シグルド/王の依頼②
シグルド編第5章後編が始まります。この章の間は12時と17時、1日2話更新とさせて頂きます。
宜しくお願い致します。
「……ルド殿」
気持ちよく寝ていると、いつもとは違う声で起こされる。
「変態騎士シグルド殿!」
「んん……」
仰向けのままゆっくりと目を開けるとすぐ目の前にシズクの顔があった。
「おわぁああ!? な、なんだ!? なぜお前が俺の部屋にいる!?」
「なぜって、起こしに来たのではないですか。私としては変態騎士の部屋に入ること自体が憚られましたが、そうも言っていられないので致し方なく、ここまで足を運んだ次第です」
「じゃあ……その紐はなんだ?」
シズクの手には太いロープが握られていた。
「これは自衛の為です。寝起きのシグルド殿に襲われたときに縛り上げるためで……はっ! まさか私に縛られたい願望があると勘違いしたのですか!? 違いますからね!!」
「分かった。分かったから落ちつけ、変態忍」
「私は変態じゃありませんよ!」
「騒ぐな! そして暴れるな!」
「シズちゃーん、シグルド起きた? 使いの人ずっと待ってるよー?」
ローゼリアが部屋に入って来てぴたっと固まる。
紐を持って男女が揉めているこの光景がローゼリアの目にどう映ったのかは分からないが……ローゼリアは一言だけ呟いて出て行った。
「……終わったら呼んでね。あとこの事は下の人たちには内緒にしとくから」
「誤解だ!」
「誤解です!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
所代わり、リヒテル城の王の間。
リヒテルの王、キグナス・ステルケンブルクが俺たちを呼び出したらしい。
「急な招集にも関わらず、よくぞ参られたクロノスよ」
クロノスことローゼリアが腕を体の前でぴたりと構えて答える。
「王の命とあらばどこにいても馳せ参じます」
「ふむ。その忠誠に感謝しよう」
ちなみに王の間には俺たちとキグナス王しかいない。以前は隣にいたサイナス執事長や護衛の騎士すらこの場にはいないのである。
「キグナス王、今日はやけに静かですが……」
「うむ、余が個人的に招集をかけたのだから当然だ。多くの者はシグルドらがここにいることを知らぬ」
「密会、ということですか?」
「わはは、その通りじゃな。……さてと、そなたがヤマトの忍か?」
キグナス王がシズクに目を向ける。
「は、はい! ヤマトを代表して馳せ参じました! せせ、拙者! キサラギ・シズクと申します! こ、この世界の王にこうしてお、お会いできて大変光栄でしゅ!!」
シズクは王との謁見ということもあって強烈に緊張しているようだ。一人称も変わってしまっているしな。
そんな彼女はカチカチに身体を強張らせたまま、がばっとお辞儀をする。刹那、シズクの懐から破廉恥な本がぼたぼたと落ちる。
「はわわっ!?」
「……ふむ」
キグナス王はそのうちの一冊を拾い上げ、訝しげに見つめる。シズクを除くメンバーは一斉に頭を抱えて盛大なため息をついた。
シズクは慌てて弁明する。
「こここ、これは違うのです! 信じては貰えないと思いますがこれは拙者の忍としてのバイブルでして! 決してそういった類いが好きで収集しているわけではございません!!」
確認だが、シズクは真面目をこじらせた変態である。
どれくらいのものかというと、異界の本の描写を真に受けて忍の生き様を示すとか言って操を捧げようとしたほどには変態だ。
やれやれといった表情でリーヤが呟く。
「終わったな、あいつ」
「敬愛する王からも変態扱いされるとはのぉ。これはなかなかに厳しい展開じゃぞ。あやつ、ショック死するのではないか?」
「シズクさん……これはさすがにかける言葉も見つかりません……」
「今日はシズちゃんのために元気が出る美味しいトマト料理作ってあげないとね」
ハァ、と一同がため息をついた後、破廉恥な本を持ったキグナス王が口を開く。
「これはどこで売っている?」
「「「……はぁ?」」」
全員の声が揃う。
シズクがおどおどとした様子で返す。
「き、キグナス王? それはお戯れの類でしょうか?」
「いや、余は至って真剣ぞ。この本の特にこのページ、余の心に深く突き刺さりおったわ」
そのページは例の女性の忍があられもない姿で縛られているページだった。
「「「「……」」」」
全員がなんて返すべきなのかを逡巡した後、シズクが答える。
「よ、よかったらお貸し致しますが……?」
「ほぉそれは真か。感謝しよう」
キグナス王は嬉々とした表情でそっと懐にその本を納めた。
……この一件は俺たちの中にしまっておこう。
「さて本題に移ろう」
隠れ変態だったキグナス王が至って真面目な表情で話を切り出した。……リーヤとエストはその余りの落差に笑いを我慢するので精一杯といった様子だ。
「貴君らに頼みたいことがある。人を探して来て欲しいのだ」
「人探し、ですか?」
「うむ。理由はシズクの時とそう変わらぬ。彼女の保有する技術はこの世界に有意義なものとなろう」
「かしこまりました。して、その女性の名前は?」
キグナス王は俺たちが探すべき女性の名をあげる。
「アリエル・エーテ・ルミナ。天才的な科学者じゃよ」




