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シグルド/真面目こじらせた忍

 ――キサラギ・シズク。


 ヤマトの里の忍であり、歳は17らしい。


 かなりの潔癖症で、過激なまでに男を毛嫌いする女性だ。ことあるごとに俺の右腕を折ろうとするのは頂けない。



「部屋割りを決めます」



 リヒテルの宿にて夕飯を食べ終えた段階でシズクが口を開いた。



「2階の部屋についてですが、本日私が部屋を掃除したことによりもう2部屋を拡張することに成功しました。というか掃除をしながら思ったのですが、あれは何ですか? 今まであのごみ屋敷の様な部屋を放置していたのですか? にわかには信じられません」



 全くもってその通りだが、所用で掃除まで手が回らなかった、と言い訳をしたら怒られそうだと思ったのか、誰もそれを口にしなかった。



「さて、その掃除で使える部屋が合計4つとなったのですが、私たちのパーティは6名います。それでも2人溢れてしまうのです。どうしましょう? 今まではどうしていたのですか?」



 首を傾げるシズクにローゼリアが返す。



「誰がシグルドと相部屋になるか面白半分でサイコロ振って決めてた」


「相部屋っ!?」



 シズクの顔が紅潮していく。



「そそそ、それは本当ですか!? なんて破廉恥な! 夫婦の契りも交わしていないのにも関わらず相部屋とはっ!! 責任は取れるのですか変態騎士!!」


「いや、責任と言われてもな……あと変態騎士はやめろ」



 俺はほとほと困った様子でリーヤ達に助けを求めるが彼女たちはげらげらと笑うばかりで助け舟は期待出来そうにない。



「逆に問うがシズクよ。責任とは何の事を指す? 共に寝るのに責任が必要か?」



 俺のその質問が火に油だったのかシズクは腰の刀に手をかけた。



「なっ、なんたる不埒な問いかけですか!? 分かりました。私のこの『妖刀ベニツバキ』で処断します!!」


「お、おちつけ」



 なんだこの猛犬の様な女性は。



「ロウリィ、同い年だろう? 何とかしてくれ」


「分かりました」



 ロウリィがシズクの前に歩み寄って語りかけた。



「シズクさん、シグルドさんは大丈夫ですよ。基本無害でヘタレな方ですから」



 それはフォローになっているのか?



「無害でヘタレ? そんな殿方がいるとも思えません。私は父上から『男性は皆、狼である』と教わりましたので」



 この俺に対する異常なまでの拒否反応はそれが原因だったのか。何度も骨を折られそうになっていることをその父上に報告したい所だ。



「それがいるんですよシズクさん。シグルドさんは誠実な方です。シズクさんが心配するようなことは無いですよ」


「……それは信じるに値する言葉ですか?」


「他の人にも聞いてみて下さい」



 ロウリィに促され、シズクが他の3名に視線を向けと、全員が同時に大きく頷いた。身の潔白は証明されたが微妙な心境である。



「……分かりました。信じましょう。時に変態騎士よ。話は変わりますが……」


「その呼び方は訂正しないのか……で、なんだ?」


「ほんっとーに不本意なのですが、全然これっぽっちも私の意思は介在していないのですが」


「ですがですがどうした? 何が言いたい?」


「今夜、私と夜を共にして貰えないですか? その手で私を大人の忍にして下さい!!」


「「「んなっ!?」」」



 全員が一斉に驚きの声をあげた。



「ちょっとシズちゃん!? それってどういうこと!? 話の流れが直角過ぎない!?」


「忍になるためです。私の持ってる書物では、敵に捕らわれた忍はその相手と夜を共にしておりました」


「いや捕えてねぇし!! てかそんな書物があんのか!?」


「あります。これです」



 シズクが臆面も無く懐から取り出したのは……なんというか……とても破廉恥な本だった。



「ばっ!? なんつーもん持ってんだてめぇ!! 破廉恥なのはお前じゃねぇか変態忍が!!」



 リーヤに罵倒された本人は至って真面目な顔で返す。



「は、破廉恥ではありません! この書物には一人前の忍としての心得が書いてあるのです! 私はこれを実行して一人前の忍として認められたいだけなんです! ほらここ!」



 シズクが開いたページをエストが興味深々で読み上げる。



「どれどれ……おぉ、なかなかに過激な本じゃな。おなごが縛られておるわ。で、『こんなに上玉な身体を持ってるなんてある意味最高の忍じゃねぇか』……と書かれておるな。いやしかし、これをどう解釈したらそうなるじゃ?」


「次のページです。ここには『くっ……主君に全てを奉げるのが忍の本分。私はお前なんかに屈したりはしない』と書かれています。逆に言えば、全てを奉げなければ忍にはなれないということ」


「全てってなんですか!? 貞操とかそういうことですか!? 私は反対ですっ!!」



 ロウリィが赤面しながら猛反論した。その湾曲した理論に他の面々も流石に呆れ気味なのだが、シズクは至って真剣な表情をしている。こいつかなりヤバい。



「こやつ、真面目をこじらせておるな。困ったことに頑固で譲ろうともせんし……どうじゃシグルド、ここは1つ」


「断る!!」


「わしも見ててやるから。あわよくばわしも混ざろう」


「もっとダメに決まっているだろう!! 馬鹿か!?」


「そんなこと言わずに私を大人の忍にして下さいぃー!!」



 膝にすり寄るシズク。端も外聞も無いといった様子。



「落ちつけシズク!! お前男が嫌いなのだろう!?」


「えぇ大嫌いですよ!? ですが、忍になるためなら我慢します! ただし心は服従した訳ではありませんよ!!」


「なんなんだこいつ!? めちゃくちゃではないか!!」



 はぁ……厄介な奴を仲間にしてしまったのかもしれないな。


 何故こうまでして忍というものにこだわるのか……一先ず、きちんと話を聞くとしよう。

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