楯無明人/『運搬者』:ナルエル・ビートバッシュ①
俺とカヤは最初に仲間にすべき人物の話をしていた。
「ロウリィ・フェネット?」
「えぇ。ロウリィさんは英雄王シグルドのパーティに所属していたとされるサポーターとしては最高クラスの人物よ」
おいこいつそんな伝説級の人間を仲間にしようとしてたのか。
「彼女のクラスはアイテムマスター。『道具管理者』と書いてアイテムマスターと読むのだけれど、彼女は道具をほぼ無限に持ち歩ける能力を有しているわ」
「道具を無限に持ち歩ける?」
「えぇ。【時空間魔術】を応用した特製の鞄に物を詰め込むのよ。どんなに詰め込んでも鞄は膨らまず、重さも変わらないらしいわ」
「すっげぇ……なんたらポケットって感じか」
という会話をしていると数メートル先の草むらが右へ左へ揺れる。
「魔物か?」
「さぁね」
カヤは既に杖を構えて戦闘態勢に入っている。
俺も腰の位置で横向きに差してある英雄王の剣を右手で抜き放つ。
さて、この伝説の短剣とやらの切れ味を試させて貰おうか。
「来るわよ、集中」
「おう、いつでも来い」
ガサガサと揺れる草むらから現れたのは……。
「助けてぇええええ!!」
中学生くらいの女の子だった。
「「はぁ!?」」
流石にカヤも驚きを隠せない様子。
「お、おい、あれ新種の魔物か!?」
「馬鹿なの? どう見たって人間よ! それに、まだ何かの気配が……」
続けて『巨大な猪』が現れた。
「猪だとぉおお!?」
「そこのお二方! 助けて下さいっすぅー!!!」
その子は涙目で俺たちへ真っ直ぐに向かってくるではないか。
「うわばか! こっち来んな!! 巻き込まれるだろうが!!」
俺とカヤは方向転換しその子と並走して駆ける……って、俺昨日から走ってばっかじゃねえか!!
魔王から逃げて、猪から逃げて、いい加減疲れたわ!!
「朗報よ」
「んだよこんな時に!?」
「あのバトルボア、ボスだけあってレベルが20を超えてるわ。攻撃力も55ある」
「それがなに!?」
「今のあなたなら一撃で死ぬわ」
「何が朗報だ!!」
俺たち3人はまっすぐに草原を駆け続ける。
「ちょ、ちょっとお二方は冒険者じゃないんです!? ちゃっちゃかあの猪を倒しちゃって欲しいっす!」
「ばか言え! 俺はまだレベル1なんだよ! あ! おいカヤ! お前ならあいつやれるだろ!?」
「もう一つ朗報よ」
汗一つかかずに駆けているカヤがそう言った。
「今度こそ本当に朗報なんだろうな!?」
「まぁ聞きなさい。錬金術師の親戚に『時空魔導師』というのがいるわ」
「全然関係なさそうな方向にシフトしてねぇか!?」
「それが関係あるのよ。その昔召喚士は自らの力を『攻撃』と『防御』に分けた。それが錬金術師と時空魔導師」
「で!? 錬金術師はどっちなんだ!?」
「防御の方よ。錬金術師が作る防御壁は生半可な攻撃では……ふふっ、びくともしないわ」
そのドヤ顔引っぱたいて良いですか!?
「んでんで、お姉さんはこの状況を打開出来るんです!?」
一緒に駆ける中学生らしき女の子が結論を急く。
「言ったでしょう? 錬金術師はこと防御においては右に出る者はいないの」
「だから何が言いたいんだよ!?」
「『防げ』と言われたならば余裕でなんとかできるけれど、『倒せ』と言われると……何も出来ないわ」
衝撃の一言。
俺はもう一度聞き返す。
「今お前、倒せないって言ったか!?」
「えぇ」
ちょっとだけ頬を赤らめるカヤ。
恥ずかしがってんじゃねぇよ!!
「それなら最初からそう言って欲しいっすぅうう!」
「ほんとだよ! もうすぐそこまで来てんじゃねえか!!」
俺たち3人とバトルボアの距離は既に2メートルにまで縮まっている。このままだと追いつかれて猪に轢かれる。異世界まで来て死因が猪との交通事故なんて笑えねぇぞ!!
「全く、この話の流れでこの後の展開を理解できないなんてね。見ていなさい」
カヤが杖を持った状態でズサァーっと振り向き、杖を体の前で構え呪文らしきものを唱える。
「『アトモスフィア』。さぁ防いで、大気の壁よ」
次の瞬間、バトルボアが透明な壁に衝突し、衝撃で大きな牙が片方折れた。
「なんじゃありゃ!?」
「押し固めた大気にマナを練り込んで壁にしたのよ」
「「もっと早くそれをやれ!!」」
俺とその女の子の声が完全にハモった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「いやー助かったっす!」
安全な所まで逃げてから俺たちにぺこりと頭を下げるその子。身体つきはほんと中学生みたいな女の子だ。
「バトルボアに見つかった時はもうだめかと思ったっす」
「あなた、なんであんな所にいたの?」
「あの先の洞窟で魔法石の採掘をする予定だったんす。でもまさか魔物に溢れかえってるとは、失態だったっす」
てへっと頭を小突く女の子。
「あなた、無茶をするのね。私たちが通って無かったら今頃どうなっていたか」
「まぁ猪に踏まれてミンチだったかもしれないっすね」
屈託のない笑顔でとんでもないことを口走りやがる。
「で、あなたは先ほど魔法石と言っていったわよね? 魔法石が目的なら町で買えば良いじゃない」
「だってだって、町に売ってる物じゃ純度が低いんすもん」
「純度を気にするってことは、あなた『魔法石使い』なの?」
「いえ、キャリアーっす。でも魔法石も扱えるっす」
俺が会話に混ざる。
「なぁ、キャリアーって?」
「キャリアーは、アイテムマスター同様『荷物を持つこと』に特化したクラスで、私たち一般クラスの数十倍はアイテムを持てるわ」
「えっへん」
カヤの言葉に彼女は自慢げに胸を張る。ちなみに胸はそんなに大きくない。
「じゃあ魔法石ってのはなんだ?」
「魔法石については見た方が早いわね。その時に説明するわ」
カヤが女の子の方を見る。
「私はイスルギ・カヤ。あなたの名前を聞いても良いかしら?」
「はい! 私はナルエル・ビートバッシュ。ナルって呼んで欲しいっす」
やたら下の名前がイカツイな……と思っていたらナルは続けてこう言った。
「何を隠そう、あのロウリィ・フェネットの一番弟子っす!」




