしかすることないっての。
で、なんで俺がボッチなのかって話だよな。理由は2つある。
1つは、周りが異様に気を遣ってくるからだ。小中高とボッチ三連覇って話をしたが、小中における主な理由がこれ。俺はこの期間で、両親がいない子供は腫れ物扱いされることを知った。
学校から保護者会を通じて保護者へと情報が移り、その後子供へと降りて行く。親が「楯無くんには優しくしてあげてね」とかそんな感じで伝えたのだろう。だから保護者会の翌日は特にみんなが優しかった。給食のおかずを恵んでくれたりもしたな。ある意味『特別扱い』だった。
だけど、それは良い事ばかりではない。
特別扱いをされている子供を嫌う子供もいる。なぜお前だけ特別なんだ。痛い目に遭わせてやるって、それは無いだろとツッコみたくなるような超理論を展開してあの手この手のいじめを受けた。上履きを隠されたり体操服が消えたりとかわいいもんだったけどな。
結果、俺は人との距離感が分からなくなっちまった。これがボッチの理由その2だ。
高校生にもなると小中みたいな特別扱いは消え、周りの奴も普通に接してくれるようになった。給食を恵んで貰うことも無ければ(第一、給食じゃねぇしな)、上履きを隠されることも無くなった。俺のスクールライフようやく平常化か? と思いきや、そうはならなかった。
「やっべ……友達ってどうやってつくんだよ……」
致命的な問題だった。友達の作り方がマジで分からなかったのだ。それなのに周りは俺を取り残してほいほいとくっついていきやがる。最近流行の番組の事なんかを話しているが、俺の家にテレビなんて高級品はねぇ。全然話について行けんのだ。一度だけ哀れに思った隣の席の女子生徒が話しかけて来たが、俺がよほど怖い顔をしていたのか顔を向けたら逃げちまった。さらば青春。
高校生活には色々なイベントがあったはずだ。体育祭、文化祭、修学旅行などなど。ただそのいずれを振り返っても本当にロクな思い出が無い。
まず体育祭。1人だった。
次に文化祭。うん、1人だった。
最後に修学旅行。観光名所の横でボッチ飯を食っていた。
あと地味に心にクルのが体育とかでペア作れってやつな? 出席者奇数=1人あぶれる=俺だから。だから体育のある月曜と木曜はまじで鬱だった。
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とまぁ、俺、楯無明人はこんな学園生活を送って来たわけだ。
悩みを打ち明けられる親友もいなければ放課後にデートするような彼女もいない。冗談抜きで誰にも必要とされず生きてきた。両親がいないことが全ての原因だとは言い切るつもりは無いが、遠因であることは間違いない。
何故俺を捨てた? 育てられないと思ったか? だったら子供作んなよ。という思考サイクルをぐるぐるさせながら今日もまた寂しい学園生活を送る楯無明人17歳。
今日もまた、いと寂しけりだ。




