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シグルド/『天才科学者』アリエル・エーテ・ルミナ①

「ぜぇったいに許さない! ルミナちゃん、許さないんだからな!」



 鼻息荒く登場したのは桃色の髪の毛をした小さな女の子だった。見た目の年齢は12,3歳といったところだろう。


 自らをルミナと言った女の子は言葉を続ける。



「これを作るのにどれくらいの時間がかかったと思ってんの!? すっごい大変だったんだからね!? すっごく大変だったの! わかる!?」



 びしっと俺に指をさすその子。まるで俺がやったみたいじゃないか。



「そ、そうですよ変態騎士! まずはその子に謝って下さい!!」



 ……おい。



「……アリエル・エーテ・ルミナだな? すまなかった、この通りだ」



 俺が頭を下げたのと同時に桃色の髪の女の子はけろりと言う。



「良いよ、謝ってさえくれれば。すぐ直るしー」


「は?」


「アイズー? 寝たふりはやめて起きなって」



 女の子の合図でシズクに斬られた機械がもぞもぞと動き始め、上半身だけが形を変えて人型の機械へと変形した。機械とは言っても人と同じ肌を表面に纏っており、そうだと言われなければ若い男性にしか見えない。



「これはこれは、お騒がせしました。あなた達は悪者ではなかったのですね。私は自立行動ユニット・アイザックver2.28プロトタイプ極式完全体と申します。アイズとお呼び下さい」



 人の動きとほぼ同じ様な流れる動作でお辞儀をするアイズ。あまりに流麗なその動きに全員が目を奪われている中で、俺は先ほどの自己紹介で気になったことを聞いてみた。



「名前が……少々個性的だな。プロトタイプとは原型という意味だろう? それなのに完全体? しかも極式? 情報が盛り沢山だな」


「もっともなご指摘です。ルミナ様のネーミングセンスは少々個性的ですから。私たち機械人形には特にヘンテコな名前を付けます」



 それに対しロウリィが口を開く。



「……え? アイズさんは本当に機械なんですか?」


「はい。私はルミナ様によって生み出されたエーテロイドで御座います」


「エーテロイド? 聞かん言葉じゃの」


「はい。エーテロイドとは」


「アイズ、余計なことは言わないでっていつも言ってるっしょ?」



 ルミナがぴしゃりと言い放つとアイズは言葉を止めて姿勢を正した。



「これは失礼致しましたルミナ様。常日頃、1人が寂しいとルミナ様があまりにも仰られるので、ついお喋りになってしまいましてぃっ!?」



 がつん、とアイズの腰に拳骨を食らわせるルミナ。



「そういう所だって言ってんの!! 殴るよ!?」


「ルミナ様、数秒前のご自分の行動を振り返ってみて下さい」


「細かいことは気にしないの!」


「そんなことを言われましても。ルミナ様は細かいことを気にするのが科学者として必要なことだと常々仰っているではないですか」


「いまルミナに屁理屈言ったっしょ? これはもうあれだね。シャットダウンの刑に処す」


「それだけはご勘弁を」



 そんな賑やかなやり取りにローゼリアが混ざる。



「ねぇ、お話の最中にごめんね? あなたがアリエル・エーテ・ルミナで良いんだよね?」



 ルミナは不機嫌そうな表情のまま、ぐりんと首をこちらに向ける。



「あいあい、ルミナはルミナだよ? なに?」



 幼女と見間違ってしまう程のあどけない表情だ。こういった状況でなければ、この子が天才科学者だと名乗っても信じられなかっただろう。



「いきなり機械壊しちゃってごめんね? 私はローゼリア・C・ステルケンブルク。私達、ルミナを仲間にしたくてここに来たんだ」


「え、ルミナを仲間に? それって、友達ってこと……? あ、アイズ! ルミナに友達だよ!! 念願の友達!!」



 ルミナは一瞬嬉しそうな表情をしたかと思えば、はっとした後にキッと俺たちを睨んで身構える。



「ちょ、ちょっと待って……もしかして、仲間とか言って油断させてルミナの技術を盗む気っしょ?」


「技術を盗む? そんなつもりはないよ。私たちはね、ルミナちゃんのその技術で世界を救って欲しいの」


「世界を救う? ルミナの技術が?」



 その会話にエーテロイドのアイズが加わる。



「良かったではありませんか! ルミナ様は常々自らの技術で世界を救いたいという趣旨のことを口ずさんでいますゆえぃ!?」


「よ、余計な事言うなっ! べべべ、別にルミナは英雄願望とかないからなっ!?」


「それを自白というのです」


「う、うるさいぞこのポンコツっ!!」



 ごちん、とアイズを蹴飛ばしてからルミナは俺たちを見た。



「友達が出来るのはルミナも嬉しいよ? でもいきなり過ぎてよく分かんない。詳しく聞かせてよ」


「うん、実はね……」



 ローゼリアは事の経緯を説明した。


 俺たちの今までの旅のこと。準魔剣によって世界が歪められ今にも戦争が起きそうだということ。その終結の為にルミナの技術を借りたいということ。それらを掻い摘んで説明した。


 ルミナが最も食いついたのはマギステルでの一件だった。



「ねぇ、その魔導都市を牛耳ってた男は、メレフ……そう言ったよね?」



 それには因縁のあるリーヤが答えた。



「あぁ、いけ好かねぇ奴だったぜ」


「今はどこで何をしてんの?」


「あたしが殺した」


「殺したっ!?」



 ルミナが目を丸くしてリーヤに詰め寄る。



「……ご、ごめんリーヤ。驚かせちゃって。ルミナちゃん大失態だね」


「……メレフは馴染みなのか?」


「兄弟子っていうのかな? ライバルだったんだよ、あいつは」



 ルミナはアイズのボディに手を添える。



「数年前、ここにはアイザック博士っていう天才的な科学者がいたの。ルミナとメレフはその下で働く研究員だったんだ」


「ルミナ様、それ以上は」


「大丈夫だよアイズ。全部話しておきたい。ルミナは自分の罪から逃げちゃいけない。逃げちゃいけないんだよ」



 ルミナは真剣な眼差しで俺たちを見つめる。



「正直に話すよ。特にリーヤはよく聞いて。グリヴァースでは『魔導兵器』って呼ばれてた殲滅兵器。あれね、ルミナが作ったものなんだ」

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