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イスルギ・リサ/【外伝】夢殺しを求めて②

 食堂の裏のぼろ宿。


 壁紙は捲れてるしシャワーの水もちょろちょろだし、カビの匂いが漂ってくる。気分は割と最悪だ。


 私は窓際で外の風景を見ているアルトに詰め寄る。



「アールートー?」


「ん? なんだ術師殿、怖い顔して?」


「怖い顔もするわよ! 歴代最低の宿を更新したわ!」


「そりゃおめでたい」



 けろっとした表情で窓の外を見ながら答えるアルト。ちょっと痛い目に遭わせた方が良さそうね。



「分かった、よぉく分かりました……杖はどこだったかなー」


「ストップストップ! 今日はそういうの良いから! リサにとっても大事な日になりそうなんだぜ?」


「大事な日? 誕生日はまだ先だけど?」


「誕生日じゃあない。とにかくベッドで横になって待ってろ」



 アルトはその部屋のベッドを指さす。恐らくかつては真っ白だったシーツが別の色に変色している。この斑模様も意図した模様で無いに違いない。



「まったく……後で詳しく話を聞かせなさいよ」



 私はベッドに腰掛け体の力を抜いた。そしてそのまま横になることなく仮眠を取った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「術師殿! 起きろ!」



 激しく肩を揺らされて私は目を覚ます。



「はぇ!? な、なによ突然?」


「動き出したぜ、奴が」


「奴?」


「夢殺しだよ」



 そのワードが出た瞬間、瞬間的に眠気が吹き飛ぶ。


 遂に奴が姿を現したのね……。



「……行くわよ、アルト」


「顔が怖いって術師殿。こういう時こそ肩の力を抜いて笑うもんさ。その方が女性はうんと輝くぜ?」


「ごめんなさいアルト。奴のことになると笑うことなんか出来ない」



 私達は急いで宿を出る。


 この短い間でアルトは何か手がかりを掴んだ。つまり、このままアルトについて行けば奴に会える……ようやくこの手で夢殺しを殺せる。


 すると、先行するアルトが私に問うた。



「なぁ術師殿?」


「なに?」


「この復讐が終わったらどうするつもりだ?」


「……私はこの半年間、姉さんの復讐の為だけに生きて来た。異世界からあなたを召喚してまでね」


「で、その後は?」


「……それは……」



 復讐が全てだった私から復讐が消えたら何も残らない。一体その先、何をすれば……。



「何を考えてるか当ててやろう術師殿。『これが終わったら自分には何も残らない。何をすれば良いか分からない』だろ?」


「え? なんで分かったの?」


「考え方が似てんだよ、あの人と。笑い方や、ふとした仕草までそっくりだ。あの人の生まれ変わりだって言われれば信じる程にな」


「……誰の事を言ってるの?」



 アルトは私のその質問には答えず、走る速度を上げた。



「リサ、この先には何がある?」


「大きな洞窟があるわ。寒さをしのぐのにうってつけな場所で冒険者がよくキャンプしてる」


「なるほど。奴にとっちゃ、洞窟ってのは寒さをしのげる以外にも大きな利点があんな」


「人目につかない」


「そういうこった。まぁそれだけ殺す場所に気ぃ遣ってる癖に皆殺しにせず律儀に『勇者だけ』殺してる辺り、良い趣味の持ち主とは言えねぇわな。錬金術師を殺さずに生かしているからこそ、この事件は明るみになった。自分で自分の首を絞めてるようなもんだ」


「殺人犯の考えなんてどの道理解出来ないわよ」



 私がそう言うとアルトは親指で自らを指さして言う。



「人なら俺も数えきれない程殺して来たぜ? 恐らく、夢殺しの何倍もな」


「え? そんな冗談は」


「冗談じゃねぇよ。世界が世界、時代が時代だったのさ」



 そこでアルトは立ち止まる。目の前には大きな洞窟が口を開けて私たちを待っていた。



「ここに奴が?」


「間違いねぇ。匂うぜ、俺と同じ人殺しの匂いが」



 その時、



『きゃあぁあああ!!?』



 洞窟内から女性の悲鳴が聞こえた。



「この声!?」


「まだ間に合う! 急ぐぜ術師殿!」


「えぇ!」



 私とアルトは火を灯して洞窟へと入ると、数十メートル先に別の明かりが見えた。



「あそこだ!」



 アルトが叫んだその先には、3人の人物がいた。


 一番最初に目がついたのは右手が赤く血に染まった男。


 そしてその男の傍らには、脇腹を短剣で刺されて横たわっている男性と、それを庇う様に覆い被さっている女の子。


 刺された男性はまだ息があるようだが、そのままではマズイ出血量だ。



「動かないで! ゆっくりとこっちを向きなさい!」



 私の言葉を聞き入れ、男は答える。



「あぁん? 俺としたことが見つかっちまったか。良い所なんだよ、邪魔しないで貰いたいねぇ」



 血に染まった男は私達の方にグルンと首を傾ける。


 その顔には見覚えがあった。



「あなた……あの食堂の!?」



 それは私達に情報をくれたあの男だった。

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