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シグルド/忍の里ヤマト

 ――忍の里ヤマト。


 ここはグリヴァースでは特異な民族様式を有している。聞いたところによると、あの建物は『イリモヤヅクリ』という聞き慣れない建築様式であるらしい。



「そこの騎士。他にも何か質問がありそうですね?」



 俺にそう言ったのはキサラギ・シズクと名乗った女性だ。


 シノビと呼ばれる種族? 特有の漆黒の衣装を身に纏い、俺達を長の元へ先導してくれている。



「シズクはさっき『私たちの故郷の建築様式』と言ったな? 故郷とはどういうことだ?  ここではないどこか、ということか?」


「その話をするためには『神隠し』について話さねばなりませんね」


「神隠し?」


「はい、神隠しです。私の祖先は本来『ヒノモト』という国の生まれらしいのです。こことは全く別次元の国です」


「別次元……異世界ということか」


「はい、ここではそういう言い方もしますね。私たちの故郷では一時期『人が忽然と消える』という事件が頻発していたらしく、それが『神隠し』という現象です。そして、神隠しに遭った人たちが行きつく場所がここ、グリヴァースだった様ですね」



 シズクのその言葉にローゼリアが返す。



「え、ってことはその『神隠し』って現象は転移門の暴走が原因ってこと?」


「なぁロゼ、余所の次元に転移門がぱっと現われて人を攫うってことがあんのか?」


「無くは無いよ。時空の乱れとか、召喚魔術の演算処理のズレとか色々原因は考えられるし。なんかこっち側の不手際みたいで申し訳ないけど」



 シズクはにこやかに微笑んで返す。



「いえいえ、気になさらないで下さい。もう随分と前の話みたいですし、みんなもうグリヴァースでの生活に馴染み切っていますから。まぁ生活様式はヒノモト時代のままの様ですが」



 そうこう話しているうちに長の家に到着した。



「書状をお預かりしてもよろしいですか?」



 俺はキグナス王の書状をシズクに手渡す。



「それではこちらへどうぞ」



 シズクに案内されて辿り着いたのは『タタミ』と呼ばれる敷物に覆われた大きな部屋だった。



「御前様、キグナス王の使いの者たちです」



 仕切を一枚挟んだ向こう側に人の影だけが見える。あの者がこのヤマトの長か。



「うむ、話は聞いておる。名はなんと申す?」



 代表して俺が答える。



「シグルド・オーレリアと申します」


「シグルドか。この書状には近々合戦が近づいていると記されているが、それは真か?」


「確定した訳ではありませんが、その可能性は高いというのがキグナス王の見方です。つきましては有事の際にリヒテルにお力添えをして頂きたく」


「よかろう」


「そうですね、やはり不躾なお願いでは……え?」



 今なんて?



「その……ゴゼンサマ? でよろしいでしょうか? 今お力添え頂けるというお言葉をお頂戴した様な気が」


「シグルド、テンパって言葉が変になってるよ」


「まさか二つ返事が来るとは思わなかったんだ。しかし、何故ですか?」



 俺は仕切の向こうの長に話しかける。



「我々忍は元来、国に仕え、主に仕える者。国が有事の際は手を貸すのが道理。ましてや王から申し出とあらば馳せ参じるのが忍のあるべき姿である」


「なんかかっちょえーこと言ってんぞゴゼンサマ」


「リーヤさんゴゼンサマに失礼ですよ」


「2人とも、ゴゼンサマに敬意を払うのじゃ。あのゴゼンサマに」



 あの3人、『ゴゼンサマ』と言いたいだけか。



「それでは有事の際はお力添え頂けるということでよろしいのですね?」


「無論だ。ただし、条件も設けてもよいか?」


「条件?」


「なに大したことではない。そちらのシズクをぬしらの旅に同行させて欲しいのだ」



 俺達は勿論、最も驚いたのは当の本人だ。



「私が!? 何故ですか御前様?」


「そなたにはヤマトとの橋渡しになって貰いたい。リヒテルの近況、敵の戦力、なんでもいい、有益な情報があったら教えて欲しいのだ」


「伝令ということですか? それであれば何も私でなくても」


「シズク、お前はこの里で最も腕が立つが世間を知らな過ぎる。勉学の為と思い、引き受けてくれんか? 忍としての本分をお前に果たして欲しい」


「忍……落ちこぼれの私が……? それに相手には殿方が……」



 シズクは「うー」と唸った後、俺達に向き直る。



「そういうことですので、これからよろしくお願いします」



 そんな流れで俺たちにもう1人の仲間が加わった。


 微妙に嫌そうな顔をしているのが気にはなるが、悪い人物ではなさそうだ。



「よろしく頼む、シズク」



 俺が挨拶の為に彼女に向けて右手を差し出したその瞬間。



「は、破廉恥な!! 本性を現しましたね!!」



 シズクは俺の右腕を掴んで捻り上げようとした。俺はグッと力入れてそれを耐える。



「いっつ!? 何をする!?」


「んなっ!? この男、拙者の関節技を力で防いでいるだと!? しかし破廉恥な男には制裁を!!」



 捻り上げる力をぎゅっと強めるシズク。ついでに一人称が変わってるのだが!?



「ぐぉおおお!! ま、待った!! なぜこんなことに!?」


「拙者の胸に触れようとした罰だ!」


「胸だと!? 勘違いだ! お前らからも何か言ってくれ!!」



 俺は他のメンバーに助けを求める。



「まぁお前、シーラムでも獣人の胸を揉もうとしてたもんな」


「良くやったぞ我が弟子シグルドよ。即座に揉みに行くとは、逞しい成長じゃ」


「シグルドさんはやはり胸が好きなんですね……もっと大きくならないかなぁ私の胸……」


「用件は終えたし、早く帰ろうよ。お腹空いちゃった」


「貴様らぁあ!!」



 俺達はシズクを仲間に加えたその足でリヒテルへと戻った。



「これからはあなたの事を変態騎士とお呼びします」


「断る!!」



 キグナス王にどう報告すれば良いのやら……。

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