ロウリィ/『道具管理者』:ロウリィ・フェネット④
「おらよ!」
私は頭に袋を被せられたまま、私は無造作に投げられる。
背中を強く打ちつけ、鈍い痛みが全身に広がっていく。
「あ……あなたたちは……然るべき報いを……受ける……」
「は?」
私の言葉を聞いた男の1人が歩み寄る。
「お前今、なんつった? なぁ!?」
足で私のお腹を蹴飛ばす。
「ごほっ……いつか絶対に痛い目を見るって、言ったの」
「てめぇ、自分の立場が分かってんのか?」
男は私の頭に被せる袋を外して髪を乱暴に掴む。
「ほら、もう一度言ってみろよ? 顔は殴られねぇと思ったら大間違いだぜ?」
「何度でも言うよ。あなたたちには絶対、裁きが下る。私はお母さんに悪いことをしたら罰を受けるって教わった」
男は私のその言葉にカチンと来たのか、腰元の短剣を私に向けた。
「お前やっぱムカつくな……その口を裂いちまえば喋れなくなんのか?」
「……るさい」
私は恐怖なんかに屈しない。
「あ?」
だってお母さんが最期に言ってくれたから。
ロウリィ、強く生きて……って。
「うるさいって言ったの」
「てめぇ……やっぱ裂いちまった方が良いみたいだな」
「裂けばいいじゃない!! たとえ口を裂かれようとも私は噛み付いてみせる! その喉元に食らい付いて、痛い目を味あわせてやる! フェネットの人間をなめるな!!」
「いいかげん黙れよ!」
男が短剣を振り下した瞬間、洞窟全体が大きく揺れた。微かに、強大な魔術の炸裂の余波を感じる。この感じは……【時空間魔術】?
「なんだ!? 地震か!?」
男たちが一様に狼狽える。
「お、おい見張り! なんだ今の揺れは!?」
「ぐはあぁああああ!!」
その悲鳴は見張りの男のものだった。
「な、なんだ!? 何が起きてる!?」
カツ、カツ、と足音がこちらに向かってくる。
私に対する敵意は感じない。
感じるのはこの男たちに対する明確な殺意。
カツ、カツという足音の主はこちらに向かいながら言葉を紡ぐ。
「……欲望に目が眩んだ悪魔共……懺悔の暇は与えない。ここで死ね」
それは男の声だった。
「だ、誰だ!?」
私の眼はランプの明かりに照らされたその姿を捉える。
髪は短く、全身を筋肉の鎧で覆っている様にも見えるほどの逞しい体つき。手には剣が握られており、その剣からは生々しい血が滴り落ちている。
「ロウリィ・フェネット!」
その男が私を呼ぶ。
「よく耐えた。安心しろ、今すぐ助ける」
その言葉を聞いて私は心の底から安心した。
あぁ、これで助かるんだ、私。
「誰だか知らねぇがな! この女は渡さねぇよ! この世界のアイテムマスターを独占した今、俺たちは金を意のままに生み出せる! 一生遊んで暮らせるぜ!」
「……それが最後の言葉で良いんだな? 下衆には相応しいが……」
私を助けに来た男は、瞬く間にその場にいたならず者たちを斬り伏せた。瞬きをする暇もなかった。
「てっ……めぇ……なにもん……だ」
「貴様らに語る価値もない」
私を助けてくれた男はこちらに歩み寄って結ばれた縄を解いてくれた。
「ロウリィ・フェネットで間違いないな?」
「あ、あの、あなたは?」
「シグルドだ。君を助けに来た」
縄を解き終えて私を見るその男。
整った顔立ちに力強い瞳。
「……今回は間に合った……出るぞ、ここから」
私はそこで気を失った。




