楯無明人/光の都リヒテル
RPGなんかで『王都』と聞いたらどんな風景を思い浮かべるだろうか? 俺に言わせれば、多少ゲームやアニメをかじったことのある人に聞けばそこまでイメージはばらけないと思う。
煉瓦を基調とした建物と、そこを行き交う身なりの整った人々、おまけに街の中央にはドンと城が構えている……大体そんな感じだろう。少なくとも俺はそうだった。
「ここが……リヒテルか。まんま王都じゃねぇか!!」
そのイメージをそっくりそのまま具現化したかの様な街並みが俺の目に飛び込んで来た。
「あなたのことだから、その『まんま』というのはどうせゲームとかアニメの知識なのでしょう?」
カヤが全部お見通しですよ的なドヤ顔で俺に言った。言い返してやりたいが大正解なので黙っておこう。
「僕も久々に来たよ。王都ってこんなに人が多かったんだね。真っ直ぐ歩けないくらいだよ」
そう言いながらきょろきょろと辺りを見渡しているウィルに、チラシを手に持ったイリスさんが返す。
「先ほどこんな物を頂きました。なんでも今日はお祭りの様ですね」
「なんのお祭りです?」
きょとん顔のナルにイリスさんはチラシを読み上げながら答える。
「『技術革新祭』です。『エーテル燃料』が誕生した記念日ですね」
「エーテル? なんか聞いたことがある様な……どこでだっけ?」
「マギステルよ」
カヤがぽつりと呟いた。
「マギステル? それってあの決闘大会やった……あぁ!! あの殲滅兵器か!!」
あのカラーボールをしこたま撃ちまくってたおっかねぇ機械。確かにあれリーヤさんに『エーテル兵器』って呼ばれてたな。
「えぇ。あの兵器に使われているのがエーテルと呼ばれる特殊な燃料よ」
「特殊? お祭りになるほどなのか?」
「普通の燃料ではないからね。ほぼ単独で循環可能で使い方によっては半永久機関を作り出すことが可能な燃料、それがエーテル。大地を流れる龍脈が隆起した際の活性化エネルギーを抽出して生成、凝集した物よ。平たく言えばね」
「ひ、平たく言ってんのかそれ? すまん、何言ってるか全然わからんぞ」
「はぁ、これだから性欲のお化けは」
「そのあだ名はやめては貰えないだろうか!?」
たった一度下着見ちゃっただけじゃんよ!! もしかして一生このあだ名なのか!?
「はいはい! 私が噛み砕いて解説するっす!」
ぴょんぴょんと跳ねながら手を挙げたのはナルだ。一緒になってイリスさんのペットのうさぎも跳ねやがった。あのうさぎ、絶対自分のこと可愛いと思ってんな。あざとい。
「エーテルは今から20数年前に開発されたエネルギーの事っす。この世界のエネルギー源、マナを微量に抽出して増幅する技術を使って作られるみたいっす。使ったエネルギーの大半は大地に還り、再び循環するっす」
「へぇ、さっきよりは分かりやすいな。それにナルは博識なんだな」
「それほどでもないっすよぉ」
めっちゃ嬉しそうだ。
「でも、技術自体は20年前に確立してたんすけど、実用化したのは比較的最近なんすよ」
「比較的最近? 20年前からあった技術なのに? なにがあった?」
「ノウハウを知る人物が消えたのよ」
「は?」
俺が首を傾げていると、ウィルが聞き慣れない人物の名を呟いた。
「ルミナさん、だね」
「ルミナさん? 初耳だな。その人がエーテル燃料のノウハウを知る人物? もしかして発明者か?」
それにイリスさんが返す。
「はい、その通りです。アリエル・エーテ・ルミナ。史上最年少で技術博士の称号を得た天才中の天才。そして、魔剣戦役では英雄王シグルドのパーティに所属しておりました」
「それって六賢者……ってことですか?」
イリスさんは首を縦に振った。六賢者もこれで分かっている限りで5人目か。あと1人もさぞかしすげぇ奴なんだろうな。
「ルミナさんは姿を消したって言ってたよな? どうやってエーテルを量産したんだ?」
「エーテルに関する論文をシグルド王が持ってたんす。一緒に旅をしていた仲だし、その縁で譲り受けたのかもしれないっすね」
「その論文を解析してようやく近年、技術が追いついたのよ。ルミナさん本人がいればもっと早くにこうなっていたのだけれど」
カヤが周囲の風景に目を向ける。その先では小型ではあるがお手伝いロボットが老婆の荷物を持っていたり、要所と思しき場所を数体の警備ロボットが護ったりしている。
人間とロボットの共存、と言うにはまだ規模は小さいが、エーテルという燃料が人類の役に立っているのは間違いないようだ。
と、なると気になるのはルミナさんの行方。
これだけ有意義な発明をしておきながら何故姿を消したりしたんだ? まさか、姿を消さなければならない理由が……?
「目的を整理するわ」
カヤが俺たちの方を見て言う。
「1つ、サイナスの情報を集めること。これには私に考えがあるわ。そして既に手を打っている。後回しで良いわ」
カヤは指を2本立てて言葉を続ける。
「2つ、エストさんの情報を集めること。これも既に手を打っている。私に任せて」
ウィルが大きく首を縦に振る。
「そして3つ、王都にいるロウリィ・フェネットの捜索。ナルちゃん」
「はいです?」
「どこに行くとか聞いてはいないかしら?」
ナルは考える素振りで「うー」っと唸ってから答える。
「商売かなにかだと言っていた気がするっす。だから商業区画にいると思うっす」
「商業区画……少し遠いわね。4つ目の要件を先に済ませましょう」
カヤは指を4本立てる。
「アキトの剣の製作者、ミア・ハンマースミス。彼女の工房に行きましょう。商業区画へ向かう通り道にあるわ」
俺たちはミアさんの鍛冶工房へと足を向ける。
英雄王の剣の生みの親……どんな人なんだろうな。




