表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/516

ローゼリア/事の顛末

「合併することにしたんだって」



 ひと段落した後、シルフィーがそう言った。



「シーラムの長老が裏で色々やってたのも公になったし、平和的解決案としてパロムの長老がそうしようって」


「賛成じゃな。それで、合併した集落にギルドを建てるとな?」


「そういうことですね。これで私の仕事もひと段落だぁー」



 ぐいっと体を反るシルフィー。



「ってこたぁ、シルはまたエインヘルに戻っちまうのか?」


「うん、あっちの仕事も溜まってるし急いで戻らないと」


「このまま私たちの旅についてきちゃえば良いのに。シルフィーがいたら大幅戦力アップだよ!」


「そうしたいのはやまやまなんだけどさぁ、当面は動けなさそうなんだよねぇ。有給は余りまくってるのに」



 その時、ぴぴぴっとシルフィーのポケットでアラーム音が鳴った。



「ほら催促がくるぅー……私は馬車馬じゃないですよーっと」



 シルフィーはポケットからある物を取り出し、放り投げる。



「よいしょ!」



 あれはギルド所属の人間にのみ所有を許された『簡易転移門』だ。


 都度1名しか通れないけど決められた場所を瞬時に行ったり来たり出来る、超激レアアイテムである。



「それじゃあ私はエインヘルに戻るね? 何かあったら連絡ちょうだい」



 それにいち早く答えたのはどこからともなく駆けてきたアルトだ。



「必ずや! 明日にでも連絡をしよへぃ!?」



 例によってリサに後頭部を杖で殴られる。



「術師殿!?」


「この性欲お化けが! どうしてもっと節操を持てないの!?」


「俺の眼が黒いうちは節操など無縁だね」


「じゃあ死ねば直るのね? 消してあげるわ」


「ちょっ!?」



 逃げるアルトを追いかけるリサ。


 あっちはなかなか大変そうだなぁ。



「シルこそまたいつでも連絡してくれよ」


「うんっ! 全部終わったらまたみんなで遊ぼうね! あぁそうだ!」



 シルフィーは私にある物を手渡した。



「これがあればエインヘルまではすぐ戻れるから。あ、ギルドの人には内緒だよ? ばれたらすっごい怒られるんだから」



 それは『簡易転移門』だった。


 外見は輝く小さい玉だ。



「え、いいの!?」


「うんっ! いつでも帰っておいでね? じゃあね!」



 シルフィーはそう言ってエインヘルに転移していった。


 次はいつ会えるだろう? 楽しみだな。



「私達も行きますね」



 と言ったのは追いかけっこから戻って来たリサである。


 右手には気絶したアルトを引きずっている。


 自業自得だから同情の余地も無い。



「リサはどこに行くの?」


「目的地は無いわ。ある人を探しているの」


「ある人?」



 私がそう問うた瞬間、リサの表情が見たことのないものに切り替わる。


 とても冷たく、さながら悪魔の様な怖い表情だ。



「……この際、聞いておくのもありね。最近、錬金術師とその勇者を襲っている男がいるという話、聞いたことはない?」



 リサはその怖い表情のまま私たちに問う。


 シグルドはもちろん、私とロウリィちゃん、リーヤは一斉に首を横に振った。


 が、よく里の外に出ていたエストには心当たりがあったようだ。



「『夢殺し』、と呼ばれる男の噂じゃな?」



 エストの言葉を聞いてリサは血相変えてエストに詰め寄る。



「そう! そいつはどこにいるの!? 教えて!」



 余りの必死さにただ事ではないことを理解する。



「詳しくは知らん。じゃが、最後に噂を聞いたのはイスルギ領南部のミリアという町じゃ」


「イスルギ領……燈台下暗しだったわけね……」



 リサは真剣な表情のまま頭を下げる。



「有難う、エスト。これは有力な情報よ」



 そう言って彼女はアルトを持ったまま振り向く。


 私は彼女のその寂しそうな背中に声をかける。



「リサ! あんたはその『夢殺し』という男をどうするつもりなの?」


「……見つけ次第」



 リサはゆったりとこちらを振り向き、冷たい表情のまま告げる。



「確実に、殺す」



 その言葉を最後にリサはシーラムを去って行った。



「……リサ」


「やつも訳アリってこった。旅をしてればまた会うこともあんだろ。そんときゃまたダチとして接すれば良い」


「うん、そうだね。私たちは私たちで早くリヒテルに向かわないと」


「だがローゼリア、これはどうすれば良い? ちょ、は・な・せ!」



 シリアスな雰囲気の中、シグルドが困った様な声をあげていたのでそちらを見ると、シグルドが多数の獣人女性に囲まれていた。



「是非、私の婿に!」


「いいえ、シグルド様は私のものよ!」


「絶対渡さないわ!」



 あぁーあ、なにやってんのよ。



「ちょっとぉおお! なにべたべたしてるんですかぁ! ずるい! 私も混ざります!」



 と言って、ロウリィちゃんが獣人の群れに突撃する。あの子も大変だなぁ。



「ふむ、やはり愛は一方通行では成立せんということじゃな」


「受ける側と与える側、シグルドとアルトの野郎は真逆だが、腑に落ちる言葉だぜ」


「はぁ……今回の1件で得た教訓だね、それは」



 気を取り直して私たちは再びリヒテルへと足を向ける。



 準魔剣と繋がりの深い場所、王都リヒテル。


 全てはそこから始まり、そこで終わることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ