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楯無明人/英雄の像

 

「ばかな……!!」



 そんな負ける直前のラスボスみたいなことを口走ったのはカヤである。シグルド王に会うために城の前に来たは良いのだが、門番に止められて今に至る。


 決して、謁見申請が通らなかった訳ではない。謁見は出来る。出来るのだが……。



「2年先まで予約が一杯ですって!?」


「左様で御座います」



 門番がこれまた申し訳無さそうに返す。



「シグルド王は下々の者との謁見も積極的に受け入れる王ゆえ、申請数が途方もない数になっているのです。1人当たり3分と短いものの、如何せん数が……」


「なんてことなの……完璧なプランにこんな落とし穴が……」



 いきなり王様に会って情報聞き出すってことのどこが完璧だったのかと問いただしたいところだが、俺もそうしようとしてた手前、何も言えん。



「イスルギさん、ここは出直してプランを練り直そう」


「それしかない様ね……2年も待ってられないもの」



 俺たちがさぞかし残念そうにその場を後にしようとした時、その門番を俺たちを止めた。



「そんなに急ぎの案件なのですか?」


「えぇ、とても大事なことよ」


「それでしたら裏ワザが御座います」



 門番の人は門の脇の看板を指差す。それはギルドのクエストボードだった。



「ただいま、シグルド王から『特別褒章クエスト』というのが出ています」


「特別褒章クエスト? それが裏ワザ?」


「はい。その特別な褒章はシグルド王直々に手渡されます。つまり、クリアできれば謁見申請の順番を飛ばして王とお会いできます」



 それを聞いてナルが飛び上がる。



「カヤっち! これは受けるしかないっす!!」


「わたくしも賛成です。どのようなクエストかは分かりませんが、他に選択肢もありません」


「その様ね。門番さん、確認だけれどギルドで受注すれば良いのね?」



 門番は首を縦に振って遠くを指差す。



「ギルドはあちらに御座います。半年間、誰もクリアに至っていないクエストです。お気をつけて」


「えぇ。ありがとう」



 俺たちは揃ってギルドに移動する。その道中、広場に整然と並べられた6体の石像を見かけた。まるで英雄像の様だ。



「これは……もしかして六賢者か? あそこにあんのはリーヤさんの像だよな?」



 左から2番目のポニーテールのエルフの石像はリーヤさんに間違いない。更に言うと一番最後の像はカヤの母親、リサさんの像だろう。



「えぇ、その通りよ。この世界を救った英雄の像だもの、あってもおかしくは無いわね。あのお母さんの像もとてもよく出来ているわ」


「ちゃんと師匠のもあるっす」



 ナルが指差したの1番目の像。大きなリュックサックを背負ってる女性の像だ。その像を見てイリスさんが呟く。



「ロウリィさん……石像だから当然ですが、あの頃のお姿そのものですね」


「いまでもそんなに変わらないっすよ? ちょっとだけ背は伸びてるっすけど」



 そんなやり取りの最中、ウィルは育ての親であるエストさんの像に歩み寄る。



「母さんの姿も今と変わらないんだね。流石は竜人の一族だ」



 親のいない俺に、親と離れる気持ちはよく分かんねぇが、このままで良いはずがないことくらいは分かる。俺は寂しそうなウィルの横に並んで呟く。



「絶対見つけ出そうぜ、エストさんを」


「うんっ!」



 次に俺は見慣れない2体の石像に目を向ける。


 片方は日本刀を腰に差したくノ一の様な恰好をしており、もう片方はだぼだぼの白衣を着た背の低い科学者の様な格好だ。



「この2人ともいつか会うことになんのかね」


「その2人は無理よ」



 そう言ったのはカヤだ。彼女はこう言葉を続ける。



「正確に言うと、ルミナさんに至っては困難。シズクさんに至っては不可能。と言った方が良いかしら」



 ――アリエル・エーテ・ルミナ。


 エーテル燃料の生みの親であり、六賢者の1人。終戦後すぐに姿をくらまし、今現在も行方不明となっている。聞くところによるとあの白衣の石像がルミナさんであるらしい。



「シズクさんって、初耳だな」


「キサラギ・シズク。ヤマトの里出身の忍見習いにして、妖刀を用いたと言われる女性。彼女にはもう、会うことは叶わない」



 カヤの表情はもの悲しげだ。カヤだけじゃなく、イリスさんやナルも同じ。俺はその表情を見ただけで分かってしまった。会うことが出来ないと断言している理由が。



「……名誉の戦死だと伝えられているわ。他の六賢者が当時の事を語ろうとしないからどうして亡くなったのかは定かではないけれど、こうして20年経った今でも尊ぶ声は多い」



 シズクさんの石像の前には多くの花が添えられていた。



「魔剣戦役……そうなっちまうのが戦争ってやつか」


「すべての元凶は準魔剣と魔王メレフ。メレフが復活した今、またあの惨劇は繰り返されてしまうかもしれない」


「魔王メレフが元凶……」



 カヤと会話をしている間『二度』俺の【慧眼】が反応した。


 一度目はシズクさんが死んだと聞かされた時。


 二度目は魔王メレフが元凶だと聞かされた時。


【慧眼】のスキルは真実を見通す力。それが反応したってことは……この2つは真実ではない、ってことか? 


 だとしたらシズクさんは亡くなっておらず、魔剣戦役の黒幕はメレフじゃないってことになる……史実の真逆だ。そんなこと、この世界の誰に言っても信じて貰えるわけないが……。



「さぁ、ギルドに向かいましょうか」


「あぁ」



【慧眼】の力は確かに強力だがいまいち俺自身もまだ扱いこなせてない。間違いかもしれないし……さっきのことはまだ黙っていた方が良さそうだな。

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