楯無明人/さらばキリアス、ようこそリヒテル
イスルギ領を出てから2週間が経った。
「キリアス、到着っす!」
ナルが高らかに宣言した。
俺たちの目の前にあるのは氷の家が乱立する町。この大陸の転移門はこの町にあるようだ。
「一先ず休憩にしましょうか」
「それじゃあ僕は母について聞き込みに行ってくるよ!」
ウィルは一目散に町中へと駆けて行った。その後ろ姿を見てイリスさんが口を開く。
「エストさんに関する有力な情報が得られれば良いのですが」
「結局、イスルギ領で分かったのはエストさんが来てたってことだけですからね」
エストさんは確かにリサさんに会いに来ていたことを証明することは出来たが、その目的、その後の消息までは掴めなかった。
「でもでも、ここで情報が得られなくても、王都なら何か分かるはずっす!」
「確かに、リヒテルはこの世界で最も人口が多い都市。目撃情報の1つや2つ、転がっているかもしれないわね。それに……」
「サイナスってやつの情報も、だろ?」
「えぇ」
カヤはそう言って拳を静かに握った。
「お母さんを呪った男、サイナス。居場所も不明。呪った目的も不明。でも、お母さんの呪いを解くには、その男を倒さなきゃならない」
「手伝うぜ、俺も」
カヤは目を丸くして俺を見る。なんだ、そんなに意外だったか?
「あなたがいるなら心強いわ……なんて言うと思った? 囮としては使えそうね」
「はいはい、囮でもなんでも使って下さいよっと。お前のその手の罵りにはもう慣れ」
「ありがとう」
「あ?」
カヤは俺から顔を背ける。
「……ありがとう、と言ったのよ」
「お、おう……どうしたんだお前? 熱でもあんのか?」
「な、ないわよ! 馬鹿!」
なんだコイツ、キャラ変わってね?
戸惑う俺にイリスさんが耳打ちする。
「カヤさんは嬉しいのです、一縷の望みが見つかったことが。それがどんなに困難でも、お母様の不治の呪いの治療方法が見つかった……それは紛れもなくアキトさんのおかげです」
「俺の?」
「はい。【慧眼】を持つアキトさんだからこそ出来たことです」
「……俺だから……出来たこと……」
あっちの世界には俺の居場所はなかった。
親もいねぇ。友達もいねぇ。彼女もいねぇ。
控えめに言っても、孤独だった。
だから、自分の存在理由が分からなかった。
だが、そんな俺でも、この世界なら意味を持てるらしい。
「アキトさんもとても嬉しそうですね?」
「えぇ、悪くない気分ですよ。人の役に立つってのはね」
と話していた最中、ウィルが大急ぎで戻って来た。
「有力な話が聞けたよ!」
「まじか! なんだって?」
「いまから11か月ほど前、ここの転移門から単身リヒテルに転移してるらしいんだ」
「11か月というとイスルギ領を出た直後ね。目的は不明だけれど、足取りは掴めたわね」
「うんっ! 探し回った1年間、何も情報が得られなかったのにアキト達の仲間になった途端この勢い。やっぱ何か持ってるのかも知れないね!」
癖なのか、ウィルは俺の手をぎゅっと握ってぶんぶんと振るった。もう流石にときめかねぇぞ、と内心強がってみながら俺はウィルの手を払う。
「そうと決まれば行きましょうか、王都リヒテルに」
カヤの言葉に、イリスさんが不安そうな声を漏らす。
「遂にリヒテルに……会えるでしょうか、ロウリィさんに」
その言葉に弟子であるナルが満面の笑みで返した。
「会えますよ! 師匠は必ずリヒテルにいるっす!」
「そうですよね。早く会いたいな……ふふっ」
俺たちが王都リヒテルに向かう目的はそれぞれ異なる。
カヤは魔王討伐の足掛かりとして。
ナルとイリスさんは六賢者ロウリィ・フェネットに会うため。
ウィルは行方不明となっている六賢者エストさんの手がかりを求める為。
そして俺は、この英雄王の剣の謎を製作者であるミア・ハンマースミスに尋ねる為。
一見ばらばらの目的だが、それらすべては何か一つの真実に収束している気がしてならない。直感みたいなもんだが。
「アキト、何をぼぅっとしているの?」
「あぁ、今行くよ」
俺は歩みながら愛剣に視線を落とす。
俺の能力がまだ不成熟なのか、【慧眼】の力を持ってしても光剣の発現条件は分からなかった。
そもそも何故、始まりの町エインヘルに突き刺さっていたのか。
そもそも何故、俺に抜くことが出来たのか。
そもそも何故、俺にしか聞こえない声を発するのか。
こいつについて未だに謎は多いが、その真実はきっと、王都リヒテルで得られるだろう。
謎って言えば、さっきも話した、リサさんを呪った男『サイナス』か。
術者を倒さなきゃその呪いは解けないって文言からすると、そいつはまだこの世界の何処かで生きているってことになる。何が楽しくてあんな残酷な呪いをかけたのか理解に苦しむが、看過は出来ねぇ。
サイナス討伐、パーティー最弱の俺に出来るとも思えないが、その時が来たら囮でもなんでも援護の一つくらいしてやるか。
「さぁ、転移の時間よ。舌を噛まないようにね」
「ばか、何度目だとおもへぶっ!?」
舌を噛んだ激痛と共に転移の感覚が俺を襲う。
――王都リヒテル。
転移門はそれぞれの目的を乗せながら俺たちを運ぶ。
全てが終わり、全てが始まるその大地へと。
俺たちの冒険は着実に、終わりへと向かって行く。
【アキト編】第4章後編……終幕
本作で第4章が終了します。
次の第5章で物語は佳境に向かいます。
が、その前に例によってキャラ紹介と外伝を挟みます。
キャラ紹介は明日公開致しますm(_ _)m
これからもチータレを宜しくお願い致します!




