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楯無明人/シグルド・オーレリアとの謁見②

(この人が……シグルド・オーレリア……奇跡の転移者にしてこの世界の英雄……なんだこの胸騒ぎは……)



 俺たちの前に現れたのは戦士の風格を纏った男だった。



「楽にしていて良い。畏まられると、こちらが気を遣うからな」



 シグルド王は玉座に腰掛ける。それを見て俺たちは姿勢を楽にした。


 イリスさんが開口一番、嬉々とした声を上げる。



「シグルド様、お久しぶりです! わたくしです! イリスです!!」



 イリスさんは小さい頃にシグルド王に命を救われたと言っていた。それ以来の再会らしい。



「わたくし、あの頃からずっとミザエルで暮らしていたんです。こうしてここに戻ることが出来て本当に嬉しいです」



 シグルド王はそんなイリスさんに目を向けて優しく微笑んだ。



「あぁ、元気そうだなイリス」


「はいっ! あの、ロウリィさんはお元気ですか? お会いしたいのですが」


「ロウリィ? あぁ、今月の始めに俺の所に来ていた。まだリヒテルに滞在すると言っていたな」


「やはり! では、いよいよ会えるのですね!」


「あぁ、きっとな。……あぁそうだ、まずはこれを送ろう」



 シグルド王は手をぱんぱんと叩いて大臣に持って来させた小包みを手に取り、慈愛を込めた眼差しでアテナを見つめた。



「……これがルミナの遺産を見つけてくれたお礼だ」



 その小包みから出て来たのは小さな『虹色のビー玉』だった。


 それに一番最初に反応したのはカヤだ。



「それは簡易転移門!? なぜそれがここに!? ギルドの者以外は所持することすら許されないアイテムなのに!?」


「縁があってな。俺には用の無い代物だ。メレフを倒すために役立ててくれ」



 シグルド王の口から魔王メレフの名が出た。自分がかつて多数の犠牲を払いながらも討ち果たした相手。その相手が復活を果たした……シグルド王も内心穏やかではなさそうだ。


 カヤはシグルド王からその簡易転移門とやらを受け取る。



「有り難く頂戴致します。シグルド王、僭越ながらお聞きしたいことが」


「……いいだろう。それと、その堅苦しい喋り方は崩して良いぞ、イスルギ・リサの娘、カヤよ」



 カヤが目を大きく見開く。



「私の事を知っているのね?」


「もちろんだ。かつての戦友たちの娘だ。知らぬ訳がない」


「戦友……たち?」



 カヤは期待を込めた表情で一歩前に踏み出す。



「いま、戦友たちと言ったわね!? 私のお父さんは誰なの!? その言いぶりだと魔剣戦役の時にあなたと一緒に戦った誰かということに」



 シグルド王は手を前に出す。



「落ち着けカヤよ。お前が聞きたいことは全て把握している。自分の生い立ちの事。行方不明のエストの事。そしてリサを呪った男の事。そうだろう?」


「……話が早くて助かるわ。でもなんで?」


「俺はこう見えて地獄耳なんだ」


「それは冗談? それとも、そういうスキル?」


「さぁ、どっちだろうな。ふふっ、まるでリサと話している様だな。懐かしい。さて……」



 シグルド王は右手をゆったりと上げてしっし、と手首をひねる。大臣と鎧の騎士がそれに頷き王の間を出て行った。



「これでここには俺たちしかいなくなった。込み入った話が出来るな」



 シグルド王は俺たちを順番に見て、ひとりひとり名前を読み上げる。



「ナルエル・ビートバッシュ。ロウリィの弟子か」


「はいっす!」


「イリス・ノーザンクロイツ。この世界唯一の聖女」


「はい」


「ウィルベル・カエストス。エストの意志を継ぎし竜の子だな」


「はい!」



 次にシグルド王はアテナを見る。その眼差しには憂いが見て取れる。



「アテナに何か?」


「アテナ? ……そうか……今はまだ機能不全といったところか。完全な覚醒までは時間がかかる様だ。しばし面倒を見てやってくれ。そして残りの2人」



 俺とカヤを交互に見た後、カヤに目を留める。



「カヤ、メレフの討伐に名乗りを挙げてくれて感謝する」


「私は自分の夢を叶えるために名乗り出たに過ぎない。下心満載よ」


「それでも今の俺に出来ないことをやろうとしている。立派だ」


「立派……私にそう言ってくれた男性は2人目ね」



 カヤは俺を一瞥する。確かにずっと前に言った気がするが、覚えていたのか。



「そして……異世界から参られし転移者か」



 シグルド王は俺の顔を見る。俺とシグルド王の視線が交わる。力強い眼差しだ。


 これが世界を救った男か……いや、なんだこの感じ……すっげぇ違和感が出かかってるんだが……。



「シグルド王……あんた……本当に」


「アキト」



 俺がその違和感を口にしようとした時、名を呼ばれ言葉を遮られた。



「その剣、大事に扱ってくれている様だな」


「え、あぁ。何度も命を救われた。あんたの剣なんだろ?」


「……ミアから聞いたのか?」


「まぁな。だけど薄々気づいてたよ。つーか名前からして一択だろ。この剣についても沢山聞きたいことがあるんだ。光の刃とか突然爆ぜる能力とか」


「それを話すのは今ではない。正確に言うならば、話せないのはその剣の事だけではない。エストのことやサイナスのことも、今はまだ話せない」



 それにウィルが返す。



「そんな! 他に聞くべきところが無いんです! 早くしないと母さんが遠くに!!」



 カヤがウィルの前に手を出す。



「落ち着きなさいウィルベル。シグルド王、あなたは今『まだ話せない』と言ったわね? いつなら話せるの?」


「大規模討伐クエスト、知っているだろう?」



 それは特別褒賞クエストのもう片方のことだ。



「数日後に討伐隊を編成する。その編成に加わり無事戻ってくれば、話してやろう」


「……信じて良いの?」


「あぁ。俺は約束を破らない男だ。……時間だ」



 シグルド王は玉座を立ち上がる。そして去り際、背中越しで俺に告げる。



「アキト……親から貰ったその名前、大事にするが良い。両親はいつまでもお前を見守っている」

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