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アルトリウス/【外伝】力無き日々⑤

 アヴァロンにおける処刑の方法は至ってシンプル。


 首を刎ねて終いだ。



「お前が斬るのか」



 処刑場の中央に立っていたのは同じ隊の男、ガロードだった。


 俺は自分の首筋を指差して口を開く。



「ここ、ちゃんと斬ってくれよ? 苦しむのは嫌だぜ?」


「アルト……すまなかった。俺だけでは誤魔化しきれなかった」


「泣いてんじゃねぇよ。お前は悪くねぇ。……悪ぃな、最期まで面倒かけちまって」



 俺は両手を縛られ、座った姿勢のまま台に固定される。


 俺の周りには貴族の奴らが遠足気分で数多く集まって来ていた。娯楽がてら首ちょんぱの瞬間を見に来るとは、大した趣味を持ってやがる。



「お集まりの方々。ここに縛れている罪人は……」



 あぁ、あとは首を刎ねられて終わりか。出来ればこんなむさ苦しい男じゃなくて美女に斬って欲しかった……なんてな。


 輝かしい俺の人生に相応しくない、呆気ない最期だぜ。


 

『アルトリウス、お前の夢はなんだ?』


『夢だぁ? 考えたこともねぇよ。そうだな……美女に囲まれて至れり尽くせりな生活、とか?』


『真面目に聞いた私が馬鹿だった』


『大真面目だっての! 上官殿は?』


『私の夢か? そうだな……アヴァロンが平和に暮らせる国になること、かな。叶うと思うか?』


『んなもん、俺がいりゃいつかは叶うだろ』


『ふふ、大した自信だな。その言葉に甘えて叶えて貰うとしよう。頼むぞ、アルトリウス』



 ……最後に思い出すのは、やっぱり上官殿か……我ながら単純だな。



「これより、反逆者アルトリウスの処刑を執り行う。……執行!」



 大臣のその合図で男は剣を振り上げる。


 

「あとは頼むぜ、ガロード」


「……アルト……」


「上官殿……今から俺も、あんたの所に」



 俺は覚悟を決めて目を瞑ると、ひそひそと話している声が聴こえた。



「命に背くなんて、王の寵愛を拒んだあの女准将も愚かだったが、その部下も愚かだったか。2人とも処刑されて当然だな」



 俺は目を開け声の主を確認する。


 その声の主は、大臣だった。



「……ギネビアも……処刑、だと?」



 驚きを隠せない俺に、ガロードは剣を振り下ろす。



「ふんっ!」



 その剣は俺の首を斬り落とすことなく、器用に縛られた紐だけを切り裂いた。



「ようやく……聞けたぞ……よくも姉を……ギネビア姉さんを手に掛けたな!」



 ガロードは憤慨して剣を大臣に向けていた。



「ガロード!? お前……上官殿の……弟?」


「そんな話はいい! 逃げろ! 俺はあのクソ野郎を殺す」



 ガロードは大臣に剣を向けるものの、既に複数の兵士に護られていた。



「無茶だガロード!」


「無茶でもやるんだよ! ギネビア姉さんは奴に殺された! 誰よりもこの国を愛し、この国の為に尽くしたのに! あの腐った野郎のせいで……グゥッ!?」



 乾いた銃声が響き、ガロードが倒れる。



「ガロード!?」



 駆け寄るとガロードの胸からはおびただしい量の血が流れ出ていた。


 的確に急所を……同じだ、ギネビアの時と。



「アルト……お前は、逃げろ」


「ガロード!!」



 ガロードは俺の腕を掴む。


 よせよ……同じじゃねぇかよ。



「姉さんは……言っていた。好きな……男が、出来たと」


「ギネビアが……そんなこと」


「あの姉は、素直じゃない、からな……ごふっ! それが、お前だって分かった時、俺は嬉しかった……はぁ……ぐっ」


「おい! ガロード!」



 ガロードはゆっくりと目を閉じる。



「アルト……姉さんに、戦う以外の生きる意味を与えてくれて……ありが……とう」



 そしてガロードは息絶えた。



「……ガロード……」


「くくく……姉も愚か、部下も愚か、終いには弟も愚かだったか」



 護衛に取り囲まれている大臣がそう言った上で、こう続ける。



「過ぎた力はリスクなのだ。刃向えば己の身を滅ぼす。首輪を拒む者はこうして摘まなければならない。あの戦女神も大人しく命を受け入れればこうはならなかったものを」


「……ふざけんなよ」



 俺はガロードの剣を拾い、握る。



「女性を物みてぇに扱いやがって……上官殿は……ギネビアは、俺の知る限り最もこの国を想って戦ってた人だった! 自分を道具だって戒めて! 誰よりも幸せになんねぇといけねぇのはああいう奴なのに……!!」


「兵は道具だ。物みたいに扱って何が悪い?」


「……もう、いい……いま行く、そこで待ってろ」



 俺は友の剣を手に大臣へと駆けた。



 ――俺の記憶は、そこで途切れている。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「私が召喚した時、あなたは血まみれだったわよ」



 隣のテントで寝ているリサが俺に言う。



「それも、自分の血じゃなく返り血でね。お取込み中だった?」


「あぁ、一世一代のお取込み中だったぜ」


「それはごめんなさい。詫びるわ、この通りよ」



 絶対頭下げてないだろ、と心の中で呟く。



「もう寝るわね。また明日」


「ん、あぁ、おやすみ。術師殿」



 俺は今後、ここで生きていく。


 あんとき大臣をしっかり斬り伏せたのか、それは今となっちゃ分かんねぇが、この際考えてもしょうがない。


 大事なのはこれからのことだ。


 もう俺の傍で誰も死なせるわけにはいかねぇし、今の俺にはそれを成しえる絶対の力がある。あの日の俺には出来なかった事が今の俺には出来る。


 だから今度こそ。


 今度こそ、パートナーを守ってやらねぇとな。



 あんたもそうするべきだと思うだろ? なぁ、上官殿。



 アルトリウス【外伝】力無き日々……終幕

以上、アルトリウス外伝でした。


転移キャラの転移前も描きたくてせっかくなので書いてみました。蛇足だったらすみません(汗)


次回はアキト編4章後半が始まります。


ウィルを仲間に加えイスルギ領に足を踏み入れた所から始まります。


これからもチータレを宜しくお願い致します!

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