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楯無明人/イスルギ領


 ――イスルギ家。


 この世界における二大貴族の1つで、錬金術師を数多く輩出して『いた』家柄。


 約20年前の魔剣戦役以降衰退の一途を辿っている、という所まで知っている。


 あとはまぁ、上層にいる人たちはやたら頑固な元錬金術師たちってことも聞いた。



 で。



 俺たちは今からそのイスルギが治める領地に足を踏み入れようとしている。



「次に戻って来るときは魔王メレフを倒した時、そう決めていたのだけれど」



 カヤがぽつりとそう言った。



「ごめんね、イスルギさん。僕のわがままで」


「あぁいえ、そういうことではないの。エストさんの捜索も私たちの大事なミッションよ。ただ、心の準備をしていなかった、というのが正直なところね」



 俺たちの眼前には古い建物が乱立している。


 パッと見ただけでここが魔術を扱う人たちの住んでる場所なんだと理解できる様式。魔法使いが主人公のシリーズ映画でこんな街並み見たな。



「目的を整理しましょう」



 カヤが俺たちに言った。



「丁度1年ほど前、エストさんがこのイスルギ領で消息を絶った。何故ここを訪れたか、その後どこに行ったのか、それを調べるのが私達のここでの目的。逆に、それ以外は必須でない」



 カヤのその言葉にイリスさんが続く。



「カストルさんからお母様宛の言伝を授かっておりますが……いかが致します?」



 カヤの母親であるイスルギ・リサに宜しく言っておいて欲しい、という社交辞令とも取れる言伝。ただ、義理堅いカヤがそれを無下にするわけもない。



「当然、伝えるわ。ただ、私ではない誰か……そうね、アキトにでもお願いしようかしら」


「なんで俺!?」


「私とあなたは一蓮托生。主従関係は一応、私が上。理由は以上」


「理由はそれだけです?」



 ナルの問いにカヤは顔を俯ける。



「……気まずいのよ。単純に」



 カヤは4年ほど前に家を飛び出して以降、ただの一度も実家には戻っていないらしい。母親の近況などは人伝に聞いていた様だが、実際に会うのは出て行ったその日ぶりの様だ。



「扉の前で判断するわ。それまでは考えさせて」



 親と会うってそんな身構えることなのか。親のいない俺にとってはよく分からん感情だが、無理言って対面させるのもなんか違うよな。



「わーったよ。もしお前が会いたくねぇって言うんだったら、俺が伝言でもなんでも言ってやるよ」


「えぇ、ありがとう」



 そうこうしているうちに最初の目的地に到着。



「領内の情報の一切は、ここに集約されるわ」



 そこは馬鹿デカい図書館だった。



「いつ誰が領地に入ったかはここで調べられるわね」


「つまり、母がここに来ていたという情報の裏はここで取れるってことだね」



 頷いたカヤの後ろについて中へと入る。中は全部で8階層になっていて、膨大な量の書籍が納められていた。



「すごい本の量っすね。これ、全部読んだらどれくらいかかるんです?」


「全部で億を越える冊数があるわ」


「というと、一冊30分でも……途方もない時間がかかりますね」


「そう考えると、人間の一生の短さを痛感するわね。そんな話は置いておいて」



 カヤが受付の女性に歩み寄り声をかける。



「来領履歴、出せるかしら?」


「はいもちろん。……あれ? もしかして、カヤちゃん?」



 さすがは有名人、即バレ安定か。



「……人違いよ」


「あ、そうでしたか。すみません」



 あらー誤魔化しちゃう辺りが何とも言えねぇな。



「それで、どなたの来領履歴を調べますか?」


「エスト・カエストス」


「エストってあの、六賢者の?」


「えぇ、出るかしら?」


「少々お待ちください」



 受付の女性がバックヤードに引っ込んで数分。



「こちらですね」



 その女性は巻物の様な紙を持って来た。



「確かにエストさんはここに訪れています」



 その女性にウィルが飛びつく。



「領内での行先はどこなんですか!?」


「あ、その、えっと……」



 距離が近かったからかその女性はウィルに対して顔を赤く染めている。


 やっぱ知らない奴から見ると美男子カテゴリーなのかあいつ。


 同性をキュンとさせちまうとは、ある意味罪な女だな。



「え、エストさんはですね」



 受付の女性は咳払いを挟んで俺たちに告げる。



「1年ちょっと前にリサさんの元を訪れています」


「……え?」



 と言ったのはカヤだ。俺たちも声にこそしなかったが目を丸くして見合わせるほどには驚いた。



「もう一度、確認の為に聞くけれど、エストさんが訪れたのは3番街17番地の家で間違いないのね?」


「あ、はい。そこにお住いのリサさんの元を……って、よく住所が分かりましたね?」


「ありがとう、失礼するわ」



 カヤは慌てて出口の方へと歩いて行った。


 俺たちは受付の方に一礼してその後を追う。



「なぁおい! どこに行くんだ!?」


「決まっているでしょう? 私の家よ」



 そして俺たちは、イスルギ・リサと邂逅することになる。

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