楯無明人/さぁ冒険の旅へ
「この逆転合格は、その短剣のおかげだね」
「こいつのおかげ?」
「うん、アキトくんの所持品リストのそれが再審査対象になったんだよ。その結果、審査の結果がひっくり返ったんだね」
イスルギ・カヤが話に介入する。
いつも通りぶすっとしているかと思いきや、微かに口角が上がっている気がする。
「で、カッコカリというのは? 初めて聞いたのだけれど?」
「それが私にもよく分からないんだよね、前例が無いからさ。一度査定に落ちた人が復活合格するなんてこと自体が初めてだもん」
「でも、(仮)とはいえ冒険はできるのよね?」
「もちろん! 手形は手形だしね」
ほっ、と一息ついて俺を見るカヤ。
「その短剣に感謝ね。ひいては、挑戦させてあげた私に感謝なさい」
「その上から目線どうにかならねぇのか?」
「ふふっ、どうにもならないわ」
カヤは嬉しそうな表情のまま、ふいっと顔を背ける。
「カヤちゃん相変わらずクールだねぇ」
「これが私よ」
「あらあら、頑固なのも相変わらずだし。そこもまた、可愛いんだけどねぇ。ほれほれ」
カヤの頭をわしゃわしゃと撫でるシルフィーさん。怖いもの知らずか。俺がやったら殺されるだろうな多分。
「く、くすぐったいからやめてくれるかしら。弱いのよ」
「リサさんに似て、触られるのが苦手なんだね。で、いつここを発つの?」
「すぐに出るつもりよ。早く仲間を集めないといけないし」
お、なんかゲームの醍醐味みたいな単語が聞こえたんだが?
仲間集めて魔王討伐かぁ……魔法使いと剣士とヒーラーみたいなバランスタイプも良い。あるいは全員剣士みたいな脳筋パーティも良いだろう。
可能性は無限大……おぉ、すげぇテンションあがるな!!
「仲間集め! 最高じゃんか!!」
「うるさい」
くそ、コイツとの旅が長続きする気がしねぇ。
次の町までもたねぇだろ絶対。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルドを出る時、カヤはシルフィーさんにこう問うた。
「シルフィーさんあなた、この英雄王の剣について何か知っているようね? それを言わないのには何か理由があるのかしら?」
それに対し、シルフィーさんが目を見開いて驚く。
おい、俺のラブリーマイエンジェルのシルフィーさん傷付けたら許さんぞ。
シルフィーさんは目を泳がせながらそれに答える。
「えぇーっと、そのうち分かるよ。私がこの場で言わなくても冒険するうちに明らかになると思う。だから内緒ってことで」
「そう……なら良いわ」
カヤは振り返って入口へ歩みだした。
「あ、カヤ! 待てって! 今の質問ってなんだよ!?」
俺がカヤに追い付こうと歩み始めた時、シルフィーさんに呼び止められた。
「アキトくん」
「なんすか?」
するとシルフィーさんは真剣な表情に切り替えて俺に言う。
「アキトくん、その剣を信じて。その剣はあなたの思いに絶対応えてくれるから。冒険、頑張ってね?」
「はい!」
俺は、シルフィーさんに大きく手を振ってギルドを出る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なぁ、冒険者(仮)って何が出来るんだ?」
俺は防具屋で装備を吟味しながら、壁にもたれて退屈そうなカヤに問う。
「本来『冒険者』というのは勇者召喚で勇者にもなれなかった人たちがなる最弱のクラスよ。強力なスキルも持たず、ステータスも平凡。魔王討伐にこれっぽっちも貢献できなさそうな者たちの総称」
「既にちょっと泣きそうなんだが」
「泣かないの。一応、このクラスには他のクラスには無い特色があるわ」
「特色?」
「えぇ。簡単に言うと『何にでも成れる』それがこのクラス唯一無二の特色」
「おぉ!? なんかそれ、すげぇ最強っぽく聞こえるんだが?」
「でもそんな簡単な事じゃないわ。勇者になるには最低でも1つ、ユニークスキルを習得しなければならない。そして、ユニークスキルはどれもこれも習得困難なのよ」
俺は饒舌なこいつも珍しいなと思いながらプレートメイルをレジへと持っていく。
「ユニークスキルの主な習得条件は?」
「特定の魔物を倒すが主流ね。バハムート討伐で【竜殺し】とか、そんな感じ。でも今のあなたは彼らのくしゃみで死ぬわね。綺麗に木っ端微塵よ」
「木端微塵……なるほど、このままじゃ魔王討伐はど遠いのはよく分かった。だから仲間が必要なんだろ? 最初の仲間はさしずめ剣士か? 現状、前衛を担う奴がいないもんな」
「何を言っているの? 前衛なら既にいるでしょう?」
カヤが俺をぴしっと指差す。
「……は?」
「その伝説の短剣は飾りかしら?」
「飾りじゃないが……まじで言ってんの? スライム倒せない俺が前衛!? 洒落にならんぞ」
「それでもあなたにはやってもらうわ。この世界じゃ前衛を務められる人材が不足しているのだから」
「前衛が不足?」
「えぇ、魔術を学ぶ者が圧倒的に多いのよ。火は起こし放題で水だって作れる。戦う為じゃなく、生活の為に魔術を学ぶのよ。狩りだって弓矢で十分だし。わざわざ近距離武器を使う必要がないの」
「理屈は分かったが俺が前衛って大丈夫だと思うか?」
「まぁ無理でしょうね」
くっ、即答なのが腹立つぜ。
「だから、当面の間はあなたのレベル上げを意識しながら冒険しましょう。経験値を多めにもらえる魔物もいることだしね」
「メタル何たらとか、はぐれ何たらとか?」
「いいえ、巨大な猿よ」
「なにこの異世界」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あなたに伝えておくことがあるわ」
町を出てすぐ、カヤが相変わらず無愛想に淡々と言葉を紡ぐ。
「次に仲間にしたい人は実はもう決まっているの」
「へぇ、知り合いなのか?」
もう既に仲間にしたいって言ってるもんだから顔見知りなのかと思ったが。
「いいえ、会ったことは無いわ。ただ有名な人なのよ」
「は? 有名な奴を引き入れるつもりなのか!?」
「えぇそうよ」
得意げな顔をしているが……まさか真面目にそんなことを言っているのか?
「なぁ、どんなクラスか知らないが、そんなに有名な奴ならさ、もう他のパーティーに入ってるんじゃないか?」
俺の言葉を聞いてカヤはポカンという表情した。
「……これは誤算よ。急がないと」
カヤは焦った表情で駆け出した。
「あ、おい! 今更急いだって遅いって。てかどんな奴なんだよ?」
「ロウリィ・フェネット……クラスは『アイテムマスター』よ」




