シグルド/魔剣グラムの能力
「いやー負けた負けた」
アルトリウスが俺の元へとやって来た。
「すっげぇ悔しいけど、この状況は負けを認めざるを得ないな。一筋縄じゃいかないところがまた燃える」
それにリサが続く。
「アルトの変に女慣れしてる所に嫌気がさしたんじゃない?」
「女性に慣れてることのどこがいけないのさ? 女性には優しく、自分には厳しく。これが俺のモットーだよ、リサ」
「どーでもいい、心底どぉーでもいい」
やれやれという仕草をしながらリサはローゼリアに歩み寄る。
「内容はどうあれ、クロノス。またあなたには負けてしまいましたね」
「いやいや、私ほぼなんにもしてないし。それに『クロノス』じゃなくて『ローゼリア』って呼んで欲しいな。あるいは『ロゼ』とか。ほら、もう友達みたいなもんだし」
リサは目を丸くして少し顔を染める。
「え、えっと……ローゼリ……ア?」
「うんっ! よろしい!」
そんな和気藹々とした雰囲気の中、怒号が飛ぶ。
「認めんっ!」
そう言ったのはシーラムの長老だ。
纏っている気が明らかに先ほどまでとは異なる。
「儂の酒池肉林の第一歩を邪魔しおって……!!」
長老は懐から短剣を取り出し、自らに刺した。
「シグルドさん! あの剣!」
「ここにもあったのか、準魔剣は」
次の瞬間には長老は大きな悪魔へと様相を変えた。
「なんじゃあの爺さん、預言者の小娘と同じ化け物じゃったか」
エストが魔拳と聖拳を取り出そうとすると長老だった悪魔が何かを摘んで取り出した。
「ストップストップ! 私達がここにいまーすぅ!!」
「ちっ、めんどくせぇことに巻き込まれちまったぜ」
それは檻に入れられたリーヤとシルフィーだった。
「シルフィー!? リーヤ!? なんでそんなことに……てかそんな檻、あんた達なら破れるでしょ!?」
「あぁ。だが、人質が他にもいる」
リーヤは親指で長老の家を指さす。
「あたしらが変な動きをしたらあの家はぶっ潰されるってよ。変に手出しは出来ねぇ」
エストはそれを聞いて武器を納めた。
「単純な策じゃが、効果はてき面じゃな。さてどうしたもんかのぉ」
「どうするも何も」
「どっちも救うに決まってんだろ? 女性の危機は見過ごせないさ」
俺とアルトリウスは同時に剣を抜く。
「アルトリウス」
「アルトで良いぜ」
「……アルト、策はあるか?」
「そんなもんはねぇ。ただ力でねじ伏せるだけさ。女性を盾にする下賤な輩には天罰を下さないとな」
「同感だ」
俺たちは剣を構える。
……キールと肩を並べて戦った時のことを思い出すな。
「シグ、準備は良いか?」
「勝手に略すな。いつでも」
「よぉし、天罰の時間だぜ」
俺とアルトは同時に悪魔へと接近する。
悪魔は大きな尾を振り上げ、人質のいる家に目掛けて振り下ろす。
「そんなこと、私が許すと思った? アトモスフィア」
バチン、っとリサの魔術の盾で尾が弾かれる。
「さすが術師殿! 惚れるぜ」
「軽口は良いから早くやっつけて」
「はいはい!」
ぐっとアルトが加速。
そのままゆったりとエクスカリバーを振り上げる。
「よいしょっと!」
アルトの一閃は悪魔の左手を斬り落とし、リーヤとシルフィーの入った檻が落下する。
「ちょ、受け身の準備出来てねぇっての!?」
「落ちるぅうう!!」
それをキャッチしたのはエスト。
「あぁ!? 俺が王子様的に華麗に受け止めようと思ったのに!」
「ふっはは! 甘い甘い、恋でも何でも早いもん勝ちじゃよ若造」
アルトのあの一撃、とてもじゃないが腕を切り落とす勢いではなかったが……そういうスキルか?
なにはともあれ、人質は救出完了した。
あとはあの悪魔を屠るのみ。
「ローゼリア、ロウリィ、援護を頼む」
「まっかせて!」
「はいっ!」
俺はグラムをぴたりと構えた。
その時。
――シグルド・オーレリア。
名前を呼ばれた。
その声は俺の手元から伝わってくる。
――我の声が聴こえるか、シグルド・オーレリアよ。
(この声、グラムか?)
――左様。我が名はグラム。ようやく対話が果たされた。シグルド・オーレリア、我の力を使え。
(お前の力?)
――左様。始祖の魔剣たる我の力、存分に振るうがよい。
(感謝する。力を借りるぞ)
意識が戻ると共に手に持っていたグラムから黒いオーラが吹き出した。
「え、グラムが大変なことになってるけど!?」
「シグルドさん、それ大丈夫なんですか!?」
「あぁ、これがこいつの力らしい」
俺はその力の名を口にする。
「始めるぞ、グラム。『同調』……【灰燼】」
刹那、グラムから爆炎が上がる。
「シグルド、この力ってまさか!?」
「火属性スキル【灰燼】の炎を剣に纏わせた。グラムの固有能力は『同調』。俺のスキルを剣に反映させる能力」
グラムを振るうと炎が追随し、空気がユラユラと揺らめく。
この馴染む感じ、悪くない。
「見かけ倒しじゃないぞ。燃え散れ」
俺は炎を纏ったグラムを振り上げる。
振り上げると同時に業火が悪魔を包み込み、次の瞬間には跡形も無く消え去った。
「これは……凄いな。またよろしく頼むぞ、グラム」
――いつでも。
俺はグラムを鞘に納めた。




