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シグルド/伝説の鍛冶職人②

 カジオーの工房の地下へと下った俺たちの前に現れたのは厳重に施錠された扉だった。これだけ近づけば嫌でも禍々しい気配が伝わってくる。この扉の奥にクーデターに使われた準魔剣があるのだろう。



「そら開けるぞ」



 カジオーが開錠し扉を開けると、そこには壁に掛けられた多数の刀剣があった。数は100近くあるだろうか。それを見てローゼリアが目を丸くして驚く。



「うっそ……これ全部が準魔剣!? 私たちが苦労して集めて来た数よりうんと多いじゃんか!」


「うむ。それにどうやら、勝っているのは数だけじゃなさそうじゃのぉ。わしでも分かる程に質が桁違いじゃ」



 エストの言う通りだった。これらの準魔剣は今までのものと比べ物にならない程に高密度な気を放っている。まるで今までのものが全て試作品で、これこそが本来あるべき姿、とも思える出来だ。



「おめぇら、この剣の凄さが分かるのかい?」



 一番前にいるカジオーは背を向けたまま俺達に問う。



「分かりたくはないがな。いずれの刀剣もシンプルな形状でありながら武具として非常に洗練されている。簡素な造りだが武器としてみればどれも超一級品だ」



 惜しむらくは、人を取り込もうとすることか。それさえなければ優れた武具なのに。


 カジオーは俺に向き直りニヤリと笑う。



「おめぇ見る目あるじゃねぇか。俺の弟子になるか?」


「考えておこう。それより、何故この場所に準魔剣を?」



 見た所なんの仕掛けも無い普通の大部屋である。これだけの準魔剣を保有するのに向いているとも思えない。



「そらーな、『魔鎚』の加護が働いてるからよ」


「魔鎚?」



 腰の魔剣グラムがぶるっと震え、続いてリーヤが口を開いた。



「ダーインのジジイが言うには、あのミアが持ってたやつがそうらしい」


「じゃあ、あの大きな鎚が魔鎚なんですか? それをあんな小さな子が……」


「ばぁっははは!! 俺の娘は超が付く天才なのよ!」



 愛娘を褒められたカジオーは腰に手を当てて胸を反らし高らかに笑った。地下だから大声が反響して耳が痛い。



「それで、魔鎚の加護ってどういうこと?」


「『付与』っつーのが、魔鎚スピリタスの固有能力でな。どんなものにも自在に価値を与えることが出来るんでぃ。つまり、この部屋の壁はスピリタスの能力でこれ以上ない程に補強されてるってこった」



 なるほど、だからキグナス王もここなら安全だと言っていたのか。



「事情は分かった。確かにここに置かれている方が安全だろう。ただ、俺達はいずれこの準魔剣を回収しなければならない。今すぐにとは言わないが」


「持ってけ持ってけ。俺としてもおっかなくて持ってられねぇよ」


「話が早くて助かる。こちらの保管場所が定まり次第、また来よう」


「おうよ! そうでなくても弟子になるってんなら毎日来ても良いぞ」


「ふっ、考えておこう」



 俺達が地下から元の工房の階に上がると、再び鉄を叩く音が聞こえ始める。



「ねぇ、奥で鉄叩いてるのはミアちゃん1人?」



 ローゼリアの質問にカジオーは一瞬言葉を詰まらせてから答える。



「おうよ! 俺はよっぽどのことが無い限りは弟子はとらねぇからな。今はミアだけでぃ。アイツは筋が良くてなぁ。まだ10歳だってのに、もうスピリタスを使いこなしてやがらぁ」


「本当に自慢の娘なんですね?」



 そのロウリィの言葉に対し、いつも通りの高笑いをすると思った。が、カジオーはそうしなかった。



「あぁ。俺にゃあ勿体ねぇくらいさ。手に余るぜ」


「……カジオー?」



 俺の言葉にはっとしたカジオーが取り繕う様に高笑いをし、出口の扉を開けた。



「そんじゃあ、連絡待ってるぜシグルド」


「恐らく、弟子になる連絡じゃないがな」



 俺達はカジオーの工房を出た。戸を開け放った瞬間にひゅおっと風が吹き、リーヤが肌を擦りながら口を開く。



「うわ、外ってこんな寒かったか? 温度差ヤバすぎだろ。風邪引いちまうぜ」


「程よい肉付きのおなごが何を言うておる。その隠された豊満な」


「エストてめぇ撃ち抜かれてぇのか? あぁん?」



 ふよふよと飛行する小竜エストを追いかけるリーヤを横目に俺たちはこれからの計画を固める。



「準魔剣って、最終的にローゼリアさんの家に持っていくんでしょうか?」


「うん、厳密に言えばステルケンブルク家の宝物庫だね。ただ収納キャパが決まってるからまずは増築をしなくちゃいけなくてさー」


「なら私が術式を施しに行きましょうか? 無限とまではいきませんが格段に収納量が上がりますよ?」


「うっそ!? 願ってもない話だよ! じゃあひと段落したらお願いしようかな」


「はいっ! 分かりました!」



 どうやら、こちらも話がまとまったようだ。


 ただ、結局の所、近々起こるかも知れない戦の危機は回避できていない。その為には準魔剣の禍根を絶たなければならないが、根源である『サイナス』という男について情報を集めようにもサイナスという人物の数が多すぎてままならない。どうしたものか。



「シグルド様」



 俺を呼んだのは駆けつけた王宮の兵士だった。



「どうした?」


「キグナス王がお呼びです」


「キグナス王が? 有事か?」


「急務という程の事ではありませんが、シグルド様に依頼があると」


「依頼? 分かった、今すぐ向かおう」



 俺達は再び王宮へと向かった。

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