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楯無明人/シグルド・オーレリアとの謁見①

 翌日の朝、俺たちはリヒテル城の前に来ていた。体調が回復したアテナも一緒である。



「……」



 アテナはまだ俺たちの事を自分を誘拐した悪党かなんかと疑っているのか、口を開こうとしない。ただ、何故かイリスさんには既に懐いているようで、その陰に隠れてじっとしている。



「アテナ、この方々は悪い人ではありません。わたくしの仲間たちです」


「……」



 イリスさんの服を掴んでサッと隠れるアテナ。親子にしか見えん。


 にしても見れば見るほど疑わしくなるんだが、あの子本当にエーテロイドなのか?


 朝普通にモリモリご飯食べてたぞ? なんか緑っぽい液体をがぶがぶ飲んでたがあれが燃料のエーテルなのか? うーむ、考えれば考えるほど訳分からん。


 カヤが口を開く。



「謁見の時間まで少しあるわね。今後の事を整理しましょう。私たちはこれから私たちの求める真実を知ると思われるシグルド王と会う。そこで、エストさんの行方と、お母さんに呪いをかけたサイナスという男の情報を聞き出す。そしてそれとは別にもう1つ。王都の中にいるロウリィさんを探す」


「ロウリィさんの居場所も、シグルド王なら知ってるかもな」


「そうっすね。師匠なら商売のついでにかつての仲間であるシグルド王に会っていてもおかしくないっす」


「いよいよ、会えるのですね……ロウリィさん」



 イリスさんの緊張を読み取ったのか、アテナがイリスさんの腕をさすった。


 アテナにはうさたんの記憶が宿っている……アイズは確かにそう言っていたが、あれを見ると信じたくもなるよな。あのうさぎがイリスさんに懐いていた光景そのものにも見えるんだから。



「時間よ。行きましょう」


「あぁ、この剣のかつての持ち主、シグルド王に会いに行こう」



 俺たちは城の執事に案内されて王の間へと通された。赤い真っ直ぐなカーペットが伸びた先には数段の階段と立派な玉座。そして10人程の槍を武装した鎧騎士がカーペットに沿って立っている。



「よくぞいらっしゃいました」



 大臣らしき男が俺たちに頭を下げ、鎧の騎士が統率された動きで槍を足元に置いて膝をついた。主君が出したクエストをクリアしたからか、手厚い歓迎だ。



「な、なんか照れ恥ずかしいっすね」


「僕もこういうのはちょっと慣れてないな」


「堂々と胸を張っていればよいのですよ。玉座の前へと行きましょう」



 イリスさんがその豊満な胸を張る。流石はこの世界唯一の聖女。こんな感じの扱いは慣れているのだろう。あ、そう言えばイリスさんって元々王都の人間だったような……。



「もしや貴方様は……聖女イリス様では?」


「はい。イリス・ノーザンクロイツ、久方ぶりに王都へ戻って参りました」



 鎧の騎士たちがざわつき始める。



 ――ま、まさかイリス様がまだご存命だったとは。これほど喜ばしいことは無い。


 ――聖女に相応しき美貌と成られた。この歳まで生きながらえて良かった。



「ほ、本当に? 魔剣戦役を堺に姿を消され、一説では野盗に襲われ命を落としたとお聞きしておりましたが……」


「それは事実です。ですがシグルド王に助けられ、ミザエルにて姿を隠しておりました。今はこの者達と共に魔王討伐の旅をしております」


「それは真ですか!?」



 大臣は嬉々とした表情で言う。



「魔王メレフが復活したという噂が広まって以降、幸いまだ大きな被害は出ておりませんが、その噂そのものが人々に恐怖を与えています。魔剣戦役を経験した世代の者達は当時の出来事を想起して夜も寝れないとか」


「無理もありません。あれは多くのものを奪った戦争ですから。ですがわたくしとこの者達が確実に魔王を再討伐致します。ご安心下さい」



 数名の鎧の騎士が「おぉ! これは心強い。ようやく平和が訪れる」といったニュアンスの言葉を囁いた。イリスさんの言葉には人を落ち着かせる不思議な力がある。聖女ゆえの説得力と癒しの波動がそうさせるのかもしれない。



「イリス様ご一行が褒賞クエストをクリアされたのも、きっと大召喚士レミューリア様の思し召しに違いありません。レミューリア様のご加護があらんことを」



 大臣と鎧の騎士が一斉に祈るポーズをとった後、玉座の方へと体を向ける。



「シグルド王がいらっしゃいます。皆様はこちらへ」



 俺たちは玉座の数メートル前で横一列に並ぶ。



「英雄王シグルド……18年前の魔剣戦役を終わらせた英雄……来るのか」



 心臓が大きく高鳴る。なんでこんなに緊張してんだ俺……。



「シグルド王のお越しです。幕を開け放ちます」



 大臣の合図と共に玉座の後ろの赤いカーテンが開かれる。



「あれが……英雄王シグルド……」



 そこにはがっちりとした体型の男が立っていた。


 聞く所によると歳は40を超えていくつらしい。白髪が混じっているところは歳相応だが、筋骨隆々な所は歳不相応だ。現役バリバリの熟練のファイターだと言われても信じちまいそうだ。


 シグルド王は数歩前に歩み、玉座の前に立つ。


 この人が英雄王……威厳がやべぇ……。



「クエストを達成してくれたことに感謝しよう。俺はシグルド・オーレリア。このリヒテルの王だ」



 点と点は静かに交わり始めた。

本日は17時過ぎにもう1話更新致します。

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